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魂妹、或いは皇子の願い

「一つ聞いても?」

 おずおずといった形で語りかけるリリーナ。まあ、門田に恋の意識としては最初からこれって変だという意識はあるだろう。ついでに言えばストーカーという事実に怯える気持ちも。

 なのでカバーに入れるように言葉を探し、脳内思索は止めて出方を伺う。

 エッケハルトは無視を決め込んでるな。厄介事嫌いだしな……

 

 「構わんが?」

 「魂の妹……は私じゃなくて他の女の子の事……なんだよね?」

 それはおれも聞きたかった。原作だと出迎えに選ばれてた聖女を見て魂妹認定してくるんだよな。お陰で2年から出てきてもグイグイ行くからルート行けるわけだが……その様子はない。ほぼ一目惚れに近い勢いの筈なのに、な。

 

 「魂絆電流、おっと……」

 あ、原作っぽい言い回しに戻った。端的に言えば何でも四文字で表現してくるのが本来のリュウだ。後にある程度説明してくれたりしなかったりする。だから何か片言っぽかったりするんだよな。

 

 「然らば、主の魂に絆を感じる電流が走ることが条件。この身は此処に居ると思い進言したのだがね、どうやら聖女様では無かったご様子だ」

 「クゼ殿。それは、何故?」

 「随分な質問だね。何を言いたいのか」

 「えっと、どうして帝国に魂の妹さん?が居るってなったの?真性異言(ゼノグラシア)のカン?」

 きょとんとした表情。傾げた首の角度も相まってコケティッシュな魅力を出しつつ少女が問い掛けるが……これ危険ではなかろうか。

 

 おれは良い。どうせ此処まで向こう側の相手には大概バレている。後の懸念は諦観で付き合うシュリに近い側なのか能動的に世界を腐らせたい残りの首の側なのかだけだ。

 が、リリーナの事は……

 

 「リリーナ。聞いた話をあまり言うものではないよ」

 さらっと目線を切るように移動しつつ一言添える。

 これで此方側で転生者バレしている他人の入れ知恵と勘違いしてくれれば助かるが……果たして上手くいくか。

 「あ、ごめんねゼノ君、エッケハルト君」

 「巻き込むなよ!?」

 悪いなとくわっと目を見開く青年に内心で謝罪。お前に擦り付けるのが楽すぎるんだ。

 

 「希求魂妹、この場には居ない。

 が、感じる」

 「……なれば、この身を責めないで欲しかったのだがね」

 「威厳重説、威厳ありきだラーワル」

 「知っているさ、君の言動くらいはね」

 言いつつ、仮面の男は己の手を此方へと差し出した。

 

 「さて、積もる話は英雄足り得るものに任せ、凡人は去るとしよう」

 「凡人か?」

 「凡人だとも。貴方のように傷を晒す勇気もない者に英雄の資格など有りはしないだろう?」

 「蒙昧流言、此処まで来た者の発言か」

 ……こういうところだ、とおれは内心で頷いた。

 

 結構どうなんだって偉そうでストーカーなリュウだけど、割と他人思いなのは言葉から見えてくるんだよな。だからツッコミにくいというか……

 「言わせて欲しいものだよ。真意など隠しておくものだ。

 それにだ、此方としても部屋を主を迎えるに足りるようメイキングする役目というものがあるのだよ」

 「あ、それ重要だよね。私も気になるもん」

 そこフォロー要るのかリリーナ!?

