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オーラス、或いは投げられたバトン

「……この時間も終わりか」

 ぽつり、とエッケハルトが寂しげに呟く。その目は本当に名残惜しそうで……

 

 あ駄目だ、コイツアナしか見てないな?とその視線の向きから呆れ果てる。たしかにアナだって頑張ってはいたが、この場を作り出したのはリリーナ嬢だぞ?もっとその当人も見てやれよ。アナ一人のステージじゃないんだぞ。

 

 ってダメ出ししたいが、おれ自身が偉そうに言える立場でもないんだよな……

 って考えていたら、終わりの挨拶らしきものを5回のアンコールで時間も伸びて疲れているだろうに高らかに声を張り上げる少女が、不意にマイクを落とした。

 

 ……いや、投げたのだと此方へと飛んできてから気が付く。アイリスが用意したゴーレムのマイク。この世界らしく地球と違って葉っぱみたいに幅広く薄いのが集音部分なんだよなこれ。

 

 首を傾げるおれ。そんなおれの方をちらっと見て、桃色ツインテールの少女は横手で手招きした。

 ……聞いてないんだが?いや本気で。

 

 「じゃーん!ということでーっ!」

 「わたし達が照らす明日を護る皇子さま、です」

 「ボクの八咫烏」

 呼ばれ、とっとと行け馬鹿息子と背を父に押し出されてステージに転がるように上がれば、劇では演出で炎を出すから結構暗かったそこは燦然たる光に囲まれていた。眩しすぎるくらいで、片目を細める。

 

 「怖いですよ、皇子さま」

 「そもそも君達の晴れ舞台に何で呼ばれてるんだ」

 後、痛いぞシロノワール。脚をその八咫烏の三本足で百烈蹴りするな。アルヴィナの八咫烏は私だじゃない。

 

 「えー、それ言うのゼノ君ってば」

 「そうですよ、あの時、おれ達がって出て来てくれても良かったのに」

 ……不満げにぷくっと顔を膨らませられても困るんだが!?

 何!?あの子が父の死への嘆きを叫んでた時に飛び出すべきだったって?分かるかそんなもの!

 というかちゃんと抑えてただろうに何でおれが要るんだよ。

 

 「私達、天津甕星が明日を照らす星ならば!」

 「照らす明日を護る龍星」

 「違う、狼」

 ……言われ、ああ多分これだなと理解する。

 

 「茶番劇だ。それでも共に歌舞いてくれるか、おれの罪」

 空から桜の燐光を散らして落ちてくる愛刀。なんというか、分かってる演出で手元に飛んでくるなこの刀。アルヴィナが今もあの天狼の、そして下門の想いが遺っていると言うわけだ!

 「星刃、界放っ!」

 「『スカーレットゼノンッ!』」

 「アルビオン!」

 流石に別人の舞台でフルは……長すぎて不味い。変身音フルに近ければ近い程皆が手を貸してくれるタイミングと時間があるから変身が持つんだが、別に長期変身要らないしな今!

 

 けふっと展開された狼耳の龍兜の下で吐血する。連続しての変身は体に負担が強く伸し掛かる。体感30分ほど聖女二人とアルヴィナのライブが長引いたとはいえ、負担無しに再変身出来る程ではない。ってか、戦闘は楽でもその後変身形態で劇してたからな、ダメージは酷い方だ。動けなくはないが……

 

 うん、心配そうな目は止めてくれアナ、ダメージ残ってるのがバレたら困るだろ。こういうのは涼しい顔してるべきだ。

 「……って違うか」

 苦笑するように笑って、おれは纏う兜を解いた。

 素顔を晒し、口元の血をバレないように手の甲で拭う。

 

 「劇では演じたが、おれ自身はあんなヒーローじゃない」

 ぽつりと呟く。が、リリーナ嬢はそんなの気にせず、ぱちんと指を鳴らした。

 うん、無茶振り止めてくれない?

 

 「それでも、だ。おれ自身は英雄になれずとも、逆に一人でもない」

 言いつつ、ほいと投げられたマイクを更に投げる。

 おい逃げるなエッケハルト。と思っていたら影から出てきたシロノワールが嘴で弾いて無理矢理彼の手にマイクを押し込んでいた。

 

 「うぎゃぁぁっ!」

 「アナと共演できるぞ、とっとと来い」

 「俺とアナちゃんをお前らに巻き込むなぁぁっ!」

 叫ばれるが、今回はおれもアナに巻き込まれた側なんだがな?

 

 と思いつつ、待てば引っ立てられて壇上に青年が連れてこられていた。さらっと連れてきたロダ兄と頼勇が残ってる辺りが需要分かってるなと言いたいが……何でかシロノワールまで居る。案外人気欲しいんだろうか。

 

 「そうそう、私……達も居るしね!」

 「そうですね皇子さま。一人じゃないから、物語の英雄さんと違うことも出来ます」

 「そうそう、ゼノ君達に用意した、この星を繋ぐ4つの刃の曲だって、希望の象徴として歌えるよね!」

 いや無理だが!?

 

 と叫びたかったおれだが、そこで流れたイントロに黙らせられる。それが、おれ自身良く知るイントロであったから。これ、始水の家で見せて貰ったあの作品だな?

 いやそれで良いのか……そもそも何で異世界で再現されてるんだ……

 

 『私の神託ですが?』

 だろうと思ったよ!始水は今日も絶好調である。アニソン輸入くらいなら影響出ないからかやりたい放題かこの神様?

 

 「覚悟決めろ、救世主!」

 「ゼノォっ!お前が言うなァァァっ!無責任がよぉっ!」

 そんなこと言いながらマイク構える辺り、やはり律義だ、なんて思っていたらアルヴィナから投げられたマイクを引ったくられた。犯人は勿論シロノワールである。

 シスコンガラスも割と馴染んできたなこういうところ……一昔前なら無視してたろうに。魔神王当人と昔のおれに言ったらいや原作よりフランクだから弟では?と返しそうだ。アルヴィナ命なのは変わってないがな。

 

 「見えぬ太陽 引き上げるのさ!」

 そして、歌詞を叫ぶシロノワール。いや良く知ってるな……と思ったら、ノア姫がせっせと宙に光で歌詞表示してくれていた。うんまあ、おれは聞き慣れてるから曲掛けられたら歌詞は分かるけど他人は分からないわな……

 寧ろノア姫自身が知ってるの可笑しくないか?と言いたいがまあ良いか、ノア姫だし。

 

 「4つの願いを、重ねたら」

 「6つですよ皇子さま」

 「ボクも居る」

 いや待てこれ歌詞だからな!?元歌詞が4人組だったから4なだけでハブる気とか無い。そもそも、おれ、エッケハルト、頼勇、ロダ兄、シロノワールで何か歌ってくれてる勢のみで既にオーバーしてる。

 いや、アルヴィナ歌い始めてるしとっくに6超えてるから6で足りてないぞアナ!?

 

 「夜闇を貫く、夜明けの刃!」

 そうして歌い終わったときには、さらっとリリーナ嬢すら混じっていた。後は父さん。

 うん、後者は何やってるんだよ卒業生!?

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