快晴、或いは祭りの空気
「むぅ……ですよ」
唇を尖らせ、少しだけ不満げにサイドテールにピンクのリボンを結ぶアナ。
「わたしだって、皇子さまと色々と回りたいのに……」
「そう言わないでくれアナ。アステールや他の皆だって来る」
と、今日は少しだけおめかしして何時もの神官服ではないふわふわの服(確か甘ロリ?というのだったか?)な少女に頭を下げた。
「何よりそれと交代で今日の昼からは学園祭中ずっとヴィルジニーが来る事になるんだ。その前にかなりの時間その対応に拘束されるエッケハルトに束の間でも自由をやってくれないか?」
「それは聞きましたし、仕方ないなって思うのはそうなんですよ?」
悲しげに眼を伏せて、少女は呟く。
「でも、ヴィルジニー様がずっとエッケハルトさんと居るって我儘を通せたみたいに、わたしだってってちょっとくらい思っちゃいます。
勿論、実行したりはしませんけど……」
「すまない、アナ。割と任せることになって」
「いえいえ良いんです。皇子さまがわたしを頼ってくれるなんて嬉しいですから。
けれど、申し訳ないと思うなら少しくらい、わたしの言ってほしい事言ってくれたら」
「アナ、今日の服何時もと違うな。個人的にはやっぱり青が入ってる何時もの服装の方が見慣れててしっくり来るけど可愛くて似合ってる」
「えへへ、今日のわたしは聖女さまじゃないですよ?って言いたくて、わざと龍姫様の色を入れてない服にしたんです」
くるっとターンするアナ。ふわりとレースが揺れる。
「あ、アルヴィナちゃんもお揃いの服ですから、会ったらちゃんと誉めてあげて下さいね?」
その言葉におれはこくりと頷き、別れを告げると壁を蹴って屋根上へと身を踊らせた。
そうして、空を見上げる。
「アウィル!」
と、愛狼を呼べば、1分ほどすればどうやって声を聞いたのか分からないが駆けてくる白い影。何か何時もと違って大きめの犬用服を着せられているのが特徴だ。
「ん?おめかしかアウィル?」
『クゥ?』
こてん、と首を傾げる辺り違うようだ。何だろうなあと思いながら服を良く見れば、タグが付いていた。これ学校が発行してる魔法のタグだな。公式で認めたものですよって奴。
……グループ企画、【ふれあい動物広場】とあった。良く見れば、アレットの企画だった。
うん、対策とか取らずに出し物で勝つって意気込んで見てなかったがこんな手段を取ることにしたのか……
お前プライドとかそういったものは無いのか。動物集めて区画に入れておくだけの出し物を学園祭で出すとかさぁ!?
99%其処に居る動物票だぞ、こんなん。
「ってかアウィル、お前それで良いのか?」
『ルゥク?』
キラキラした眼で見返された。うん、多分アウィル自身はこの服着て学園の此処に居れば人々が遊んでくれるらしい、くらいの認識だなこれ。
まあ、本狼が良いなら半ば見世物なのは良いとしよう。さすがにアウィルに頼りきられてる、そんな企画に負けたら恥だしな。下手に対応する方が小物か。
そう考えながら、快晴の空を見上げる。
何でかというと、おれ自身あれな奴を招待しているからな。シュリとか竜胆とか、危険人物がいつ頃来るのかの把握である。
少なくとも、今や円卓の救世主等からすれば裏切り者な竜胆については、空を見れば来るか分かる。空気が微かに渇いて喉にはりつくような気配というか、何というか薄ら寒さがあるんだよな。つまりは人類史の否定者、仮称Xがアガートラームを排しようとこの世界に乗り込んでくる前兆があるって事だ。
ってことで、そういうのへの勘が働くアウィルと共に眺めてみたが、空に異変はない。逆に言えば、現状竜胆の奴、近くまで来てたりしないな?
更にアウィルが下に顔を向けて鼻をひくひくとさせて臭いを嗅いでいるが、その動きも楽しげだ。そろそろ模擬店が準備してるから、その香りだろう。
違和感はない。ということはシュリも来てない……かは定かではないが、少なくとも残りの奴等が強襲してくることはない。毒を抑え込んでるシュリはまだしもラウドラ達は居たら心毒を常に垂れ流してるからな、可笑しな臭いになる筈だ。いや、心毒って嗅げば毒とは思えない甘くて蕩けるような香りしてるが、逆にあれはあれで目立つ。
まあ、シュリから人混みは苦手と聞いてるし、わざわざ人が多いところに意味もなく強襲仕掛けてくる訳もないか。
と、眺めて誰が来ているかを探っていれば、背後に気配が産まれた。
「アステール」
「おー、もっと早くに迎えに来て欲しかったねぇ……ステラは長く居られないねぇ……」