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ダブルデート、或いは投げられた一石

「あ、ゼノ君だ」

 覚悟を決めてアナと出かけてみれば、王都の一角でそんな声を掛けられた。

 これはリリーナの声かと振り返ればやはり其処には桃色髪の少女が居た。横に黒髪の少年を引き連れて、だ。

 

 「リリーナにオーウェンか」

 珍しい組み合わせ……じゃないなと苦笑する。特に仲が良いのは知っているが、ゲーム的には何だか横に居るのは別人感があって未だに少しの違和感が拭えない。

 「あ、おはよう御座いますリリーナちゃん、オーウェン君、そして……ロダキーニャさんもですか?」

 「おっと、俺様無関係よ?合流するなら帰るぜ?」

 「離れての護衛か?悪い」

 「ま、信用はあれど信頼は無く、時にはお邪魔虫も必要なのよ」

 ひらひらと手を振る白桃の青年。まあ、桜理だけじゃあ何かあった時に……使わない覚悟を捨ててAGX-15を呼び起こすくらいやらないと時間稼ぎすら出来ないからな。護衛は必要だ。

 

 「……良いのか?」

 だが、今回はアナに連れられてる訳で。決定権を持つ少女に問い掛ける。

 が、返ってくるのは微笑みだ。

 「元々、今日はアルヴィナちゃんも誘いましたから平気ですよ?」

 

 あ、デートの気持ちでは無かったのかと少し心が楽になる。

 「あ、ゼノ君そんな顔しちゃうんだ」

 「得意なのはあるものを守るくらいだからな、パーティなんかも苦手だよ」

 「それも、遠くの人だけね?」

 桜理にぼそっと呟かれてしまうのはそんな言葉。

 それは自覚しているが……だとしても、とアナに取られていない方の手を握り込み顔を顰める。誰かをこの手で幸せにするなんて、おれに出来るかという話だ。ある幸せなら、守ってみせるが。

 

 「ま、まあ……やめよ?ゼノ君困ってるよ?」

 なんて助け舟に助けられ、会話は途切れた。

 

 「それで、リリーナ達は何を?」

 「そう、そこで聞きたいことがあったんだよゼノ君。ほら、ゼノ君って学園祭でも舞台の人達と交流があったしさ?」

 軽く頷くおれ。

 「なるほど、天津甕星として演出に舞台演劇的なものを取り入れたい?」

 「あー、そういう2.5次元な話もありかもしれないけど最初はそうじゃなくて」

 「にーてんご?」

 こてん、とアナが首を傾げる。

 

 そうだよな……そもそも、この世界だと絵などを二次元と、そして世界を三次元と呼ぶ文化が無い。だからアニメ等の二次元世界を三次元のリアルの役者達が再現しようとする2.5次元って言葉もないんだよな……

 

 「物語の人達を、アステールがやってるような紙の上での再現じゃなくて実際の人がやろうとする形、かな」

 「うんうん、ゼノ君物知りだね。この世界でもそんな言葉あるの?」

 ……誤魔化すか?うっかり解説してしまった言葉に眉を動かさないようにしつつ相手を見る。

 桃色少女はおれに向けてのほほんとした表情。おれが真性異言って未だに気が付いてない。ならば……騙すことにはなるが黙っているか?

 昔は相応に利があった。今は隠していることには……正直そこまで意味はない。情けない昔を知られない事くらいだろうか、って完全に自分だけだなこの発想。

 

 「あ、僕が学園祭で展示や魔神剣帝の劇について言っちゃったから」

 だが、悩むうちに助け舟。渡りに船だ。

 「あー、桜理君から聞いてたんだ」

 うんうん、と少女が頷き、アイドルっぽくしない時は完全にはツインテールに纏めきられていない髪が揺れた。

 

 「それでね、アーニャちゃんには今日話して……、あ、まだだった」

 おれの横で銀の髪が揺れる。

 「はい。皇子さまがまたまた無茶しちゃいそうなので、早くからノアさんに居場所を聞いちゃいましたから」

 「朝からもう居なかったもんね。

 だから今言うんだけど……ほら、ゼノ君って学園祭で子供たちの面倒見てたよね?」

 「騎士団の親が犠牲になりかけていたあの子達か」

 未だに、被害報告はある。いや、寧ろ今は少し前より少ないと言える程だ。

 AGXが立ち向かったという脅威……この世界に呼び込む者がいる以上止むはずもない。

 

 って点だと、減ったのは何故だろうな?主に竜胆を追って現れるっぽいし、あいつが何らかの手段で逃げてるからか?

 その辺りは今度アステールか或いは現れたら本人に問い質そうか。

 

 「何かあったのか、容態の急変とか」

 「あー、そういうのじゃなくて、羨ましいし騎士団の鼓舞にもなるしって私達へ慰問ライブみたいなこと出来ないかなって話が来たらしくて」

 ……初耳だ。

 

 「アイリスちゃんが見てた資料、それだったんですね」

 「そう、お兄ちゃんなら絶対にいいと言うからってもう印まで押されてて、決まったことになってたみたいなんだよね」

 不満はないけど、と少女は緑の瞳を輝かせる。やる気に満ちているな、本当にそういうの好きなんだろう。

 

 「あ、向いてるかな?って顔。

 私さ、アーニャちゃんって別の聖女も居るし不安もあったし大人しくしてただけだよ?」

 「知ってるさ」

 「ってことで、ライブがあるんだけど……そこのセトリとか決めつつ、前と同じじゃ面白みがないからって桜理君の意見を聞きつつ衣装をアップデートしようかなって」

 「あはは、僕でいいのかな……センス」

 不安げに頬を掻く少年の肩をおれは叩いた。

 「おれよりマシだ」

 

