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騎士団、或いは預かりもの

「あ、居た」

 と、少し顔に汗を浮かべた桜理が走ってきたのは、昨日も行った出店にアイリスを連れて行き、服自体が着るゴーレムでありそれを使って然りげ無く補助して無双しだす妹をそろそろ宥めないとな?と思っていた時であった。

 

 うん、楽しかったかアイリス。でも他の人が楽しむ分を奪っちゃ駄目だぞ?おれ達は人々が楽しんで生きられる世界を維持する側なんだから。

 

 「どうしたんだオーウェン?」

 「えっと、昨日リリーナさん達と一緒に遊んだ子達が居るよね?」

 その言葉におれは頷く。アイリスが横でふんふんと首肯しているのは……まあ仕方ないか。アイリスから貰った装飾品に多少の感知能力あるのは知ってるからな。感知範囲は知らないが、範囲内だから見たか聞いたかしてたんだろう。

 「どうしたんだ?」

 「今日も来てて……、何だか入口で揉めてるっぽいから呼びに来たんだ」

 「良く分かったな?」

 「あ、僕リリーナさんと一緒に頑張ってる皆のところに挨拶って、連れ回されてたから……」

 あはは、と少年は笑って己の一房だけある桜色の前髪を右手人差し指で絡めた。

 

 「良い人だけど疲れるよね……デフォルトが明るいから」

 「案外暗くないか?」

 「何があって怯えてるのはそうだけど、親しくなると根の明るさに圧倒されるタイプだよリリーナさん。僕と違って」

 まあ、と少し考える。やる!ってアイドル的な出し物を推進したパワーは中々だしな、確かにリリーナ嬢って人に馴れれば行動力凄いのかもしれない。

 

 の割には昔のリリーナ嬢そんなに活動的じゃなかったが、あれはゲームと現実の差でどうすべきかとか、現実に男性と関わることへのトラウマとかあったのか?まあ良いか、楽しげで良かった。

 

 なんて話しながら、おれはひょいと窓を飛び越えて庭へと降りる。

 「アイリスは」 

 「満足……です」

 と、窓に腰掛けて告げて送ってくれる妹に有難うと手を降って、おれは1年ほど前に防衛した学園の正門前へと向かった。

 

 ……あ、桜理忘れてきた。が、まあ後から来てくれるだろう。

 

 そうして辿り着いた門の前、人々を捌くためにあまり大きく開かず、門を見守る何時もの交代制の衛兵の他にもこれ以上開けなくなるような位置に小屋を建てて受付を行っている其処には、小さな人だかりがあった。

 

 「リリーナ嬢」

 「……じゃなくてすまないね、ゼノちゃん?」

 「っ!?あれ、ルー姐?」

 果たして、多分リリーナ嬢が聖女さまーと囲まれているのだろうと思っていた人垣の中心には銀髪を2つ纏めた美少女(男性)が居た。兄のルディウスだ。

 「お帰りなさいルー姐、けれども珍しい」

 ルー姐……皇狼騎士団長ルディウスは帝国各所を飛び回っている筈だ。こんな祭に顔を出すのは何と言うかイメージにそぐわない。

 

 「それは、この子達の事があってね」

 と、屈んだルー姐に肩を押されておれの方につんのめりかけるのは昨日の少年だ。リーダーの子だな。

 「あれ?この子」

 「そう、彼の父親はルー姐達と一緒に騎士団の兵をやっててね」

 言い回し的に騎士……つまり貴族位は持たない、くらいの立場かとおれは頷く。……あれ?

 

 「ルー姐、おかしくはないか?」

 「可笑しいかな?」

 楽しげな兄におれは真剣な眼差しを返す。怖がる少年の肩におれも手を置いて、大丈夫だと念を込める。

 

 「だってだルー姐。皇狼騎士団に騎士位持ってないメンバー居ないだろ」

 なお、機虹騎士団には居る。まあおれ自身半ばガイストと頼勇任せな点があるから、全員の顔と名前がギリギリ一致する程度で家族関係とか疎いが……

 「あー、ゼノちゃんそこは大丈夫。ルー姐のところじゃないから」

 言われてほっと息を吐く。誤魔化すような素振りはなく、ぱたぱたと子供っぽく無邪気に誘う姿は少女のようで。これはルー姐だ、他人が化けてたり真性異言に乗っ取られてたりしないだろう。ならば、おれの知らない事実が正当な理由を語ってくれる。

