君臨、或いは神雷
眼前に降り立つその顔はシロノワールと……いやむしろこう言うべきか。原作まんま。
だが違う。おれの識るラスボスたる彼は軽薄な笑みなど浮かべない。笑みの差分は描かれてたが勝ち誇った自信満々のそれ!
何処まで対抗する?恐らく流石に竜魔神王への融合まで切って此処で原作最終決戦しようって腹は無いだろうから、追い返せば済むと信じたいが……
あの背中の虹色の剣だ。あれは間違いなく転生者特典で得た力だろう。おれの記憶には該当するものは無いが、AGXのように縁ある……いや始水から何か渡されてたな。異世界の羽根とか。異世界の武器か。確か名は王権ファム・ファタール・アルカンシェル。アナの名字とほぼ同じ虹の名を冠する力。
何処まで使ってこれる?おれ達で使わせて対処出来るか?
かつて魔神王が己達の拠点を襲撃してきた時、竜胆は仕方ないからまともに起動させるためにアステールを柩に葬る選択をしたし、その時の戦いの影響でおれ達の前に現れたALBIONは最初から半壊していた。となれば、性能は大凡AGX-ANC11H2Dより上でアガートラーム以下と分かる。
ぶっ壊れか?だが、ある程度起動したアガートラームに勝てない、となれば!
先手必勝!ぶち抜くのみ!此処で倒せれば御の字、倒せずとも今出て来てる影を消せば再度世界に出てこれるようになるまでの時間は稼げる!
「……アイリス、後は」
『不満……だけど、時間は』
何時の間にか用意したのだろう、愛刀の鍔、天狼を模したそれの頭を覆うオレンジ色した猫型の仮面からアイリスの声がした。そして、それが外れたかと思えば鞘に付いたままだったアルビオンパーツがおれの周囲を回転し体を覆う冷気が増す。
そう、通常形態に戻っていく。これで良い、火力は此方のほうが高い。
一撃必殺を狙うならば!
愛刀を静かに鞘に納め、仮面に隠した瞳を閉じる。流石に諦めたとは思われないだろう、おれが抜刀術使いなのは転生者なら重々承知だ。
だが!
「龍!覇!」
一気に決める!とおれは地を蹴り、背の両翼を羽ばたかせる!
「尽!雷ッ!」
全エネルギーを突っ込み、砕けないドラゴニッククォーツの力を任せて、雷轟一閃叩き斬る!
「っなっ!?思い切り良すぎだろコイツ!?」
思わずといったように青年は己の腰の短剣を引き抜いた。非常に豪華な装飾の施された赤と金の短刀。嫌な気配はぷんぷんするが、今更怯えて何になる!
「断ァァァ!」
が、その短剣で青年が何とか逆袈裟の刃を受け止めた、その瞬間。
何かが剥がれていく、消えていく。
いや、何が消えた?
すべてが、心の奥底に沈められていくような……
あれ?おれは何を振るい、何をもって彼を討とうとしていたのだっけ?
口元に溢れる苦く、燃えるように熱い血。それが喪うはずのものを思い起こさせる。輝きを喪い少し色褪せたような愛刀が手から弾かれると共に、決意の赤金の轟剣を握り込み!
「絶星灰刃!」
「《運命が軛く法は王への隷節成》
……は?」
勝ち誇ったような青年の顔が、己を照らす黄金の焔に凍り付く。
「何だよそれ」
言いたいのはこちらだ!という叫びを飲み込み、赤金の短剣から放たれる赤いオーラの刃と撃ち合う。受け止めるか!それでも!
「お前こんなもん持たないだろ!」
そうだとも!バグでしか使えない!でもな!
「そういやゼノ君ってバグ使えばデュランダル使えるんだっけ」
「ありかよそんなの!」
……薄々理解した!原作であり得る範囲以外のものを消し飛ばすのがあいつの能力か!それでニーラ達も部下として縛られてるし……恐らく表に出た瞬間アルヴィナも妹として敵対を強いられるんだろうな……それが、あの力か!
それでもな!逆に言えば!お前が知ってるレベルに原作からある可能性は防げない!どういう能力かは知らないが!帝国の魂と共に押し通る!
「舐め、んなぁっ!」
「舐めていた奴が、ほざくなぁっ!
