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天空、或いは友達

「魔神!」

 「『『龍帝!』』」

 おれの声に、始祖と先祖、2つの声が呼応する……いやそれで良いのか龍姫、魔名を唱えれば声が届くからこそとその名を識り唱える事に制限がある法則がある割に普通に声重ねてるが?

 「「『スカーレットゼノンッ!』」」

 重なるアルヴィナの声……だけではなく、おれの代わりに死んだアルデの声も聞こえた気がした。

 

 ……お前を死に追いやった相手だぞ。それでも、変われるなら、おれを信じて託すっていうのか。

 すまない、そして有り難う。

 

 「『『『アルビオンッ!』』』」

 下門の叫びに合わせ背後で響く咆哮。……って母の幻聴だけじゃなく実際アウィルが遠くで吠えてるのが屋根を開けたから響いてるなこれ!?

 

 屋内に、そよ風が吹き抜ける。アルヴィナがノリで手伝ってくれているからか、カラドリウスがおれの魂に遺した片翼のマントが最愛の人を護るための嵐を纏って膨れはためく。声はないが、ある程度はおれを認めてくれている。

 ……何処まで、おれと共に変身フル詠唱してるおれに託した遺志(ほし)達の声が周囲に届いているかは知らない。でも!

 

 同時、響くのは知らない前奏。って何だこれ。

 「「「『『The dragonic saber with you 』』」」」

 そして、変身後に轟くフル詠唱のサビ……おれが叫ばない部分を謳う一人と1柱に、3つの声が重なる。前も歌ってたアルヴィナ……に加えてロダ兄と頼勇だ。

 「「『『Are stars to bright and realize

 Words to Vanguard Worlds』』」」

 ……あ、アルヴィナが止められたのか声が消えた。

 

 ……何時もの最後のアレ、曲の前奏に変えたのか!?ってか知らない曲だがいきなり歌い始めて合わせられるって何時の間に練習してたんだロダ兄!?

 というか、そもそも今回の劇ってロダ兄等の出番なんて組み込めるシナリオでも無かったような……

 

 ええい、信じるだけだ!

 背の左右で完全に姿が違うオーラの翼を拡げ……噴かせないように三歩助走して強く床を蹴り、飛ぶ!

 噴かせない理由は簡単だ、周囲の子供達が吹き飛ぶ。今回は元々想定していたガワだけのデッドウェイトじゃなく、本気で変身してるからな!

 

 そして、一瞬で空を駆けたおれは天空へと辿り着く。

 割れた空、まだ夕暮れには少しだけ早い茜色に染まり始めた空が砕け、謎の空間が見えている。そして、そこから湧いてくるのは天使のような異形の存在達だ。

 鎖で肉体を貫き繋がれてその端に大きな白翼を拡げ、肉体の何処かに祈る少女の顔を持つ化け物。見たことがある手型が3体に、前見たのを半ば石にしたような前足がモアイ?な獅子っぽいのが1体。そして鎖で雁字搦めに縛られた蛇みたいな新顔が3体。最後のはまるで捻れた杖のようにも見えるが……どんな悪趣味だ。

 

 が、それを見ておれは少しだけ安堵の息を吐く。こいつら仮称Xは神の使徒。異形な程量産型で性能が低い。ならば、コイツ等はおれの力の根底に関わるAGX-ANC11H2D《ALBION》で倒してた奴って事になる。

 竜胆に負担を掛ける必要もない!

 

 「……この世界を護るためだ。手を貸してくれ、月花迅雷よ!」

 そのまま、踏み込み抜刀斬りで一体断とうと思い、愛刀を一度鞘に納めたところで、違和感に気が付く。

 空に巨大な銀影がない。竜胆と言えばアガートラーム、流石にリスクのデカい葬甲霊依(ポゼッション)形態にはならないだろうがと思っていたが……そもそも銀腕のカミを呼んでいない?

 

 「竜胆?」

 蛇の目が光ったかと思うや、鎖が先っぽから生えた尻尾の先から飛んでくるビーム。それを翼を噴かせる勢いを抑えて減速する事で回避しつつおれはその姿を探す。

 ちゃんと居た。あの時おれがアガートラームを出させるために対峙した騎士鎧姿だ。が、アレだな、ユーゴ・シュヴァリエサイズなせいかパーツ外さないと着れないのだろう、腹部の装甲が無くてお腹が剥き出しだし、前腕の装甲は萌え袖状態。ユーゴってスタイル良くは無かったというか股下微妙だったからスタイル良い竜胆姿でもギリギリ脚装甲は付けきれたようだが、太もも当たりは締め付けられてそうだ。後、股間近くに隙間があるっぽいがホントギリギリサイズなせいで膝が覆われてて脚も曲げられないな。

 

 ……何やってるんだコイツ……?

 

 「竜胆、そいつは何の趣味だ?」

 折れた剣を取り落とす姿を見て、それを蹴り上げて手に収めつつ、おれは呆れてその不格好な少女を見る。

 「っ!これで、何か出来るのかって、な!」

 あの日おれが打ち砕いたガラティーンというらしい機械剣。実体がほぼ柄しか無く結晶の刃を伸ばすエクスカリバーより実体が大きく取り回しが悪い旧型らしいが……これ直して使うしか無いのか?いや半ばから折れたままだし根元欠けてるし完全には直ってないが。

 

 が、割とちゃんと斬れる。すぱっと蛇と鎖を絶ち……

 「伝!哮!雪歌ァッ!」

 即座に無理に装甲の龍の甲殻のように刺々しい部分に柄を引っ掛けて抜刀、空を蹴って縮地、獅子の一本に融合した前腕を貫いた。

 

 硬い!が、月花迅雷ならば!