 

 と、そこまで背の高くないおれよりほんの少し低い背丈で、軽やかにおれの肩に手を当てて、兄は耳元に唇を近付けた。

 「魔神族から人々を護ることは、もう皇の名を持つ団だけでやりきれる範囲じゃないよ」

 ふわっと香る香水はミントの爽やかさで。けれども、言葉にはねっとりとした血の香りしかついてはいなかった。

 

 「……そう、か。でも、魔法で」

 「更にねゼノちゃん。警告を兼ねておくけど……。ゼノちゃんは誰よりも知ってるとは思うけど、魔神族っぽくて、でも違う相手がこの世界にはもう現れている」

 アルヴィナ?とは思うが恐らく違う。

 というところで、脳裏に漸くあの人間の顔を持つバケモノ達の姿が過った。

 「X」

 「そう、仮称Xっていうらしい、蒼き結晶を纏うバケモノ。彼等から受けた傷は……ゼノちゃんは最初から魔法で治らないから気にしないだろうけど。普通の人だって、魔法じゃ治らない。自分の治ろうとする気合が氷を溶かさない限り治せない、みたいなんだ」

 そう来たかぁ、とおれは唇を噛んだ。囁きは兄なりの優しさだろう、周囲からはこんな物騒な話をしてるようには見えないほど、彼の動きは軽やかだ。

 

 「だからねゼノちゃん、彼らの大事な人が帰ってくれるよう、少しの間面倒見てやれないかな?」

 言われておれは頷く。

 「そっか、だから今日も君は来たんだ」

 「父ちゃん、聖女様が七天様に選ばれて、これで世界は明日が迎えられるからって。すっごく学園祭で聖女様に会えるの、楽しみにしてたから」

 ぽつり、と翠の少年は語る。

 「だから、今はお仕事で居ないけど帰ってきた時に色々と教えてやるんだ!」

 ……死んでたら後味悪いってレベルじゃないぞこれ、と内心で苦虫を噛み潰す。まあ無事ではあるらしいから何とか片足踏み留まってるか。

 

 「じゃ、騎士団長として任されたケアはしたし、ゼノちゃんにも会えたし、そろそろルー姐仕事に戻らなきゃ。

 ルー姐見たら逃げちゃった桃色の子にも宜しくねー!」

 と、言うだけ言って、ぱたぱた手を振ると青年は着込んだスカートを手で抑え、ガードするような装飾の魔力の鎧を身に纏い、そのまま飛び立っていった。

 

 後には、唖然とした少年等が残される。

 「凄いお姉さんだった……」

 「お兄さん、だ」

 「うっそだぁ!?」

 「ちょゼノ君!?あれお兄さんなの!?」

 なんて、ひょこりと戻って来た(良く見れば入口で握手会してたっぽい)リリーナ嬢もあんぐりと口を開けていて。それが可笑しくておれは苦笑を浮かべた。

 

 「おれのお兄さんだよ、二人共。

 じゃ、合流出来たし……」

 というところで、おれは不意に行列を見掛けた。入口程近くの教室を借りての出し物のようだが、列が長い。そして……あれ?これ何の展示だ?この場所は生徒に貸してないんじゃ無かったろうか。

 

 「ゼノ君?」

 「どうしたんだ?」

 二人から怪訝そうに言われる中、おれは講堂の中程、列を作っている入口とは違う場所に開いている扉を見つけて……

 

 「あら、珍しいわね。子供連れとは」

 「何やってるんだノア姫?」

 果たして、何時ものように伸ばした髪を後ろで括ったエルフの媛が、エプロン姿にコック帽を被って何かしていた。うん、何だここ。

 

 「妹から素材も届けてもらったのだし。エルフらしいものを用意して欲しいと請われた以上、郷に従ってあげる。ということよ。喫茶NOA,1日限りの開店をさせて貰っているわ、分かったならば座りなさい?」

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