出店、或いは仕掛け
「さて、と」
射的を管理している学生(ちなみにリリーナ嬢をガン見していた。その辺り話を聞くに元プロアイドルだからガード甘いアナと違ってスカートの下は見えそうで見えないを徹底してると思うぞ?)にコインを渡して、少年達を見る。
まあ、6歳くらいだ。おれが6歳の頃はもっと賢そうな顔してたとは思うが、まあそれは個人差というか転生者故の老成だろう。それを考えると転生無関係なアナの悟りっぷりが凄いなあの頃。当時から聖女の片鱗見せてたのか。
『いえ、兄さんが頼れるのに危なっかし過ぎる珍種だったせいでお姉さんぶる必要があっただけかと』
正論は黙ってくれないか始水!?
「君達は先にやるか?それとも後にやるか?
先ならばおれに後から負けるかもしれないが、勝ったならば何も反撃させない。後ならばおれが失敗したら有利に頑張れるが、おれが先に落としたら戦うことすら出来やしない」
まあ、実際におれが先行ならそこそこのラインまで動かして余ったら外すけどな。
そう思いながら眺めれば、少年達は少し悩んだ後、先にやる!と言い出した。
……あ、二枚しかコインが無い。さり気なく弾いて三枚目を係に渡して誤魔化しておく。
で、最初にリーダー格らしい少年(髪色的に多分風魔法とか得意そうだ)が弓を構える。真剣な顔で、睨むのは2つの的になっている人形だ。片方を落とせば大きなヌイグルミ、もう片方はお菓子の詰め合わせが貰える奴。特等と一等、幾ら営利でなくとも楽々取られては困るレベルの品だろう。
ってか、あのヌイグルミ、アナからリリーナちゃんがちょっと欲しそうにしてましたよと聞いたが値段はディンギル単位だった筈。1.2だっけ?うん、高すぎて取れるようにしてない気もする。低額景品なら良いんだが、学園祭で景品にするには高いだろあのヌイグルミ。
ちなみに、モチーフは猫だ。本物の猫よりデカいってかリリーナ嬢なら抱いて寝られる抱き枕レベルのデカさだが……
と、思ってる間にひゅっと先が安全性考慮して柔らか素材な矢が放たれ……
その刹那、台がスライドした。哀れ矢は景品を得られる的人形の間を抜け、虚しく覆いの布に当たる。
魔法でコンベア的に動くのかあの台。知ってしまえば、良く見ればちょっと遠くで見てる別の係の人が何か詠唱してたな、と思い返せる。が、初見殺し度は強いだろう。
「まだっ!」
今度は動くと思ってか少年は人形の右を狙う。良い狙いだ、明後日の方に矢が飛ばないのを含めて本当に子供にしては才覚を感じる良い腕。が……今回詠唱してないから動かないんだ。
そんなおれの内心は正しく、虚しくやはり矢は外れる。
いや性格悪くないかこの出店?当てても子供の力とへろへろ弓矢じゃ人形一発じゃ倒れないだろこれ。せめて全発狙いが合ってたら当てさせてやれよ。
「くっそ!まだ!」
と、矢をつがえて必死に狙う少年だが、結局最初に渡される5本の矢のうち当たったのすら一発、それもカス当たりなのでほぼ揺らぎすらしなかった。
「そんな……皆、頼む」
と、しょぼんと肩を落として少年は弓を横の子に渡す。
うーん、リーダー格の割に素直だ。竜胆ならお前らの分寄越せとか言ってそうだってのに譲るんだな。
ほっこり見てれば、少年はリリーナ嬢に慰めてとばかりに寄っていき……僕でいい?とサクラに庇われるリリーナ嬢に少し残念げにしていた。
失礼な、サクラ割と中性的だがボーイッシュ美少女だろ。いや今オーウェンだから普通に男か。その辺り、変におれの前だと女の子出そうとしてくるせいで分からなくなる。
とか思っていたら二人目が終わっていた。うんまあ、普通の5〜6歳の少年なんて全発明後日に飛ばして当たり前だわな。下手に大きく外れたから軽い人形に一発矢が当たってクッキーの小袋貰って憮然としている。
明らかにリーダーより下手だから賞品貰えて悔しいんだろうな。
まあ、リーダー以外に特筆すべき点はなく、さらっと三人目も爆死する。いや当然というか、子供にそうそう取らせる気はないに決まってる。
ので、おれはさくっと弓を借りて弦を引く。うん、脆い。本気で引けばバラッバラに分解しそうだな。
いやまあ、おれ向けの弓って上級職の高レベル向けというか、人間向けじゃないぐらいの弦の張り方してるから仕方ないがな!
