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金髪虐めっ子と、灰銀の誘い(side:竜胆佑胡)

ったく、とばかりに目の前で溜め息を吐く灰銀の髪。前世に良く似ていて、若白髪よりはまだ光沢がある色合いと、黒さのない血色の眼に火傷痕に覆われた隻眼。

 けれど、背の刀が微かに怒ったように電光を迸らせ鞘飾りとなった龍鱗型のパーツが宙に浮かぼうとするのを制し、青年はあーしを見詰めた。

 

 呆れた顔で、奥歯を噛み締めて。ぐっちゃぐちゃの顔で笑顔を浮かべる彼に……

 思わず吹き出したくなるくらい滑稽で。けれども、かひゅっという過呼吸しか漏れ出さない。

 

 「ったく、酷い顔だ」

 更に現れるのは、あーしを此処に閉じ込めた男。より鮮烈な色合いの髪と瞳をした、彼の父たる皇帝。

 まだ優しさを残す獅童三千矢/ゼノと違い、欠片の同情も感じさせない、寒気すら覚える焔がその瞳に燃えている。

 

 「どうしてそれで見逃す?銀龍は分かった、許そう。

 が、こいつに関しては本当に分からん。ルディウスの奴も呆れていたろう?」

 じたばたとするあーしを目線で制し、皇帝は続ける。

 

 「ひっ」

 力があったから。圧倒できたから、恐れずにいられた。でも、借り物でやってたあれを、捨ててしまったから。今のあーしは、それだけできゅっと脚を閉じて震えるしかない。

 

 「見て分かるだろ、父さん」

 「(オレ)には、息子や民、そして直接交流はないが罪もない隣国の民の仇が、首を落とされるのを待っているだけにしか見えんが?」

 じわっと、脚の間から暖かいものが広がりそうになる。

 

 「父さん、恐怖で支配したら竜胆と同じだろ。おれも良くやらかすが、今回は止めてくれ」

 が、その燃える視線を完全に遮って、妙に頼りなく感じる背中が見えた。

 

 「……頼りなくない?」

 「お前が言うな竜胆、見捨てるぞ」

 「マジやめてくんない?」

 「まあ、冗談だが。おれが此処から見捨ててどうする」

 って言ってくれる背中は線が細い割に妙な存在感があって、けれども獅童だと思うとちょっと頼りない。ナイナイってあーし自身の心の中の何かがそう思わせる。

 

 「見て分かるだろ、父さん。今のコイツは、竜胆佑胡であることを選択し、ユーゴとしての自分を棄てた奴は、もう敵じゃない。

 そもそもあれは、傍迷惑で、犠牲者も出して、何時かおれと竜胆でそれを償わなきゃいけなくて、その癖本質は下らない、愛されたいガキ同士の喧嘩だったんだよ」

 と、あーしに言ってた事をそのまま今も告げる皇子。今はもう、あのいけすかない仮面野郎とかから庇う必要もなくて、逃げ出してるから味方とも多分信じられてなくて。それでも、変わらず庇いに来る。

 

 「勿論」

 くるっと上半身を捻って、血色の片眼があーしを射る。その眼は笑っていない。

 「多くの被害を出したのは確かだ」

 「うげっ」

 えずくあーし。でも、言われても仕方ないってか、今更文句言えない。

 

 「あーしだって、全部全部喪ったんだけど?酷くねってカンジ?」

 「お前のせいで死んだ人々も、その遺族も、大事なもの奪われまくったんだ。同じ目に遭おうが、因果応報だろう?

 寧ろ足りないまである」

 「まぁーさ?しゃーないけど」

 「元気にやれてる暇あったら謝りに行け。お前とおれがガキの喧嘩したせいで妹まで喪った人が今日泣いてたぞ」

 「……あーしも捕まって苦しいんだけど!?もっと苦しくすんのフツー!?」

 「するだろ。逃げんな竜胆」

 そう凄まれるとウザったいし正論だしで辛いんだが!?少しはあーしの気持ち汲んでくれよバーカ!

 

 って内心であっかんべーするあーし。けれど、庇いながらも責めてくれるから、あーしの気は少し楽で……

 「……まあ、今となっては、か」

 何時の間にか轟剣を突き付けていた皇帝が、その剣を背に背負ったかと思うと消し去った。

 

 「が、今は神妙になったとして、何故貴様は最初からこのシュヴァリエのクソボケを赦そうとしていた?」

 言われ、あれ?とあーしは思う。ふっつーに殺されかけたような……

 

 「最初から、おれの中で竜胆は、いやユーゴは変われるって思ってたからだよ、父さん」

 「いやあーし三回殺されかけたけど!?」

 「……そうか?この馬鹿とシュヴァリエの息子の肉体を乗っ取ってた頃のゴミの戦いに(オレ)が来た時、馬鹿息子は貴様に敗けを認めさせようとしていた」

 言われ、思い返してみる。

 

