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星空、或いは天井

「あ、僕もちょっと空に興味が」

 「ほら、邪魔しちゃ悪いよオーウェン君。っていうか、男同士の友情ーとか私にも分かるよ?

 分かるけどさ、そればっかり優先されてると、女の子として傷付くんだけどなー」

 「う、ご、ごめん……」

 なんて、ちょっと遠くでリリーナ嬢に捕まったっぽい桜理が連れ回される羽目になってるのが見える。

 

 「まあそもそも、皇子忙しいよね……」

 「そうそう、一応婚約者の私相手にもあんまり時間を割けないらしいし……」

 視線が痛い。ついでに周囲の視線もと言いたいが、横のアステールのウィンクした瞳に浮かぶ星にあっ……という感じで色々と察せられた。

 

 ちなみに、ウィンクしてるのは多分片目にしか星がないのを誤魔化すためであって、他意はない……筈。

 

 「まあまあ、ゼノ君モテるしねー。

 私にもモテて欲しい気もするけど」

 「何でそこで僕を見るのさ!?」

 「いや、オーウェン君が気にするかな?とかちょっとした乙女心で」

 

 なんてやりとりを延々と見ていても何も進まない。ってか、仲良いことは良いことだから進展してくれ。好いて貰って悪いが、おれは誰にも応えられないのだから、寧ろ桜理には己のなりたい男らしい男になって欲しいまである。

 となると、それには女の子に恋するのが良いわけで。リリーナ嬢とかおれとの婚約を終わらせる相手という意味でもちょうど良いだろう。存分にラブコメしててくれ、頼むから。

 

 ということで、自慢げなアステールを連れて、案内されて部屋へと入る。流石に分かってるから最初に予約は入れてあるって話だ。

 まだ声が聞こえるが、向こうの二人は二回後の回を予約したらしい。整理券発行して予約入れてく辺り、盛況で良いな。

 

 そんなこんなで、入った大きめの教室。机は片付けられ……ということは無く講義に使われる講堂まんまだが、天井には魔法の掛かった布が張り巡らされている。今は明かりを点けているからあれ?となるが、消せばそこそこ夜空に見えるだろう。後はそこに魔法で空を映すだけ。

 

 そう、おれ達が居るのは天文部のやるプラネタリウムである。多少……というか本当にほんの少しなら知ってるが、この世界の星座とかおれ自身割と疎い。

 なので、実は結構楽しみだったりする。この世界の星座、偉人由来のもの多いからな……。地球にもオリオン座とかあるけど、七天が~でそのオリオン座的なものが多くあるって感じだ。

 オリオン座自体割と無理矢理星の並びを当て嵌めてるのにな、って、これは穿った見方か。

 

 『あ、ちなみに兄さんなら分かるとは思いますが、本物の七大天公認星座は2個くらいですよ』

 くらいって何だ始水。

 『ああ、それは私が把握してる数です。他の六天個神が認定した星座とかは知りませんからね、私。全員一致で認めたのが二個ということです』

 ……逆に二個本物あるんだな!?

 

 オリオンとか、実は本当に星座になってたりするのかもしれない。

 

 「ふっふふー。おーじさまのいちばーん」

 と、とっとと席に着いたおれの横で、一本しか無くなった尻尾がふらふらと揺れる。

 「アステール」 

 「おーじさまは冷たくてー、ステラ以外にも尻尾振っちゃうもんねぇ」

 おれの掌を摘まみ、狐少女は恨めしそうに告げた。

 

 「悪い」

 「悪いという言葉はききたくないなー。

 それはねー、ステラ以外の女の子に見向きもしない一途なおーじさま……ステラの夢の中にしか居ないりそーのおーじさましか口にしたら駄目な言葉かなー」

 うぐっと言葉に詰まる。半ばデートみたいに学園祭とはいえプラネタリウムを二人で見に来て、これを言われる時点で情けなくて涙が出るな。

 

 『まあ兄さんは私のものなので、本当に夢でしかないのですがね』

 ……そこの神様、マウントは大人げないと思うぞ。

 『神様が信徒に啓示をして何が悪いんですかね兄さん?

 只でさえ化身体は遺跡を護るから出られず、二柱ものゼロオメガ対策で本体もてんてこ舞いなんですからこれくらい良いじゃないですか』

 悪い、有り難う。

 

 これしか言えない。始水……七大天の龍姫はもう、おれが本来茶化せるような相手じゃないからな。

 この世界でシュリと戯れられてるのって、この世界に顕現する神の力を制限する創世記の世界理論、つまりは1/7は始水パワーだ。それが無ければ今頃この世界は本来の力のゼロオメガにより消し飛んでる。向こうが真性異言(ゼノグラシア)……転生者なんて送り込んで一応対応出来る範囲の攻めこみ方なの、ひとえに自分達すらも制限する理論を組み込んで世界を切り開いた七大天のお陰なのだ。

 『失礼ですね兄さん。星の龍たる皇龍が一番元の種として格上なので、大体1/5が私です。兄さん含め全人類の2割が私のお陰ですから、もっと敬ってくれても構いませんよ』

 いや1/5かよ!?ドヤる割には少なくないか……?と思うが、悪魔と女神が他に居るしな、そんなものか。

 

 なんて、脳内で会話を続ける。ここまで話しかけてくるのは珍しいというか……声音に元気が無い

 いやまあ、始水なんて常に抑揚少なめでクールっぽいけれど。何時もの澄ましたクールさというよりは今は疲れきって感情も湧かないってイメージだ。

 

 『良く分かりましたね兄さん。本当に、あの毒龍は……世界の外核に一体どれだけの毒を撒き散らしているのかという状況です』

 うーん、おれ達とは別ベクトルで戦ってくれてるんだろうな。

 

 『ということで、少し話し相手、時にはお願いしますよ兄さん。

 けれど、まあ私自身浮気は赦す寛大な龍です。プラネタリウムが終わったら呼んでください』

 それだけ告げて、言葉は切れた。

 

 それと同時、天井の灯りが徐々に消えていく。もう今回のプラネタリウムを見る人間は全員椅子に座ったのだろう。

 

 「おーじさま。ステラのおほしさま。

 楽しみだねぇ……」

 横で、他より座布団というか敷物が敷かれて豪華な椅子の隙間から尻尾を出した狐娘が、天井を見上げるおれの右手に己のちょっと冷たい左手を添えて、ぽつりと呟いた。

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