表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
604/685

夜会、或いは怯えの大衆

そうして、おれは……

 

 「お兄ちゃん、こっち……です」

 もっと寄れとばかりに袖を引く妹(の、ゴーレムだ勿論)の前で憮然とした表情を浮かべていた。いや、どうしてこうなった。

 

 「竪神様は何処ですの!?」

 「申し訳ないが、アイリスと竪神が婚約者かのような発言は止めていただきたいルーセント伯爵令嬢」

 と、苦笑するおれ。つまりはこうだ、アナとノア姫等と居たら、アイリスに夜会に参加しろと呼び出された。気にはなるが……と思ったところ、転移してきた父に良いから行け馬鹿息子とどやされて、アナと別れて正装(何時もの白赤金の和装だ)に着替え、今参加しているわけだ。

 

 が、だ。どうやらこの夜会、婚約者同士で来る者が多い貴族のパーティらしく……。アイリスが来るとなればまず頼勇が相方に決まってる!という判定の元駆け付けたうら若き女性にお前かよ!されている訳だ。

 

 「アナちゃんじゃねぇのかよ使えねぇなこのボケ皇子!」

 「お前はそれで良いのかエッケハルト。自分でアナを誘えよ」

 と、愚痴を溢すのは珍しくソロ参加枠のエッケハルトだ。いや居たのか気が付かなかった。

 ってか、アレットを連れては……いるわけ無いか、うん。

 

 「……断られた……

 此処で一緒に参加したら教会側から俺との婚約をしたものとして話を進められる気がするからって」

 完全に萎れ気味だなこいつと肩を落とす青年を見て思う。

 

 うん、割と可哀想だ。お互いに聖教国……七天教にがっつり絡んでしまったからこそ、今までより更に自由に恋もアプローチも出来ない。一挙一動が人を動かすから慎重を要求される。どうやっても非難しかされないからいっそ気楽なおれとは真逆だな。

 ま、アナがエッケハルトと結婚したいと思うなら何の障害にもならないんだが。例えヴィルジニーだろうが止められないしな、聖女と救世主の結婚とか。

 

 ちなみに、おれは腫れ物扱いされていた。近付くだけで人が逃げる。

 病原菌か何かかおれは?恐怖からか昔と違って食って掛かってくる奴すら居ない。

 

 「……何で居るんだろうな、おれ。これだけ怯えさせておいて」

 瞳にも恐れを滲ませた参加者を見ながらぼやく

 ってか、アナもアステールも割と頑張ってくれてる筈なのに、偏見は未だ止まずか。ってか、おれ自身自分の性格が嫌われがちなのは分かってるし、それは正常な判断だと思う。

 単におれがそれを止められないだけだ。そんなものをフォローしても騙せないものは多いだろう。が、証拠を見せ付けられると辛いというか……

 

 と、足に蹴りが入った直後、そんなおれの頭が炎のハリセンでスコーンと叩かれた。

 今回は一瞬前もって気が付けたから流石にうっかり防衛反応はせず叩かれるに任せる。周囲の貴族の顔がぱあっと明るくなるのが揺れる視界に映った。

 

 助かったシロノワール、と影に向けて右手でサイン、そうして相手を見れば、注目を一心に集めた救世主様は何処か呆れた顔をしていた。

 「ゼノお前さぁ、気配とか気が付かない訳?鈍ったんじゃねぇの?

 お前から無駄な強さ取ったらもう何が残るんだよクソボケが」

 と言われて気配を探るが、怪しいのは……絶望に澱んで抑え込まれた歪んだこの気配は……

 何だ敵意無いしシュリか、後で怒るぞシュリ。ひょこひょこと歩き回ったら周囲の人が危険だろう? 

 

 「ああ、あの銀龍なら」

 「ち、げ、ぇ、よ!?ってか誰だよ!?」

 「おれの知り合い」

 「そんなの聞いてねぇよ!ってか気付けよ!」

 言われ、じゃあシュリじゃないのかと気配を改めて探るが、まともな敵意は無い。怯えてる彼等も己の場を守るためにおれを排する気概を感じない。

 で、後は心配なのか会場の中庭(ちなみに皇族所有の建物の庭だ)を建物三階の窓から優雅に見下ろしてるノア姫、その横ではらはらしてるアナ、何かバツの悪そうな囲まれたリリーナ嬢、お行儀良く座ってるアウィル、以上だな。平民な桜理とかロダ兄とか居ないし、平穏そのもの。

 「何がだ?アナが遠くで見てることとかか?」

 「え、アナちゃんが!?って今それじゃねぇの!後ろ!」

 びしっと指差されて叫ばれるが、アウィルしか居ないぞ背後。いや、一応遠巻きに頑張るんじゃよーしてるシュリも居るか。

 

