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対抗戦、或いは無意識

そうして、2日後。

 「みんなー!今日はあっりがとー!」

 「……違う、まだ始まってすらいない」

 「あ、そうだったてへっ。

 とりあえず一曲、私達の歌を始まりの合図にして、対抗戦頑張っていってねー!」

 ……これ台本か?それとも本当に間違えた?

 まあ良いか、と大きな広場端に設置されたステージの上で手を振るリリーナを見る。

 

 「うぉぉぉぉっ!」

 何だろう、妙な盛り上がりがあるな。

 いや、アイドルのライブってそういうものだとは思うが……

 「うぉぉっ!アナちゃーん!L!O!V!E!」

 ってお前もノリノリかよエッケハルト!?外交問題になるぞ。

 

 ……エッケハルトに任せてる時点でおれも外交問題ものだから止めておこう。

 「ということで、私達の応援はとりあえず此処まで。後は皆が頑張った後にね?」

 「ボク、……待ってる」

 ……アルヴィナ、皇子をとぼそっと言わない。聞こえたらアイドルとして困るぞ?

 「えへへ、お歌じゃないですけど、もしも怪我とかしちゃったら、ちゃんと連続して戦おうとしないで休んでくださいね?わたしもお手伝いしますから」

 「はーい!行きまーす!」

 「えっと、元気なのに来られちゃうと本当に必要な人が来にくくなっちゃいますから、それはやめてくださいね?」

 こてん、と小首を傾げて告げるアナ。日に映えるキラキラの衣装が眩しくて、おれは盛り上がりから目線を逸らした。

 

 眼前に広がるのは学園の広場。今回はそこに幾つかの区切りが置かれて簡易的なバトルフィールドにされている。

 対抗戦は最初にポイントを7ポイント持ち、誰かにポイントを賭けての戦いを申し込んでポイントを遣り取りしていくという形式のイベントだ。ポイントがある限り参戦出来るが、逆に言えば全ポイントを取られたら終わり。

 それを繰り返し、時間切れのタイミングが来た時に保有ポイント……それと最高で何ポイント持ってたことがあるかから順位が決まる。縛りは同じ相手との対戦は3戦以上のクールタイムを挟む事、くらいだ。

 一気にポイントを賭けて勝つか、体力を消耗してでも色々な相手と細かくやり合うか等、一応の戦略性もあったりするな。

 

 とはいえ、死合ではないが試合、実際にはそんなに連戦などやってられないのが殆どの場合だ。

 

 ぎゅっと、カードを握り締め、腰に佩いた刃を潰した鉄刀のコンディションをチェックする。愛刀?使ったらオーバーキルだろ普通に考えて。

 あくまでも模擬戦だぞ、武器ではなく己で戦うべきだ。

 

 と思っていれば、所在なさげに佇む一人を見付けた。そう、桜理である。

 「オーウェン」

 「あ、僕は戦いに来たんじゃなくてカードも貰ってなくてあの」

 「いや、リリーナを見に来たんだろう?知ってるよ」

 「あはは、リリーナ様だけじゃないけどね」

 少年の表情は何処か暗い。

 「僕はさ、目立つことも戦うことも得意じゃないから」

 「戦う事だけが戦いじゃない。自分を生きて行くことがそもそも戦いだろう?君は君の戦いをしている」

 「……何時もそうだね。でも、僕は……見てるだけだよ」

 なんて話に、背後から歩み寄る足音を聞いておれは振り返る。恐らくは彼と分かっているから、何も考えずにそちらを向けばやはりというか、顔の半分を覆う仮面の姿があった。

 

 「……久世殿」

 「さて、面倒なことだが、この身は露払いを任されているものでね。

 我が主君の前に、お手合わせ願おう」

 願ったり叶ったり、初戦でやれるのは有り難い。が、待て待てリュウもやる気かよ。

 ……まあ、やりたいなら戦うが。

 

 「兄弟共響、兄弟子の手の程、見せて貰おう」

 と言って自分も鉄刀を取り出しているリュウ、やる気満々か?

 それを見つつ、おれはカードを振って枠内に入った。小さくカードが振動し起動する。

 

 このカード、忌み子のおれは守ってくれないがある程度バリアになる。そして、一端区切られた枠内に入った後に外に体が触れるか、さもなくばある程度のダメージで壊れる仕様だ。ギブアップかこのカードの破損で勝敗が決まる。

 ちなみに、忌み子は守られない分バリアがなく、つまりは一瞬で壊れる。まともに攻撃を受け止めれば割れると思って良い。飛んでくる矢を素手で弾き飛ばしても割れるレベルだろう。

 おかげでゲーム的に乱数にされるくらい戦績がブレまくるわけだが……まあとはいえ負けてやる気はない。

 

 「さあ、やろうか久世殿」

 「其処まで素直で居てくれるとは、皇族のプライドとやらを考えれば拍子抜けすらするのだがね」

 「出すべき時と、要らない時があるだけですよ。

 今は不要だ」

 「では、お言葉に甘えるとしよう。御覧戴こうか、聖女よ、彼の脆さというものを

 ……などと、格好をつけてみても?」

 その言葉に、挑戦的におれは唇を吊り上げる。

 

 「やってみな、久世・ラーワル!」

 その言葉を合図に、おれは刃を納刀したまま地を蹴る。が、勿論これは抜刀への布石、流石に躱してくれよ!?

 

 「引かねば、斬り捨てる!」

 その勢いのまま、おれは刃を鞘走らせ……

 「……では、視よ。

 《鉄瞼に閉じ覧よ(アーキタイプ)己という夢跡を(セントリフュージ)》」

 !?

 突如として突き込まれる刃に思わず地を蹴り、少し重い体を駆使して何とか地面を転がって回避を……

 っ!しきれないか!

 

 「さて、口ほどにも無い……で良いのか?」

 ……何だ、これ?

 聞き覚えのある声音で突き付けられる鉄刀を前に、唖然とする。

 眼前には、対抗戦では着用指定されている制服に身を包んだ見覚えがないけどありすぎる隻眼の影が、鉄刀をおれの仮面の寸前で止めてその血色の瞳でおれを静かに見据えていた。

 

 「……は?」

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