館、或いは焼き直さぬ絆
家の中に飛び込んで周囲を確認。最低限のことしか聞いていないが、数人逃げ遅れているのは聞いた。
そして、だ。こういう家の貴族については割と習っている。どんな意識を持っているのか、そういう話を知らなければ皇族として関わっていけやしない。
それを考慮すれば、メイド達と奥様の居についても想像が付く。馬鹿とプライド高いやつは高いところが好きというか自分より身分が下の者が上の階に居ることを嫌う。二階建てならば自分が二階で、同じ階にメイド達の部屋は作らないだろう。
となれば、一階を探す!
ってか、自棄に火の回りが早い!と燃え落ちた床を飛び越えながら内心で唸る。着地しては更に崩れてしまうだろうから空中で愛刀の迸らせる雷を踏んでステップ状に三段駆け下りて衝撃を軽減、煙の中を駆け抜け続ける。
邪魔だ!
愛刀一閃、炎に歪んだ扉は真っ二つに唐竹割り、両開きに変えてしまって隙間を通って邁進する。
どうせ、弁償も何も無い。おれには焼け落ちる前に人々を保護する手しか無い。最初から横にアナでも居れば消火の可能性はあったが危険だな、あの娘こういう耐性は無いし体力にものを言わせて煙を耐えるのも厳しいからな。壊しすぎると崩落が早まるのだけは注意だ。
ふと、思う。だからか?だからこの家の持ち主は放火した判断が出来たのか?と。
そう、ゲームでは所有者当人による放火なんだよなこれ。詳しいことは語られなかったから保険金目当てなのか、何かを隠滅するために諸共燃やす事にしたのか、そうした細かい事情までは語られなかった。が、少なくとも彼が館を焼こうとした事だけは明らかにされていた。
そして……明らかに火元が特定出来ない。厨房から火が出たならそこが火元で拡がっていくはずだ。なので出火元は分かりやすいんだが……今回、何処だよ火元!?ってくらい可笑しい、数か所から同時に火が出てるだろうこれ。
そうだ、と館を駆け抜けつつ思い出す。実はこのイベント、水も火も持たないから自力で対処しにくい天光の聖女編だけなんだよな。天光編だと主人公のカスタムはあくまでもユニット性能、シナリオでは反映されないから天属性の主人公は外で待つしかないって今のリリーナのようになる。水属性入れたけど?とか言いたくなってもそれはそれ、持ってない時でも同じシナリオになるようになってるから仕方ない。
ってことで、主人公自身が突入してないから細かい間取りとかテキストに出てこないんだが……ゲーム頼勇が言ってたんだよな。「火の元かと思った場で火に囲まれていて危なかった」と。
これ自体は自分に出来る火の進行を遅らせることを早くからやってた主人公を労う台詞なんだけど、ここから一個読み取れる。少なくとも、端に近くはない。全方位炎に囲まれる場所だってことだ。しかも火の元かとということは、火を使う場所。
となると!とおれは壁を見る。
装飾の入った格子が嵌った通風孔。今は爆炎が其処から噴き出し、格子は溶けて此方へ向けてネジ曲がり剣山の様相を呈しているが……この通路に来客相手にドヤ顔で料理の香りを漂わせる為の通風孔があるってことは!
目指すべきはその向こう!
「雷!轟!」
焔に巻かれる。床のカーペットが燃えている。靴の防火性は足りてないから焦げ始めているが、まだ!行ける!
「離れろ!」
聞こえるか分からない声を叫び愛刀を鞘に戻して、一気に踏み込みながら抜刀!
「業!風!鍾!」
業風鍾、師から習った抜刀術の一つを解き放つ!あえて、刃を正しく斬る向きとは逸して強引に振り抜き、立ち上る風を生む!威力は低いし射程も刀身よりちょっと長いくらいまでしか無いが!斬るのでは無く空間を混ぜることで!鐘の音のように響いて周辺一帯を押し流す!