 「ん?アウィルしか居ないぞ?」

 と、振り返ればやはり『ルルゥ』と吠えてくれる白い狼の姿があった。

 「そいつだよ!?」

 もう駄目だこいつとばかり、エッケハルトが膝から崩れ落ちた。

 

 「清掃費お前持ちな」

 と、敷かれた芝の露と土に汚れたズボンを見てエッケハルト。

 「……分かった」

 「ちゃんとアナちゃんに魔法で洗ってもらえよ!」

 「何だ、元気有り余ってたのか」

 もうやだと地面を叩くエッケハルト。その背を何か皆が応援してるが……うん。アウィルが居ても問題なくないか?

 

 「ゼノ。天狼とか人はビビる」

 「天狼は誇り高く無闇に人を傷つけたりしないだろ。人間より余程安心だ」

 「おまえは!知り合いだから!言えんの!このクソボケ皇子!頭空っぽの方が常識詰め込めんだろ!詰め込めよ!」

 「……すまん。おれにとっては人に危害を加えるアウィルとか有り得ないから気にも止めてなかった」

 が、良く考えるとアウィルが居るの可笑しいな。連れてきてないぞおれ。

 

 と、人がさっと引いたテーブルから骨付きの大降りな肉(羊っぽい魔物のあれだ)を一本取って行儀良く座った狼に差し出す。

 「餌付けすな!?」

 「いや、ご馳走を前にちゃんと貰うまで待ってるんだぞアウィル。何を話すにしてもまずは食べて良いぞとやらないとな」

 もうやだと天を仰がれるが、今回は抗議したい。おれは兎も角、アウィルは馬鹿にするな。理由くらいある筈だし、行儀も良いんだから。

 

 「というかアウィル、何かあったのか?」

 『ルリュ?』

 と、与えた肉を行儀良く骨から外して齧っていた天狼(魔法で誤魔化してない本来の姿)は、こてんと頭を倒す。

 この反応、何か事件があっておれを呼びに来たって感じじゃないな。だとしたら妙に焦りがないし。

 で、アウィルは賢い狼だ、火急の用事無しにこんなところに勝手に来るわけがない。となると……

 

 悩むおれの前に揺れる影。リリーナ嬢だ。ちゃんとこういう場では貴族の娘らしくしっかり着飾った(といっても髪型はトレードマークなのかツーサイドアップだが)桃色聖女様がぶんぶんとおれへと手を振っていた。

 で、多くの人(ほぼ男)の視線がその動きによって揺れるそこそこの胸に行く、と。正直だなオイ。そして微塵も興味無さげなエッケハルトも分かりやすいなお前。アナならガン見してたろうに。

 

 「リリーナ嬢?

 とりあえず、花を模したリボンが何時もより可愛らしいな……というのは置いておいて」

 「ゼノ君ドレスで誉めるところそこなの!?」

 あ、ちょっと引かれたか?と心配になるがそうでもないらしい。目を見開くが少女がその先おれへの視線を曇らせることはなかった。

 

 「……って違って」

 「……早く。お兄ちゃんの、邪魔……」 

 「ご、ごめんってアイリスちゃん!?」

 「……殿下か、様。昨日言った」

 「アイリスちゃん様」

 満足げに頷くアイリス。それで良いのかこの二人。まあ良いのか。

 

 「えっとさ?私ってゼノ君から凄い贈り物とか貰ったじゃん?」

 「……あげたか?」

 首をかしげるおれ。今回のドレスは多分アナによるコーデだろう。教会式の白ベースに桃色が入った色合いは正にそれだ。リボンも違うし……というか桜理の家に同じのがあったから多分お揃いで買ったんだろう。

 

 「いや、そのボケ良いからねゼノ君?」 

 『ルゥ!』

 同意するようにアウィルが天を向いて吠え、漸くおれはそういやあれプレゼントかと思い出した。

 

 「君を護ってくれという願いを込めたドラゴンか」

 「そ、でさ?皇族のシルヴェールさんから人々が知らないドラゴンだと怖がるから大々的に宣伝してくれないかな?と言われて、今回そのお披露目なんだ」

 それを言われて頷く。確かにまあ、見ず知らずのドラゴンが空舞ってたら何事かと思うわな。騎士団のならば鞍もあるし騎士が大体乗ってるがそうでないとどうしても怖いのは分かる。

 

 が、それとアウィルは……

 「ああ、アウィルも紹介したかったのか」

 「そそ、それで私が呼んだんだよー。

 じゃ、ゼノ君も分かってくれたところで、改めて……ジーヴァくーんっ!」 

 その呼び掛けと共に、空が軽く翳った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