大体の威力は対物ライフルとタメを張るくらい。そんなもんこの場で撃ってどうする。
そして、片眼で人形を睨む。
うん、悲鳴をあげるなそこの係の生徒。当てないし傷付く火力を出そうとしたら弓が先に折れるから安心しろ。
なんて思いつつ、頑張れーするリリーナ嬢の応援を受けて見据える。
大体のコンベア移動速度は端から見て把握した。今回の詠唱は……あるな、ということは動く。
と分かった所で!
一気に弓弦を引き、折れる前に解き放つ。一直線に飛翔した矢は動く的……ではなく、止まった下の方の的の人形、そのコケシみたいな形状の脇腹を撃ち抜いた。
そう、皆動く方、つまりヌイグルミ狙って爆死してたがもう一個リリーナ嬢が見てた皆で食べられるお菓子詰め合わせの人形、もう少し狙いやすいんだよな!
更に言えば不意を突くから威力を乗せて当てやすい。
ということで、おれが壊さない範囲で弓を射た際の威力や人形に仕込まれた簡単に落ちなくする仕組みの確認に打ち込んだ矢は、確かに人形を弾いたが……
ズドン!と背後の布の後ろに仕込まれたマットに突き刺さる矢の威力の割には飛ばないというか、横にスライドするように人形は弾かれた。
うん、磁石的な魔法で床から飛ばなくなってるなこれ。動く辺り完全固定じゃないので何度も上手く当てれば取れるようにはなってる。多分だがライン超えたら魔法が切れて吹っ飛ぶんだろうが、後……1回かな、流石に。
幾ら何でも、おれ基準で距離設定はアホの極みだ。普通の人間ならしっかり横に飛ぶように10回は当てられて初めて来るぐらいの位置まで弾いて、それでも落ちてないからな。これの何倍もは流石にクレームだろ。
「すっご……」
ぽかーんとする桜理、信じてたのか素直に応援するリリーナ嬢、ぐぬぬとばかりに拳を握る少年達。
それを見て、おれがやるべきことは……
「っ、と。駄目か。オーウェン、後は任せていいか?」
最後の一発をコンベア移動を見越して動かなかったら当たる位置に向けて打ち込んで、おれはメダルを弾いて黒髪少年に弓を渡した。
此処で勝ったら正直ちょっとな?ということで、当てれば落ちる位置にまで4発で両方追い込んで、全5本の矢の最後を読みを外したように外す。これでまあ、桜理か諦めず二周目やる少年達が落とせるって寸法だな。
「すまないリリーナ嬢。取ろうとは思ったんだが」
「やっさしーなぁ、ゼノ君ってば。私、ゼノ君から貰っても嬉しいのに」
「ってか、あれアイリスとお揃いだぞ。色まで白猫だから同じだ」
自分で買ったから覚えている。
「あ、ちょっと複雑……でもないよゼノ君。もう、音響とか手伝ってくれたアイリスちゃんとはアイドルの絆!仲良し!って感じで蟠りとか無いし!」
そうか、と頷いてぴょんと跳ねるツーサイドアップを眺めていたら、少年がなれない手付きで打った弓がそれでもちゃんと3発目で菓子袋の人形を落としていた。
「で、できたよ皇子にリリーナさん!」
喜色満面、弓を振る姿は何だか子供っぽくて笑顔になる。で、皆で分けるという菓子袋を預かって見守れば……
「くっそぉぉっ!結局勝てねーのかよ!」
うん。ギリギリまで追い込んだ人形相手に桜理も二周目少年達も全員全敗していた。
結局おれが取るのかよこれ!?
「オーウェン君や私のファン、そしてゼノ君が取ってくれたヌイグルミ、大事にしよー!おー!」
「当てたの全部皇子だけどね……」
「皆が取ろうと頑張らなきゃ、おれそもそも狙いすらしなかったし取れなかったぞ?だからプレゼントしたがった皆の力だ」