 「ってことでさ、ゼノ君の意見も聞きたいなって。

 それに、ゼノP……じゃないせど、発足から手を貸してくれたし劇経験も多いから、寸劇みたいなものを考えたりも手伝って欲しいなって」

 その言葉に、おれは遠くを見た。

 

 「そういうのはエッケハルトに頼んだ方が良い。向いているからな」

 「んー、隼人君?私結構苦手なんだよね、彼」

 が、返ってきたのはそんな意外な言葉。

 

 「苦手な要素あるのか?」

 思わず尋ねてしまう。直後にそういえばというのは思い至ったが……何だか違うな?

 「まあ、グイグイ来る男の子は苦手なんだけど、そこはアーニャちゃんしか見てないから平気でさ」

 即座に思いつきは否定された。

 

 「そうじゃなくて、単純に嫌で苦手」

 「そうかな?僕は平気だけど」

 「おれも平気だ。寧ろ色々と言ってくれて助かってる」

 「そこだよゼノ君」

 が、擁護に強い語気の反論が飛んで来て、思わず目を瞬かせた。

 

 「皇子さま、ちょっと痛いですよ?」

 うっかり反射的に手を握ってしまい、繋いだままの白い指を強く抑えてしまって思わず手を広げる。

 が、少し朱が入っても少女は絡めた手は離してくれなかった。

 「悪い、アナ。それにしても、何が問題なんだ」

 「隼人君さ、ゼノ君に頭おかしいとかよく言うよね?」

 頷きを返す。

 「おれも竪神も割と可怪しい自覚はある。そこを問題にしないでくれ」

 が、強く目線を向けても、2対の瞳はこちらを見返してくる。

 「うん、それはそう。ゼノ君達ってちょっと普通じゃないのは確か。

 ゲームでもだからさ、好み分かれるところではあったよ?」

 

 けどと少女は静かに告げ、アナはニコニコ笑顔で聴き続ける。

 「ゼノ君達の言葉と行動の可怪しさは皆を守る為の事になってる。

 勿論見てて辛いこととか色々と文句とか出るよ?出なかったらずっと前からゼノ君頼りにしよっかなと私思ってた筈だし」

 ぐうの音は出ない。

 

 「だから、変だ可怪しい無茶だって言う言葉そのものは否定しないんだけど……隼人君には言う権利無くない?」

 「分かる」

 「はい、そうですよね?」

 あ、女性陣(半男性含む)が共感したように頷き合っている。

 

 「あんなに直接文句言いながら、自分も同じく危険な場所に居てさ?アーニャちゃんから好かれようとしつつゼノ君に庇護されに行きながら文句だけは付けてさ?随分と都合が良すぎない?」

 「やる時はやる、あいつはそういう奴だ」

 おれも語気を強める。悪友について、あまり悪く言われるのは快くはない。怯えさせない程度には、それを分かって欲しい。

 

 「そうしないと死ぬからじゃない?うーん、ゼノ君達はずっと必死なのに、本当にどうしようも無いって時だけなのは……

 力は貰ってて、ずっと庇護されながらうろうろしてるくらいなら戦えばって私は思うな。アーニャちゃんなら戦うよね?」

 「わたしも同じような立場ですから、頭がちょっと痛いです……」

 「僕も……」

 何だろう、変なところで流れ弾が当たって救われた気がするとおれは目を伏せる二人に感謝する。

 

 「……直接戦うような力は無いもんね、私達」

 「出来ることはやりたいんですけどね?」

 「……うん。隼人君はさ、そういう点でも駄目なんだよね」

 「はい!」

 あ、アナは表情を明るくしておれの手は離さず……いや氷の鎖で繋いで逃げられないようにしつつリリーナと握手していた。

 

 それを見つつ、おれは尚も落ち込む桜理の肩を叩く。

 「使えるのにって思ってないか?」

 「思ってる……かも」

 「エッケハルトもそうだが、無理なら戦わなくて良い。君の力は戦いに使えばあいつらに堕ちかねないから特にだ」

 何度も言った言葉で気にするなと告げる。何度でも言い続けなきゃ変われない事ってあるしな。

 

 「ま、とにかくさ。ゼノ君が気にしなくても私は気にするから手伝ってくれないかな?」

 少しだけ悩む。時間は有限、リュウと修業もしたいし、何とかしてLI-OHのセキュリティをアップデートしなきゃいけないし、きっとこの先はジェネシックが必須になる。

 シュリの絶望を止めたいし、皆を守る為に時間は既に足りていない。

 

 それでもだ。守った先に……何も残ってない人だけが居たら意味がない。明日を見れなければ、おれやシュリになる。

 

 「そうだな。手を貸せる範囲でならば。

 ということで、まずはあの一座の人達を紹介し……」

 穏やかな言葉が詰まる。見覚えのある桃色に言葉を飲み込まさせられる。

 

 「やあ、今日は両手背中に花でデートかい?弟子や影の中の子は居ないのかな」

 「……メリッサ」

 「そんなに怖い顔をしないでくれないかい?ぼくだって、デートみたいなものさ」

 「人の恋路とやらに手出し無用ではないのかね、皇子?」

 眼前にふらりと現れたのは仮面と死人……メリッサとラーワル。今正に直接敵対してこないからこそ頭を悩ませる二人であった。

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