 と言いたくなったが、小さく震える少女の拳に言葉を飲み込む。怖がっている、何かに怯えているのだろう。

 恐らくは、知らない仮面の男に、だ。だってそうだろう、特徴の塊過ぎてこんなのゲームに居たらモブで済むはずない。


 なのに、居る。怖いだろう。

 それを理解して、おれは青年に向けて鍵を差し出した。

 

 「リュウ殿下の」

 「陛下」

 「殿下の為に用意した部屋は貴賓寮、普通の男性寮とは異なり講堂を始めとした教室群に近しい場にあります。そちらには見回りでノア先生……貴方に近い色の髪をリボンで括ったエルフの教員がおりますので後は彼女に聞くようお願いします」

 あえて言い直さない。陛下ってのはリュウ自身が次期皇帝たろうとしてるからだが……

 

 そこで頬を染めないでくれ。

 そう、この当人、押しが強いって点ではロダ兄に近いがキャラ的な差別化点としてか割と反論誘ってるマゾヒストの気がある。正確に言えば正しくても指摘を表面的にはさらっと受け流すのがロダ兄なら、正しい指摘されてはぅわ!と喜ぶのがリュウだ。うんマゾい。

 

 が、あまりツッコむ前に横に控えていた仮面の男はおれから鍵を受け取ってこの場を立ち去っていった。

 

 「……気配散逸?」

 アルヴィナ、と内心で呟いておれはとん、と左足の踵を路上に打ち鳴らす。影に向けて合図すれば、きっとシロノワールが意図を汲んでくれる筈だ。

 「クゼ殿ならば、確かに去ったかと」

 気配は本気で消えている。アイリス辺りに見て貰えばゴーレム式の録音機だのの有無も分かるだろうし……


 「リリーナ、出来るか?」

 「えっと」

 「君、宝石獣(カーバンクル)から何かを貰ってたろ?危機感知とかに使えない?」

 そう、忘れがちだけどシルヴェール兄さん絡みとかで特別な力はゲーム内である奴とは別に更に盛られてるんだよなリリーナ。まあ直接戦闘力には関係ないだろうが。

 

 「あ!そうだ」

 ぽん、と手を打つリリーナ。忘れてたな?

 同時、カッ!と一瞬だけ光が煌めくが、特に何も起きな……

 「うん、大丈夫っぽいかな?」

 が、大丈夫でも無かった。

 

 「ゼノ君?」

 「……目が、眩む……」

 そういえばそうだな!?おれの身の忌み子の呪いは解けてるわけじゃないからこういうのの影響も変に受ける。

 

 「驚愕三昧!?大丈夫かそれ!?」

 視界がホワイトアウトして無理矢理頭を振って戻そうとするおれに、心配そうな声が掛かる。

 「ゼノ君大丈夫!?」

 「視界だけだ、すぐ戻る」

 ……うん、少しだな。もう戻った。戦闘中に食らったら危険だったが今なら問題はない。

 

 「さて」

 咳払いして話を戻す。うんエッケハルトは我関せず止めてくれないか?

 「クゼ殿は聞いていないな」

 「ラーワル……」

 青年の雰囲気が変わった。ツッコミ待ちの偉そうさが少しだけ抜けて、真剣な空気になっている。

 

 「一つ聞きたい。魂の妹って、何故此処に来たのか」

 「真性異言(ゼノグラシア)。共に歩んできた友を、救う為だ」

 ……そう、来たか。内心でおれは呟く。友が乗っ取られたっぽいことを理解して、敢えて何とか出来うる希望を求めたと。

 理解は出来る。嘘の可能性もある。果たして……

 

 「魂妹希求、理解を出来たか?」

 「……皇子、誰、この人?」

 が、ひょこっとアルヴィナが顔を出した瞬間、

 「運命繋魂、おお、見つけた!我が魂の妹よ!」

 ……割と駄目じゃないかこの馬鹿!?

 思わずといったように飛びつきに行く留学生皇子の脳天に向けて襟から死霊パンチを撃ち出すアルヴィナを見ながら、おれは前途を案じていた。

 ってか、魂の妹判定先ってアルヴィナかよ!?シロノワールキレるぞ!

 

 「……兄じゃない」

 「君主多命、兄は複数居ても構わない!」

 「構う。兄はお兄ちゃんだけ」

 「最悪恋人」

 「皇子以外、断る……」

 「次期皇帝、我皇子ぞ?」

 「ボクの皇子は、一人だけ。断固、拒否」

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