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銀の二人と向かう脱出(side:アナスタシア・アルカンシエル)

「それで、何処に行きたいですか?」

 周囲には割と沢山の人が居ます。ある程度のお話であれば聞き流してくれるとは思うんですけど、ぜろおめが?とか色々と怖い事にまで突っ込んだ言葉を言えば、聞かれて拡散されちゃいます。

 

 昔のわたしは気にしなかったんですけど、今はもう違います。違わなきゃ駄目なんです。

 「語らうのも悪くはない、がの」

 「えへへ、わたしもお話ししたいことはありますけど、沢山の人々が頑張った出し物を見て回ってあげないと困っちゃう立場ですから」

 はにかめば、少女も頷いてくれます。

 

 「解らぬでは無いよ」

 「じゃあ、喫茶とか行きます?皆さん張り切って用意してましたし、机と机の間は空けてくれる筈ですけど」

 「止めておこうかの。儂では無礼じゃ」

 言われ、わたしは落ち込みます。ノアさんが皇子さまに言われてお料理作ってたのを知ってる筈なのに無神経で、きゅっとスカートを握ります。

 

 「やっぱり、味が?」

 「思い出せはするが、それだけじゃよ」

 ちょっと言い方は解りにくいですけど、あの時以外のお料理は全部毒の味しかしないって事です……よね?

 

 「なら……」

 って見回します。もうじきお昼時になるから、結構な数の人々が屋台出店なんかのお料理を出す区画に向かって人の波を作っています。それに乗れず、あまりものに触れたがらないのなら……

 

 「えーと、そういえば」

 ぽん!とわたしは手を打ちました。そうです、皇子さまです。

 いえ、会いたいけれど本人ではなくて……今のこれは、あの人の作った出し物の事です。

 

 「む?何かの?」

 大きくて太い尻尾が揺れました。

 「皇子さまのやってるあれですよ。もう行っちゃいました?」

 「儂は毒、他人には触れぬよ。故にの、如何なるだしものも、遠くより眺めるのみ」

 「じゃあ良かったです。わたし一人や皇子さまとだと、悲しいけど変に叩かれちゃいますけど……

 しゅりんがーらちゃんを案内してあげてる最中なら、文句は言わせません」

 よし!と胸元で手をきゅっと握り、わたしは大きく頷きました。

 

 「止めよ。儂は儂、あやつの邪魔をする気など無いよ」

 「邪魔じゃありません。皇子さまが言ってましたけど、脱出げーむ?っていうものらしいんです。

 組んだ人達が、それぞれ用意して貰った場所で謎を解いていく……っていうホラーハウスに近い出し物で、おっきなパズルなんです。他の人とも別の部屋でやりますし、触れて壊れるような仕掛けだと沢山の人が遊べないですし……きっと、今の貴女にはぴったりですよ?」

 ぴくりと、翼が動きました。

 

 えへへ、と笑います。実は結構、この娘分かりやすいですよね?

 「理解したよ。なればまあ、あまり警戒は要らぬか」

 警告と共に皇子さまから聞いてましたけど、人懐っこさが隠せていないです。尻尾は揺れて、けれど翼は閉じたまま。きゅっとちょっぴり緩められていた胸元までも拘束するようにコートの前を閉めて。そんな一見拒絶的な態度も、話してみればこの娘なりに関わろうとするからこそ、傷付けないように自分から閉じるって事が分かります。

 

 「ならば佳し。こんなところで意地を張るものでもないよ」

 されど、と左右で色の違うくりっとした瞳がわたしを見据えました。

 「何故(なにゆえ)に、儂を誘う?

 己のみで往くのがより佳かろうに」

 「一人で行くより楽しいと思いますし、何よりわたし一人だと色々と言われちゃいますから。

 特に皇子さまの出し物は謎解きですから。知り合いほど行きにくいんですよね……知ってるから解けるし聞いてたら面白くないだろ、みたいな事も言われますし」

 困ったなと自分の頬に触れます。

 「だから、そんな無駄な時間を割かないでと、周囲から拒絶されるんです。

 でも、知らないに決まってる人と楽しむなら、意味はありますから」

 よーしと伸びをして、わたしは歩き出しました。

 

 「えへへ、だからわたし自身の為でもあるんですよ?

 楽しみです」

 と、そこに不意に声が聞こえました。

 

 「あー!あの娘って!」

 「アナ……に、シュリか?」

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