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飛来、或いは焔

「……お前さん、最後に聞くがの

 儂の【勇猛果敢(ヴィーラ)】よ、お前さんは何のために儂に手を伸ばす?」

 真剣な瞳がおれを見上げる。そろそろドレスが持たんのと姿を消そうとする前に、独りぼっちの龍の神様が、小さな唇を震わせる。

 

 知ってるだろう、おれの心くらい読めるだろう。けれども、きっとそれは分かるのではなくて耳で聞きたいことで。

 「おれもさ、昔から悩んでばかりだった。結果的に間違っていたような事もきっと沢山あった。

 最適解、求めた最善なんて掴めちゃいない。けれどもさ、おれはずっと一人じゃなかった。

 

 だから、おれは君を救いたい。おれと同じような悩みに苦しんで、更に誰も居なかった君に……もうそうじゃないって言ってやりたい。言葉にすれば、それだけだよ」

 「……愚か、じゃの」

 おれに背を向けて呟く声は、けれども罵倒の言葉にしてはとても柔らかくて。

 

 「心を溶かす毒に、壊れなどせんでくれよ?

 儂を……救うというならば、己の、言葉には……意味を持たせよ」

 それだけ告げると、三首の中で最も弱く、故に動きやすい紫の銀龍の姿はこの場から掻き消えていた。

 

 それを見送って、おれは息を吐く。

 捕まえろって?割と妥当な話ではあるがああして自由に……ってほどあっさりではないが転移能力とか見せつけられるとな。捕まえようとしても無駄ってのは分かるのだ。

 が、同じ能力を持つ筈のラウドラ達が来る気配がないってことは臨戦態勢でなければ転移が出来るって形なんだろう。周囲に毒素撒きすぎると転移出来ないって感じか?

 だから戦う気にさせて被害を出さないようある程度好きに泳がせる。シュリな分には被害とかあまり出そうとしないからこうしてのんびりやる。

 前回ラウドラまで来たのはぶっちゃけ呼び込む導線があったから、だろうしな。シュリだけ来てくれてる間にやれることはやるさ。

 

 結局のところ、おれもそうだが……全てはシュリ自身の心の問題だ。周囲が何言っても変わらない。言い続けて、自分で心に整理を付けるのを待つしか無いんだ。

 

 ……それに気がつけたのはアナとノア姫、

 『こほん』

 後は始水のお陰だ、と幼馴染様が不満げにわざと咳き込みだけ聞かせたので内心で付け加えておく。

 いや実際、始水が居なければもっと思考が頑なな堂々巡りになっていた気もするしな?ずっと居てくれた。アナほど近くて悩むこともなく、良い距離で、けれども離れずに居てくれた。

 

 『兄さん、浮気は許してますよ』

 ……何て神様幼馴染様は言うが、それはそれだ

 何処まで行ってもおれはおれ。恋愛とか父親とか欠片も向いてない。

 

 とか思った刹那、背後に不意に現れた強い気配に振り返る。愛刀を呼び起こして中腰に構え……

 

 「何だ父さんか」

 おれは刀から手を離した。

 「親に向けて何だとはご挨拶だな、ゼノ。言いたいことは無いのか馬鹿息子」

 「何故リリーナ嬢を巻き込んだ。彼を呼べば、そしてリリーナ嬢まで来させればああなることは分かっていたろうに!

 どうしてだ!」

 

 叫ぶおれの顔を見ながら、欠片も揺れず涼しい顔で銀髪焔眼の皇帝は唇を吊り上げた。

 

 「ふん、庇いだてするか。どうした、惚れたか?」

 「それはない。ただ、おれ達は彼女らに唯でさえ苦しい戦いを!おれ達王公貴族が解決すべき有事の解決を!押し付けている立場だろう!」

 「まあそうだな。お前は惚れんか。

 第一あやつが居るのに目移りなど、贅沢以前に節穴か」

 「アナは関係ない。誤魔化さず逃げずに答えてくれ父さん」

 「おっとそう来たか。(オレ)はかのエルフの(ひめ)の事を念頭に語ったのだがな、残念だ」

 悪戯っぽく……だろうか。愉快そうにくつくつと笑う皇帝に悪びれた感じは欠片もない。

 

 「冗談は!」

 「過保護もいい加減にしろ阿呆。庇うだけで何になる」

 焔がおれを取り巻く。轟火の剣デュランダル、幻の焔が燃え盛り、当代の担い手である父の手元で赤金の大剣が輝く。

 

 「けれど!」

 「だからお前は人を信じろというのだ、馬鹿息子。守ろうとし続けたら貴様を助けようと期待以上に応えてくれるお前の嫁を基準にするな。

 多少は苦しみを知らせろ、さもなくばより酷いところで立ち止まるぞ?」

 

 それでも、と反論しようとして言っても平行線だと、おれは完全に構えを解いた。

 

 「……たださ、父さん。限度ってあるだろ」

 「む?(オレ)は寧ろ内心では信じさせて欲しいと思っている、煌めきさえあれば寧ろ楽な相手を選んで送ったつもりだがな?」

 その言葉にうぐっと詰まる。

 確かにそうなんだよな。ヴェネットってシュリの毒食らってても殺意までは無かった。疑問が強かった。ちょっと物言いが強くとも、人選は間違ってなかった。

 

 「いやでもさ」

 「希望を見せるだけだぞ?出来んと思っているのか?

 お前の嫁と、嫁と、嫁面の益もある害獣と、正しき聖女と、後ついでに枢機卿の娘だぞ?」

 ふっ、と男は微笑み、それにまぁ……と返しながらおれは、アルヴィナの扱い酷くないか?とその兄に影から足を蹴り飛ばされながら思っていた。

 

 「ってもう一人誰だ!?」

 「あのエルフだが?」

 「ノア姫に呆れられんぞ父さん!?更に言えば嫁が二人も居る扱いは」

 「(オレ)にはもっと沢山居るぞ?」

 「そうだったよ父さんに言っても無駄だったな畜生!」

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