 「逆昂(げっこう)!龍鱗断!」

 アロンダイト・アルビオンの遺した精霊結晶で修復された今の愛刀は、時に峰を逆立て龍を模す。その時ならば、脆い蒼水晶のバリアは貫ける!

 まあ!アガートラーム相手には通じないくらいの対精霊能力だから、こういう敵相手に奥義で結晶貫く必要がないってだけだがな!

 

 「ちょ、何?」

 「そっちこそ何だその姿」

 「……あーしだってさ、兎に角アガートラーム頼みじゃ変わってない扱いされんの分かってこうしてるんだけど?」

 言われ、仮面の下で苦笑する。

 言い返されたというか、あれだけ言っておいて竜胆に昔の駄目さを求めていたのは、おれの方か。

 

 「……なら、良い!」

 「ってか、何で来た訳?」

 「……一人じゃないから逃げなくて良いだろ?連れ戻しに来た……って事だ!

 電磁!刀奉!」

 ガントレット状のアルビオンパーツを愛刀の柄先に槍のように尖らせて配置、鞘に刀身の放つ電力を纏わせ、撃ち出す!

 

 「あ、何やってんのさ」

 「あの蛇的なの、体内毒まみれだ。何処まで変な作用があるか分からないのに、食らってやる道理はない」

 「あー、あのアスクレピオス型、そういやアンタ大体近接……今はあーしもか」

 愛刀の放つ天狼の雷じゃ、基本的にバリアに阻まれるから仕方ない。刀を射出して無理矢理対応する。

 いや、愛刀がぶっ刺さって消えていく2体目の蛇型の毒が刀全体にまぶされるのは心が痛むが……

 

 『心配いりませんよ兄さん。私が残した最後の切り札、ゼロオメガ以外に傷など付けられるものですか』

 と、神様が太鼓判押してくれる……が無事だと思ってなきゃ射出しない。心境的にはそれでも毒に突っ込むのが嫌なだけだ。

 というか、実際不滅の神器の割に折られたからかちょっと消極的な言い方だな始水!?

 

 戻れ、と心で呼べば、撃ち出した筈の愛刀の姿は手元に戻るが……

 あ、毒性か柄に巻いてる皮溶けてるな。侵食前に転移で振り払ったからか他には損傷も無いが……柄の革部分は刀身に比べて脆すぎるからなぁ……

 

 「……帰るぞ、竜胆」

 2分後、結局まともに戦えないが空は飛べるし逃げずにいた少女を横目で見ながら、空の全ての神の輩を撃ち落とし、おれは愛刀を収めると右手で折れた剣を刀身を握って柄を差し出した。

 

 「……返すんだ。あーしに要るように見える?」

 「死ぬ気も無いだろ、持ってろ」

 アガートラームを無闇に使わないって言葉を信じたと、言外に伝える。

 

 「ま、そうだけど」

 「が、色々変な場所を晒して見えてるぞ、その鎧はどうなんだ」

 「何、あーしの事気になる?好きになったの?」

 「なると思うのかよ竜胆?

 ……あの時、おれが自分の事しか見えてなくなければ、お前を正してれば」

 装甲した仮面を解除して、ぎこちなく微笑む。言語化難しいな、これ。

 

 「友達まではなれたかもしれないし、きっとそうなるべきだった。

 だから、それをやり直そうとしてるだけだ。何時かおれがおれを赦せるように、な」

 

 少女が空で固まる。不格好に被さった兜のせいで表情が……

 あ、結んだ髪のせいで変に浮いてたから掬い上げるような風で兜が飛んだな。

 

 「……正直さ、解釈違いはあんだけど?」

 そう告げる少女は、けれどユーゴ時代に、いやもっと昔から顔に貼り付いていた憑き物が落ちきったように、らしくなく口元に微笑みを浮かべていた。

 「でもまあ、いっか。あーしなりに、生きてみるから」

 そう言って、おれが落とさないよう足のつま先で引っ掛けておいた兜を拾おうとして……

 あ、胸を下にして揺れたせいか更に胸部の鎧すらズレて体勢崩した。

 良くもまあこんな状態で一人で出ていったなコイツ!?

 

 「……ったく、改めて、そのうち出ていきたい理由は分かったが、一旦帰るぞ竜胆」

 その首根っこを捕まえて、おれは息を吐いた。

 「……良いけど、何で焦る訳?これがリアル劇じゃん。きっと大喜びされてるっての」

 「だとしてもゲスト呼んでおいておれ単独の劇なんてお出し出来るか!」

 

 肩を竦め、アイリス、と呟けば、何時の間にか妹が仕込んでいてずっと遠い感じで鳴っていた音が大きく響く。

 

 そう、つまり……

 『『理想を未来(あした)とし 君の中の英雄を呼べ』』

 BGMかよって感じで聞こえていた、二人の歌である。

 二番らしきものの後だし、多分、大サビの直前のタメだ、此処。

 

 「……こういう事だ!」

 「もう、変に拡散しなくても最初からアステールが聞かせてくれてるっての、離せよ」

 「……駄目だ。二度とあーだこーだ言えないように、皆に情けなく連れ戻される姿を晒せ」

 

 ……というか、この先まあ竜胆を椅子にでも縛ってギリギリ劇は出来そうだが、時間稼ぎの弁明とか出来るよなロダ兄!?

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