火力の低さは、壁を砕く程度なら気にならない!
果たして、砕いた壁の向こうには数人の少女が居た。顔立ちは……まあ普通レベル。いや当たり前だが、メイドなんて顔採用する貴族少ないわな……。見えで顔採用してる貴族は下位にほど多いが、見栄っ張り過ぎなかったのか金が無いのか。
ってそれは良いな。踏み込めば、幼さの残る少女が一歩下がる。そして、別の少女がその子を守るように前に出た。成程……
「な、何!?」
「化け物……」
……うん、怖がられてるな、これ。火傷痕に炎の灯りがちらついて大分怖い。
が、それでめげても仕方ない。おれは精一杯微笑んでみせる。
「おれは機虹騎士団所属、第七皇子ゼノ
たまたま火災を目撃し、救援に来た」
そうして手を伸ばすが、弾かれる。信用ないな。
「忌み子皇子は、火が怖いって」
あー、と頷く。まあ、火傷痕で有名な忌み子だものな。燃える館に突っ込んでくるのは違和感あるか。
とはいえ!
「ブレイブ!トイフェル!イグニッション!」
叫ぶのは帝国の祝詞、呼ぶは帝国の轟く炎剣!
「我が手に!いや、人々の礎となれ、不滅不敗の轟剣よ!」
本来呼べるわけじゃない、そして月花迅雷はおれの刀と化してるが人々への知名度は足りてない。
だからあえて無理矢理にデュランダルを召喚し、軋みをあげる天井へのつっかえ棒とする!
うん、無理に呼んだせいか今回おれが触れようとしたら弾かれるな。が、来てくれただけで十分過ぎる!
「デュラン、ダル……」
「父シグルドのこの剣は、信じられるだろう」
こくりと頷くメイドに頷きを返して尋ねる
壊れるまであと数分ってところか。最悪今のおれならば愛刀で落ちてくる瓦礫は吹き飛ばせば皆を守る事は出来るんだよな。が、それには条件がある。
奥様、だ。彼女を救わずにそれをやったら人一人見殺すことになる。
「君達の奥様がまだ屋敷に居るらしい。場所は分かるか?」
が、返ってくるのはふるふるという首の動き。
「知らない?君達は仮にもメイドだが」
「数日前にペットを亡くして、奥様は隠し部屋に籠もられてしまったって」
言われ、左手で髪を掻く。
「そうか」
嘘は言ってないだろう。となれば……
いや待て。今のおれ達なら。
アルヴィナ、と内心で語りかければ、耳がキィンと異音を捉える。良し、さらっとおれの耳たぶとかに魔法掛けて盗聴してるアルヴィナがしっかり聞く体制に入ってくれたろう。
「アルヴィナ、アルビオンパーツを使いたい。力を貸してくれ」
ふわり、と浮き上がる腰にマウントした鞘飾り。ちゃんと動いてくれたらしい。
いや、個人で使えないわけじゃないが、おれに出来るのは戦闘面ばかり。細かい事はアルヴィナの死霊術に頼むしか無い。
「?」
「おれの仲間が、呼んでくれた」
「あの」
「だから、信じて。きっと、奥様は本当にその子を愛していて、その子も同じだったんだろう?」
静かに、言葉を紡ぐ。アルヴィナの気配が背に憑いている気がする。
「無念の氷結を燃える力に変える鋼の龍鱗を君に貸す。だから、おれに手を貸してくれ。
君の大事だった人を、すぐに君の所に送らないように」
名も知らぬペットに語りかける。そうすれば、浮かび上がったガントレット状の龍鱗は、まっすぐ60度、おれの胸元の斜め上を示す!
「有難う、応えてくれて……伝哮雪歌ァッ!」
場所さえ、リミット前に分かれば!おれはそのまま壁をぶち抜く気で刃を構え、空を蹴った。