 あ、確かに良く良く考えると最後の一戦は一回死ね!されたけど、他は武装破壊して投降させようとしてた……ような?二回目で死んでたマディソンもあれ獅童に殺された訳じゃ無かったし、何ならあーしがしゃーなしに庇いに現れたあのトリトニスの時も、別にヴィルフリート殺すというよりはALBIONの破壊のために翼狙ってた。

 

 「獅童は甘ちゃんって事しょ?」

 「なら、死ぬか。(オレ)は愚鈍な善人である気は無いから」

 「いや殺さないでやってくれよ父さん!?」

 

 はぁ、と一息付くと、獅童は少しだけ眼を閉じた。

 

 「おれさ、自分で自分の罪から逃げてた」

 「別に馬鹿息子のせいでもないがな、大半は。責任を負うのが皇族だが無駄に一人で背負いすぎだ、嫁にも回せ」

 「え、あーしやだけど?」

 「……お前ではないわ」

 いや、別に獅童とか好きじゃないけど、何か釈然としなくね?って思って口から出てた言葉で睨まれて、すごすごと引き下がる。

 

 「自分が生きてて良いって思えるように、自分を赦せる道をずっと心の奥で探してた。

 だからだよ。何となくちょっと話してるだけで分かるんだ。相手が変わりたいって、救われたいって思ってるか」

 そうして、彼は父から目線を外してあーしに微笑み、右手を差し出した。

 

 「竜胆も、下門も、シュリも、マディソンも、他の大半の人達だって。大義だったり下らなかったり、色々理由あっておれ達とは相容れてなかったけれども、そうした想いがあった。

 だからおれは手を伸ばす。だってそれは、おれも同じなんだから」

 その手があーしの鎖を留めていた錠前を親指から中指、三本の指で掴んで引き千切る。

 

 「ただ、だ。

 ティアの姿を盗るあいつや、シュリ以外の堕落と享楽(アージュ=ドゥーハ)の亡毒(=アーカヌム)、そして彼女等に享楽から従う【笑顔(ハスィヤ)】達。それらからは、おれと同じ気持ちを欠片も感じなかった。

 心の底から、あれが楽しくて仕方ない、やりたくて仕方ない、って想って皆を傷付けていた。

 だからだ。そういう相手だけは、おれが討つ。彼等は救われたい認めて欲しい、そんな風に社会に……皆にはしっかりとした状態で有って欲しいおれ達と絶対に相容れないから。皆を傷付けて消し去って、それで喜べる存在だから」

 と、青年は少し苦笑する。

 

 「シロノワールも、主張は割とそうなんだけど……アルヴィナと居れば、何時かって想えるから例外にさせてくれ」

 「いや別に(オレ)は端からやらかさん限りお前に任せているから言われても困るがな」

 「……ってか、あーし、良いの?」

 「竜胆、お前仲間欲しいから無駄に飾ってたろ?

 そんな奴、おれと相容れない敵じゃないよ。まあ、素でやっててくれた方が正直可愛いし仲間出来たろってある種の全否定はしたいが……」

 かっと、頬が怒りでか、羞恥でか……何だか分からない感情で熱くなる。

 

 「いきなり口説くなバーカ!この女を泣かせることにだけ特化したヒモ!」

 「何でこんなにおれはヒモ扱いされるんだ」

 初めて、彼の困惑顔が見れた。

 

 それが可笑しくて笑いながら、あーしは解かれた鎖を払って立ち上がる。

 

 「自分で分かれっての!

 あ、あーし違うから変な気……起こさないか」

 からかおうとして、そんな訳無いって言葉に詰まる。

 

 「兎に角、バーカ!」

 「竜胆、謝るの兼ねて、学園祭来いよ?」

 「は、口説き続く訳!?ってか、あーし普通に居ると精霊に狙われるし、もうアヴァロン=ユートピア裏切ったからノーリスクじゃ力使えないしで他人の所に行くとか御免だっての!」

 立ち上がり、スカートの誇りと煤を払うあーしに向けてハンカチとチケットを出してくる獅童。完全に、もう敵意なんて見えない。

 

 あーしは獅童と、そして早坂を虐めてた時期のあーしに完全に踏ん切りなんて、ついてないのに。

 

 だからそれをひったくって煤を拭きながら、あーしは叫ぶ。

 「勝手に無駄な期待してろっての、バーカ!」

 「期待してるよ。少なくとも、少しの間ならXだっておれ達が誰にも手出しできない範囲で倒すから。

 後、ユーリの生きてるけど魂の無い遺体、今度で良いから本家アステールのところに受け取りに行け。何時までも生ける屍のまま管理させるな」

 「ったく、わーってるっての!」

 それだけ言って、あーしは手首の腕時計のベゼルを捻った。

 

 「ステラ!」

 『おー、ステラおーじさまの前で呼ばないでーって言ったのにー』

 「だから逃げ帰るから顔合わせなくて良いっての!未来へと時間飛ばして逃げる、オーケー?」

 『おー!』

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