疑惑、或いは駄弁り
「で、俺の所に来た?」
心底嫌そうに、焔髪の青年は机の向かいで溜息を吐いた。
あの翌日、学園の一室である。ノア姫の使ってる教務員室だな。横には今日は誰も居ない。
いやまあ、脳内に神様居るし妹とアルヴィナはおれの服や耳に盗聴魔法掛けて聞き耳立ててるんだが……
シロノワールは今は居ないからそう言っておく。
「だーかーらー!そういうのはあのチートと話せよ!」
「お前の力が必要なんだ。竪神とでは、相手が真性異言かどうか等の判断は出来ないから」
「ならリリーナちゃんで良いだろ!最近距離感近いし!」
その言葉には頬を掻く。
「恋相手には、暗い方面で話をあまりしたくはないから」
「うっわ……恋呼びかよ、何でそこまで……ってのはまあオーウェンも居るし分かんなくもな、いや分かんね!」
ガン!と机に叩きつけられるマグカップ。中身が散って青年の指を白く汚した。
「どうなってんのマジで!?お前らトンデモと戦ったりして狂ってんのに、何であの子まで協力的に変わってんの!?」
そう言われると弱いが、そもそもリリーナを狙って動いてるのが分かってる円卓なら少なくとも一人知ってるからな。距離置いてない方が対処しやすい。
今日だって、リリーナにはオーウェンと頼勇と共に次のライブのために色々と見て回ってもらってるしな。
「闘うべき時が来た、多分それだけだ。あの子にとってはアイドルとして、聖女として。そしておれにとっては……」
言葉は要らない。言えばキレるだろうしな。
「俺は嫌だからな!」
言いつつ、席は立たない。それがエッケハルトだ。だから、こうして甘える。
「だから、こうして裏を頼んでいる」
ぎりっと奥歯を噛む音が聞こえる。おれの見据える瞳から逸れずに、青年は嫌そうに見て……はぁと今一度ため息を吐いた。
「今度は!もう絶対!戦わないからな!何かあったら早めに逃げさせろ!アナちゃんを安全にしろ!」
その主張は変わらない。安心感すら覚えておれは頷いた。
「分かった。出来る限り」
「大概は守るけど重要な時に出来なかったで済ませるだろこのクソボケ!」
がつんと脳天に響く衝撃。振り下ろされるピコピコハンマーをあえてちゃんと脳天中央に合わせて受け、気の抜けた音を聞く。
「……おれだって、アナ達に生きていて欲しいよ。だから、距離を考えるんだ。
共倒れじゃ笑い草だろ?」
まあ、距離感測るにはおれ側が足りてないが。距離感近かったからなぁ始水。あんな基準じゃだめだとは思っても、測りかねる。
「けっ!で、何だって?」
一気にマグカップの中身のホットミルクを飲み干して、青年は問いかけた。
「ああ、魂兄は分かるだろ?」
「そろそろ来る攻略対象の」
「そんな彼が、魂妹に会いに学園に留学しに来る。師匠からの伝言だ」
ほーん、と青年は気楽に頷いた。
「いや、来るだろゼノ。そこら辺は恋に話せよ。いや、オーウェンにもか?」
「そうじゃない。可笑しくないか?
魂の妹……魂妹とヒロインを呼ぶのは留学後、出会いイベントでの話だ。ガイストと同じだよ」
「じゃあ真性異言なんだろ。対処宜しく」
どこまでも、エッケハルトはやる気がない
それは良いが、少し寂しいな、このあしらい方。仕方ないっちゃ仕方ないんだけどなおれのやらかしを考えれば。
が、好きにしろ。どうせ、見捨てきれなくて来るだろお前。最後の切り札GJTと共にとスルー。
「いや、お前が悩みの種言ったろエッケハルト。
そうだよ。魂の妹がーってメンヘラストーカー発言は出会ってからの筈なんだけど、ガイストが兄の狂気で厨ニ発言に逃げてたように本人無関係の可能性がある。
だとしたら、最初から潰しに行くのは可笑しいだろ?」
ガイストみたいに味方になってくれるかもしれないしな。
「それにだ。あの男爵も気になる」
「転生者だし、殺しても生き返るだろ?」
いや、とおれは首を横に振った。
「スライム状の体が一瞬色を取り戻しはしたが、そのまま乾いたままで終わった。魂そのものが溶けていたように。
普通、殺しても完全に生き返るからスライムのままって何だか変なんだよ」
肩を竦めて、おれは困ったと告げる。
実は、似た現象は見たことがある。シュリが来てくれれば裏付けも取れるだろう。
が、だ。あの銀龍が来ないならば、スライム化と溶けた体で鋼を纏うイアンの関連性はまだ謎だ。
いや、謎な事がほぼ答えなんだけどな?シュリなら無実なら今頃せっせと理由を付けて弁明に来てるだろうし。
「だからだ。色々と頼むよ、エッケハルト」
「ひっでぇ自覚あるなら頼むなよ!?」




