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アルヴィナ・ブランシュと疑惑の銀龍(side:アルヴィナ・ブランシュ)

 「アルヴィナ」

 ボクに、姿を見せた兄が語り掛ける。

 「何、お兄ちゃん」


 「……気が付いているか」

 問いかけはシンプル。でも、ボクならば分かる。空虚な器、その意味にも。

 「居るはずがない」

 「あの時、トドメを刺さなかったのか?」

 「そんなはず、無い」

 ボクは首を横に振る。路地裏の暗がりで、ふるふると耳が揺れる。


 「一度殺しても生き返る。それは分かる。でも、ちゃんと皇子とボクと、二人で2回トドメを刺したはずだった。だから、生きてるはずが無い」

 「2度では死ななかった、ということか?」

 「……理屈的には、無理。死は死……の筈」

 こてん、と小首を傾げるボク。あの日、確かにボクは皇子の為にあの変なのにトドメを刺した。そのはずだった。確かに、ボクの顎には噛み千切った時の感覚がまだ染み付いている。

 ……ボクが、初めてこの手で殺した相手だから。


 「中々、面白いことを話しておるの?」

 そんな沈黙を破るのは、落ち着いた高い声。声音は幼く、響きは老獪。歪んだその資質が、耳障りでならない。


 「……貴様」

 お兄ちゃんも、同じ気持ちなんだと思う。黒い翼を拡げ、威嚇するようにその目を細める。

 そんな姿も格好いいけれど、とボクは首を傾げた。昔はもっと、安心感を感じていた。でも、今は少しその背中に、翼に、引っ掛かりを覚える。脳裏に焼き付いた炎の翼が、違和感を生み出している。


 「用は、何?」

 警戒心を強めるお兄ちゃん。グングニル?という槍すら出しているのが見える。後ろ手だし、結晶槍だからパット見分からないけれど、影から柄を出しているから何時でも展開出来るはず。

 それに、あの槍は……永遠を超え、神をも討つ為の命の叫び。あの龍も無事では……

 済む。済んでしまう。それに、ボクは皇子を裏切らない。


 だから、大人しめに、敵意を見せずに、犬歯を鳴らしつつ語り掛ける。

 それに対して、金翠の歪んだ双眸は、その金の瞳でボクの金瞳を見返してきた。


 ……

 「お兄、ちゃん」

 「……用件だけを告げろ、さもなくば」

 ボクの震えを見て、翼を更に拡げるお兄ちゃん。それに対し、更にキツく己の銀翼を閉ざす毒龍。

 「儂が来ては、いかぬのかの?」

 「呼んでない。お呼びじゃない。あーにゃんを狙う気か知らないけれど」

 皇子、とは言わない。ボクを信じきった彼が信じるのだから、皇子に関してだけは信用してあげる。


 でも、他は別。だって、ボクがそうだから。

 あーにゃんに嫌われる事をしない、皇子の信頼に応える。だから、人を傷つけることはしない。それがボク。

 2人が止めないならば、どうでもいい……とまでは、もう言わない。面倒な桃色とか、少し考慮してあげても良い。

 でも、それくらい。静かに睨み合う2つの金眼は、同じ事を告げているようにしか思えないから。皇子が怒るけどそれで済む範囲なら、完全に見捨てる選択を取らないなら……止まる必要性を感じないに決まってる。


 それを、あーにゃんは理解しないと思う。知ってても、信じてしまうと思う。

 だから、威嚇。


 「……儂が居ては、困るのかの」

 「困る」

 「言いおるの」

 どこまでも、静かに言葉が紡がれる。

 ふぁさっと、黒羽が舞った。


 「大人しく帰れ。あの人間に見咎められぬうちにな」

 「帰れ」

 が、ボクたちの言葉に、龍は応えない。反応もない

 「……何を理解しておるのかの?」

 「嫌われる前に、帰れ。少しは信じてやった私が馬鹿になる」

「……成程の」


 悪寒が、走った。

 思いつきで倒れ込む。ボクの引いた袖に合わせてお兄ちゃんもカラスの姿になって倒れてくれる。

 その頭上を、謎の光が貫いた。

 「……理解しておるよ、総てを。

 あれが、儂の願いと。叶わぬ夢幻として、()が今の亡毒となる遥か昔に終わった……幼き日の無知(ユメ)のみが信ずる妄言(りそう)とな。故にの、最早今更語ろうが意味などないと解し目覚めるその時まで、ユメに浸らせてはくれぬのかの?」 

 口調は変わらない、表情は眉一つ動いていない。動いたのは、着込んだボクが欲しい上着の袖に覆われた指先一つ。


 「答えに、なってない」

 翼は閉じられている。毒は抑えられている。なのに、視線だけで恐ろしい毒が周囲一帯を腐していく。もしも単なる人間がたまたま路地に入れば、たちまち狂ってドロドロの何かに成り果てるだろう。原型は、理解しようがなくなる。

 あの仮面の男?(久世・ラーワル)のように。


 ボクだって、怒る。皇子について理解しているのは言い。妄言というのも納得。魔神と分かっていて、魔神は原作ゲーム?とやらで敵だと理解して、それでも尚ボクを自分の見た直感で引き込んだ時点で正気じゃない。正気でゲーム知識とやらを頼りに来る輩に、ボクではなく自分の知識を信じる馬鹿に懸けてあげる義理なんてない。

 でも、これは違う。ボクは信じた、コイツは信じてない事を誇っている。ならば相容れないに決まってる。


 皇子に、内心で謝る。実際会ってみたら、これは無理。

 「お兄ちゃん、行こう」

 「アルヴィナが望むならば」

 電光一閃、槍が……


 ボクの眼前の影を、貫いた。

 「白き玲明(マリス)魔を嘆き路照らさん(クルセイダーズ)

 どこまでも静かに、朗々と響く声。

 お兄ちゃんは静かに、ボクを何時もと同じ顔で、同じ表情で、皇子にすら向けたことのない何よりの敵意を讃えて、見つめていた。


 「お兄、ちゃん?」

 「いきなりどうしたんだアルヴィナ?」

 「お兄ちゃんこそ、何を」

 「アルヴィナ、あの紫銀龍はいった……散れ」

 振るわれる結晶槍。ボクの背後の仕込んでおいた背後霊みたいな骨の外骨格を粉々にされ、侵食される前に切り離す。


 「……何?」

 「語ったろう?疑問にくらいは答えてやっても変わらぬであろ?」

 「何の」

 ……実はこれに意味はない、分かってる。


 「三首六眼、我が一部にして力の片鱗。興味はないが故に完全に消えてしまえば使えぬとは思うがの?

 ……よもや、己の眷の目覚めた心が生ずる特異な力一つ、儂自身が使えぬとは思ってはおるまい?

 鉄瞼に閉じ観よ(アーキタイプ)己という夢跡を(セントリフュージ)

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