激!龍!衝ォォォッ!」
「っ!舐めた真似を!」
が、轟剣を突きこむと共に、男は背の剣翼を煌めかせる。
っ!そういやそれもあったな!同じ由来とは思うが……
「繋魂無敵!剣兄よ、今こそ!」
が、その瞬間剣は美しい刃紋を見せる刀に受けとめられていた。
これは……本物の刹月花!?あっちにある以上もしかしてと思ったがやはりか!あの距離から時を止めてタイマン張る力で、斬り込んだって訳か!
助かるし、やってくれる!
となれば!
「影の身で!光を浴びて焼けろ!魔神王っ!」
「てめぇらぁっ!」
知らないだろう、おれだってついさっき知ったリュウの想いを!
だが、押し切ろうとした瞬間、
「轟く」
嫌な予感が、脳を焼く。
「クゼ!」
「剣兄!?」
「絶!対!王!権!」
膨れ上がる虹色のオーラ。黄金の焔すら吹き飛ばして周囲に拡がるそれに弾かれ、おれの体は宙を舞う。そして、轟剣を大地に突き立てて30cmほど滑って止まった。
斬り込んだリュウは……大丈夫か、多分居ると思ったラーワルが魔法で網に捕まえている。だが……
問題は、弾いていた力!虹の光は周囲の魔神の影達も輝かせており、更にはそれに使わなかった短剣の赤いオーラが激しく輝き……
瞳が見据えるのは、おれではなくアナ!
ならば!やるまで!
「轟く絶命王剣!」
「絶星灰龍!靂紅牙ァァッ!」
振り下ろされる光剣に向けて特攻する。吹き荒れる黄金の龍焔を纏い打ち上げられて手元に呼び戻した愛刀を振るうまで!
届くかとか、知るか!やれるだけやる!お前が彼らの祈りを否定しようと!この手にその祈りの化身はあるべきなのだから!
ふっ、と。青年が嗤った気がして……
『分かりますね!兄さんのためには!』
「はい!」
刹那、空が曇ったかと思えば、豪雨と共に一条の雷鳴が剣を得意げに振り下ろす青年を撃った。
それだけで分厚い雲は、背後に見えた気がした大きな影と共に消え失せ快晴が戻る。
「てっめぇ……龍姫、王狼……
都合の良いやつ以外に好き勝手に神罰落として未来を誘導するとか……神のくせに人を妨害して恥ずかしく、ねぇのかぁっ!」
激情と共に振り上げられる短刀。しかし空を裂くそれは空を切るのみで、何も起きず……
「ちぇっ」
色褪せた虹の翼と共に、魔神の王になった男の姿は急速に色を失って掠れていく。
「ニーラ!とっとと何とかして来い!」
「……はっ!既に情報は得た。出来る限りは」
それだけ告げて、青年は消えた。
『……虹翼を使ってくれれば、此方としても大きな世界の歪みとして排除ぐらいは出来ますよ。
しかし兄さん……神としては恣意的過ぎる介入……少し、やりすぎましたから……
ほんの少しだけ、休みます……』
脳裏に響くのは珍しく焦った声音の幼馴染神様の声。それにすまない、有難うと返せば後者だけ聞きたかったですねと多少の余裕を残した声と共に言葉は途切れた。
「……さて、ウォルテール」
爆発で加速したから焼けて痛い背をおくびにも出さずに愛刀を構え凄む。
「まだやるか?」
「行けるだろう、LIO-HX!」
……あれ?原作だとダイライオウは以ての外としてもそいつも没データで辿り着けない合体じゃなかったか!?いや、おれも不滅不敗の轟剣使えたしバグに言っても今更か!
とりあえず、助かるしな!
空では圧倒できなくなったとはいえ合体した鬣の機神が鳳を抑え、原作からあるからなんの影響もなさ気なゼルフィードが獅子を止める。
「いえ、下がりましょうか。
此方としても王の虹色の力は未知数。被害を出してからでは惜しい」
下がりますよ、とニーラが告げれば、殆どの魔神は空を割って消えた。
いや、残ってるな。
「はっ、暴れさせろってんだよ。分かってね」
「……思い出した!GO!ダイライオウ!」
「ちっ!帰らせてもらうぜ!こんな弱っちい魔神王の用意した影で相手してられるかっての!」