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襲来、或いは吹き荒れる腐嵐

「アルヴィナ、何か用事があったのか?」

 助け舟を出すように告げれば、何時ものブカブカ帽子の少女はこくこくと強く頷きを返した。

 「こんなのに、構ってる場合じゃない」

 「こんなのって言わないでやってくれアルヴィナ一応大事なお客様だ」

 「ボクへの来客」

 「じゃあ、アルヴィナが受ければ」

 「ボクが、居てはいけない」

 その瞳は真剣な光を湛えていて。それだけで、おれには分かる。

 

 魔神族だ。原作的にはまだ封印が解けてないし尖兵を送ってたアルヴィナが此方に居る以上はそんなに動けない筈だが、何らかの手段でこの世界へと渡ってきたのだろう。

 

 「魔神招来、魔神族が来たということか」

 言われ、おれは思わず愛刀を呼んで柄に手を掛けた。

 このアルヴィナとのやり取りだけで魔神絡みだと判断出来るのはアルヴィナが裏切り者の魔神だと知っている奴だけだ。となれば。

 が、怯えを含む瞳にあれ?と殺気を抑え、柄から指を離す。

 

 「驚愕恐怖、剣兄はあまり構えないで欲しい」

 「剣兄って、おれか?」

 「双角兄弟、その通り」

 言われて理解する。そういやゲームからして刀使えたというかメインで振るえるような感じだったな、うん。

 ゲームでは詳しく語られてはいなかったが、おれの師匠が故郷に戻った後に育てた弟子なのか。だからおれを所謂兄弟子として認識していて……

 「剣兄勇伝、魔神すら味方にしたと伝聞された。だから来たのだ。

 屍をも蘇らせる魔神……我が魂の妹に会うために」

 ……いや良く知ってるな師匠!?

 

 ……知ってるか。どんな雑念を持ちつつも戦えるようにって明鏡止水の境地の鍛錬の中でアルヴィナについて少々相談したことがあるし、アルヴィナ絡みを知りきってる父さんとも手紙のやり取りしてるっぽいからな。情報は掴んでいるだろう。

 「……行くか、剣弟(けんてい)

 「剣兄肯定」

 「……付いていきたく、ない」

 アルヴィナが嫌そうに肩を竦める中、おれはアルヴィナの視線が指す方へと地を蹴った。

 

 そして、辿り着くのは大講堂の前。

 『ルグガォッ!』

 降り注ぐ赤い雷を鳳が纏う嵐が受け止め……

 「嵐を穿て、ゼルフィード!」

 だがその嵐を逆回転の嵐を放つ巡礼者の巨神が止める。

 その刹那を狙い、再び赤い雷を放ちながら今度は桜色の一閃が空の鳳を穿つべく疾走った。

 

 だが、霊翼の鳳に怯むという概念は最早ない。その喉元に紅光の迸る牙を突き立てられながらも苦悶の声一つなく、再度半透明の翼を打ち振るって嵐を展開して鎧白狼を振り払う。

 『ルルガゥッ!』

 空中で一回転。おれが良くやるように空中で雷を足場に体勢を整えて着地するアウィルを見ながら、おれは元々急く脚に力を込めた。

 

 「ブレイブ」

 『兄さん!?それは』

 悪い始水、此処では……此方を使わせてくれ!

 『いえ、理由が分からなければそんな反動の大きい無茶なんて』

 アルビオン形態じゃ、あの翼が目立たない!おれは魔神相手にはアドラーとアルヴィナの仇の邪悪であるべきなんだよ!

 

 『トイフェル……イグニッション』

 「スペードレベル、オーバーロード」

 合わせてくれる先祖の魂。冷静に、何時もより静かに祝詞を告げれば、目の前に突如炎と共に現れる轟剣を掴み、黄金の焔を纏う……いや、それに焼かれる。

 「魔神剣帝、スカーレットゼノン」

 何処までも静かに、黄金の焔を空白の左眼窩に灯して宣言すれば、しゅたたとアウィルが寄ってくる。そして……空を舞い炎を吐いて鳳を牽制していたろう赤い甲殻に碧が混じる飛竜も降りてきた。

 

 ……誰だっけ?いや、これリリーナに送ったあいつか!確か名前をジーヴァと言う……全然見かけないからすっかり脳内から抜け落ちていた。

 アウィルよりは小さいくらいって結構デカくなったな……まあ良いや。

 

 轟剣を構え、アドラーから託された左翼をマントのように肩から掛けて翻し、おれはその場に立つ。

 そうすれば、空を舞う鳳もまた大地に降りると姿を変えた。それは、かつてのおれが対峙したものと瓜二つの青年の顔。

 暴嵐の四天王アドラー・カラドリウス。だが、それは可笑しいのだ。彼は死んだ、だからこの手に翼がある。

 

 ……そんな青年の表情は無表情。おれ相手にアルヴィナを護るべく吠えたあの時の感情は全く浮かばず、クールと呼ぶには限界があるだろう。本当に、虚ろな瞳は何も映していない。

 

 ゾンビだ。ゲームでも出てきたな。魔法というか一部能力が消えてる物言わぬ四天王の屍。

 ゲームだと終盤アルヴィナによってゾンビ化して4人まとめて相手する事になっていたが、今は彼だけだ。

 

 おれの影の中から、とてつもない威圧感を感じる。親友たるシロノワール……いや魔神王が怒りを顕にしているのだ。だが出ては来ない。

 その死を弄んで今の魔神王に彼の屍を献上してでも、アルヴィナは此方側に来たのだから。無駄には出来ない……今は彼等は、動けない。

 

 ぎゅっと、羽ごと左拳を握る。

 だとしても、と叫びたくなる。

 だからこそ、おれが代わりにとばかりに見据えれば、青年の屍の影から一人の水色の髪の少女が姿を見せた。

 

 「四天王ニーラ・ウォルテール」

 「聞け、人間。そしてアドラーを討った怨敵」

 告げる少女の目が泳いでいる。本人は此方の敵情視察と言うだろうが、目線を合わせたくないのだ。言い訳して、目を逸らしている。

 

 それだけで、分かることがある。やっぱり、アルヴィナに手を貸してただけあって事情をある程度知ってるな?その上で、今の魔神王テネーブルの味方を辞められないがせめてもの抵抗をしている。

 難儀なことだが、助かる。

 

 さて、となると……

 そう思考を巡らせようとした瞬間、ふわりと甘い……あまりにも甘ったるすぎる香りが鼻を擽った。

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