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黒銀の翼、或いは流星の約束

「……あ、案外歌詞違うんだな」

 始まったライブ。明かりが灯されると共にステージ中央で歌い始める二人の聖女を見て、おれはそう呟いた。

 

 「ええ、歌詞はそれぞれ考えたそうよ」

 「そうして、同じ曲で二つ歌詞を?中々だな……」

 「いや、私達は音楽への造詣は無い。それ故に、相当にアドバイスを貰っている。向こうに合わせた歌詞には仕上がったはずだ」

 頼勇に言われてそれもそうかと頷く。何でも出来そうな頼勇でも、歌はそうでもないか……いや乙女ゲーキャラの低めのイケボだから、音程ちょっと覚束なくても目茶苦茶にカッコいいけどな!?

 

 「そうなのか。それで、この曲ってなんて言うんだ?」

 「『Real eyes-流星の約束』よ」

 良く訳せるなおれの耳と脳ミソ!?

 

 中央で跳ねるリリーナ嬢、その左隣で右手を掲げるアナ。マイク……は無いのだが、それを幻視してしまう。ステージ上に特別なセットは無い。教員が話をする時向けに一段高く出来る場所が競り上がってるだけだな。それでも、キラキラしているように見えるのは、やはりアイドルというものが持つ魔力、なのだろうか。

 

 いや、魔力が実在する世界でそれ言うと心に響くって意味じゃなくなるし魅力と言い直そう。

 そんな事を思っている間に、時が過ぎてサビへと入る。その刹那、見つからなくなる陰の聖域の魔法を解いて飛び出すのは白黒の影。アルヴィナだ。

 煌々としたプリズム光に照らされて、初めて見たその姿は……なんというか、印象が違った。狼というだけあって野性味あるというか何時もちょっとぼさっと拡がった印象がある髪をしっかりと纏めたサイドテール。右手側に向けて流したアナのそれとは逆に、しっかりと梳かれた髪は己の左手側に纏められ、サビに入る際にターンしながらセンターでしっかりと両足で立って右手で天を差したリリーナ嬢を左右から挟んだアナの大きく拡がって、銀と黒の両翼のように揺れた。

 

 「『辿り着く 明日(さき)なんて 分からない。

 ヒカリを信じて、今 星を追い掛けるよ』」

 伸びる良い声。リリーナ嬢の声量は、アナとアルヴィナの二人を凌駕して講堂全体を震わせる。

 その表情は、おれが見た中では断トツで晴れやかで。何も憂わず、おれ相手にも心の底ではあった怯えの色さえも完全に消え去って煌めく。

 

 「……見惚れてるのかワンちゃん?」

 「当たり前だろ?」

 素直におれは頷き、こんなんに使うのもなと思いつつほんの少し鯉口を切って微かに刀身を晒した愛刀を握り、柄を軽く振る。

 月花迅雷、月のように弧を描く刃の軌跡が桜色の花を思わせる稲妻の残光を残す事から付けられた愛刀の名を顕示するように、少女3人を祝福して吹雪く花弁のように、桜雷が迸った。

 

 「おれ相手ならきっと大丈夫の筈、そんな遠慮の何も無い、初めて見た屈託の無い笑み。当然さ、今まで見た中で一番可愛いよ」

 「自分に向けられてなくても?」

 その声と共に、脇腹を小突かれる。

 そういやチケット買えないってふざけんなよ!?してたなアイツと苦笑して、おれは目線を外さずもうちょっと前でも良いぞと空いた方の手で手招きした。

 

 「エックハルト。女の子は心の底からやりたいことをしてる時の満面の笑みが一番可愛いに決まってるだろ、お前ヒロインに惚れたって乙女ゲーで何を見てきたんだよ」

 「キス顔とか一部以外大体男の顔」

 「……悪いそうだった」

 うん、これはおれの例が悪かった。あのゲーム、一応初代は乙女ゲーだからルート毎の攻略対象メインのCGの方が多い。ギャルゲー版とかはやり込みきれてないし、満面の笑みのCGとか無かった気がするしな。

 

 「君の(きぼう)が」

 右サイドテールの少女の涼やかな声が、間奏の中、不意に音が途切れてしんと静まった講堂に響く。

 「私の祈り(ゆめ)が」

 左サイドテールの少女の落ち着いた声が、遠巻きに轟くような小さな音がなり始めるのに合わせて、アナの声が起こした波紋を広げる。

 「夜を越えて 煌めくまで……っ!」

 そして、2つを合わせたツインテールに桃色の髪を結んだ少女の叫びが、大きなうねりを呼ぶように木霊する。

 「「「届けーっ!」」」

 3人の、大サビ寸前の声が重なった。

 

 

 「……っ!ということで、皆ー!聞こえてるかなー!」

 そして、音楽が鳴り止むと共に、びしっと指を……誰とも分からないくらいの場所へ向けて、桃色少女は声を響かせる。

 いや、ついさっきまで歌ってたとは思えないくらいのよく通る声だ。ゲームだとパートボイスだったが、フルで聞くと迫力が凄い。普段それっぽさを出せてないが、この中心って感じのキラキラさは間違いなく、おれが知るゲームでの天光の聖女リリーナ・アグノエルのものと言って差し支えないだろう。

 

 「えへへ、そんなに皆さん、大きな声で応えてくれるくらいに、楽しんでもらえましたか?」

 センターに立つ少女を立てるように、横でアナが微笑めば、何となくブー!という声が聞こえた。

 「あはは、大丈夫ですよ?始まりの歌は終わっても、まだまだこの時間は続きますから。

 ですけどちょっと、次までに一緒に頑張ってくれるわたし達の大切な友達を皆さんにも紹介したいな、って」

 ぴょん、とリリーナ嬢の前に出るアルヴィナ。

 

 「えへへ、リリーナ・アルヴィナちゃんです。聖女のリリーナちゃんと同じく昔の聖女さまのお名前から付けられた名前の女の子で、わたしとリリーナちゃんの友達。

 そして……」

 アナの目線を受けたのか、ひょいと一人だけ帽子をしていたアルヴィナがその帽子を取った。

 光に照らされ、揺れる黒髪と白い狼耳。隠したがりのアルヴィナには、少し心理的負担もあるだろうが、ちゃんと己を曝け出す。

 

 「人間じゃないんですよ?それでも、頑張ろうって言ってくれたから皆さんにお披露目です。

 だから、これがわたしたち……」

 「そう、『天津甕星(アマツミカボシ)』!この世界の明日を、希望の光で照らすお星さまになるべく私と!」

 「わたしと!」

 「今はボクと」

 「「聖女って呼ばれてるなら出来ることをって思って作った、歌で明日を生きたい想いを照らすグループです!」」

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