再会、或いは二つの桃色
すっと、愛刀を背に呼び出す。
背、だ。警戒を示しつつ、敵意は見せない。だからあえて咄嗟に抜刀しにくいよう背に背負う形で呼び出す。
……まあ、気持ちの問題だ。いざとなれば手元に呼び直せば背に手を伸ばす事無く抜刀出来る。
そうして、眼前のほんの少し歳上の少女を隻眼で見据える。出方は何だ?何が目的だ?
「ロダ兄」
「メリタオバサマ?どっちなんだろうなぁ?」
あ、これ半分カマかけた感じだな。そう理解する。
本当に知らないのか、或いは隠し事か、少女は汗一つなく笑い返してくる。
「ぼくはそういう人じゃないなぁ」
「人ではない、か」
「いやいや、折角の再会だよ?もうちょっと感涙に咽び泣いて……はきみらしくもないかな?
涙ぐんでくれても良いんじゃないかとぼく思うよ?」
迷うように、頼勇は軍服のベルトにマウントした剣に手を伸ばし、指に空を切らせた。異様で、恐らく敵で、けれども……敵意を向けたくはないとでも言うように。
「ライオー君さ、さっき言ったけど、明日が来るはずの空にそんな顔しても、未来が雨になるだけだよ。晴れ晴れとした快晴を求めて、曇りなき瞳で見上げないと。
希望って奴は、求めなければ何処にもないんだから、さ」
「メリッサ……さん、のような事を」
「だからぼくだって。一旦死んだからって疑り深いね、きみの知り合いにも、死者を蘇らせられる人とか居ないの?」
ぎりっと、歯の鳴る音がした。
「彼女は……いや、そうだな、人だ。
今の貴方とは違って、な」
何かを呑み込むように、さりげなく左手を胸元で握り込んで紺髪の青年は告げた。
「だからさ、折角生き返ったっていう幼馴染に警戒しすぎ、ぼくはとっくに懐いてくれていた頃の想い出を捨てられてしまったみたいで悲しいよ」
どこまでも自然体、アナを思わせるような敵意の無い微笑みすら浮かべてくる桃色少女。
訳が分からない。始水に鑑定とかして貰えないかと思うがそれも今は無理。
というところで、不意に声が聞こえた。
「ほら、アーニャちゃんばっかじゃなくて私にもちょーっとくらい着いてきてよ。一緒に天津甕星してる仲でしょ?
ゼノ君にだって会えるんだからさ」
「……ボク一人で、会える。良いことが、無い」
そんな、やり取りが。
どうする?と聞こえた声に反応して振り返ったフリをしつつほんの少し腰を落とす。いざとなれば抜刀して斬り抜け、守る。
頼勇だってレリックハート構えてるしな。昔どれだけ縁があろうが、迷いを振り払って対峙するしか無い。
が、その少女は笑みを崩さない。もう少しと、寂しげなだけだ。
「あ、ゼノくーん!それに頼勇様達も」
「……皇子、この桃色何とかして」
とか思っているうちに近づいてきた二人がおれに向けて各々助けを求めた。ってどうしろと?
いやそれよりも。
そう思ったが、少女は難しそうに唸ると、ぽんと手を合わせた。
「いやー、ひっさしぶりに会えて話とかしたかったけど、お邪魔みたいかなー?
しょうがないなー、ぼくは空気が読めるからね、今回だけはコレで失礼するよ」
それだけ告げて、いや、
「有難うね、正義感だけ強かったライオー君を、正義として支えてくれて」
まるで心配事が晴れたかのような一言を残して、少女の姿は忽然と消えていた。
「あれ、ゼノ君?」
というところで到着したリリーナが首を傾げる。それに笑いながら、おれは今一度探りを入れた。
……気配は無いな、完全に逃げられた。
「あれ?どうしたのゼノ君?」
「皇子、さっきの生きてるのか死んでるのか分からない気配の……何?」
アルヴィナの言葉に、やはりというかと頭を振って。
「リリーナ、色々と聞きたいことがある」
おれは、そう告げたのだった。
「え、いいけど何かな?」
「君を門谷恋として、知っている話を聞きたい」
おれ自身、ゲーム以外の知識薄いからな!この先のメディア展開で知ってる情報とか欠けてる事は自覚している、エッケハルトは多分嫌がるし、此処でわかれば幸いだ。