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銀の来襲、或いは勝つ気

「あ、皇子さま」

 と、アレット相手に話してた頃から視界の端にチラチラしていた話題の聖女様(兼乙女ゲーヒロイン様)が、今来ましたよとばかりにニコニコ笑顔で話しかけてくる。

 まあ、おれの静止のせいでちょい遠くで止まり話に絡んでこなかったから今来たってのも間違いじゃないが……

 

 「それにオーウェン君も、ちょっとだけお久しぶりですね?

 わたしたちがちょっと無理な事言っちゃった気もしますけど、あの申請は平気でしたか?」

 と、小首を傾げられるが、多分リリーナ嬢と聖女二人+アルヴィナでアイドルやる申請の事だろう。

 面食らったが、おれ自身アルヴィナには何かしてやらなきゃなという想いはあったが肉体的な血とかしか思い付かなくて止まってたところだ。助かるとしか言いようがない。

 

 「『天津甕星』か。頑張ってくれよな、アナ?」

 「えへへ、皇子さまも楽しくなれるように頑張っちゃいますよ、わたし」

 きゅっと胸元で両拳を握りしめる姿が少し微笑ましくて。

 

 「それは良いんですけど皇子さま、さっきのアレットちゃんは」

 「嫌われたな」

 と、おれは肩を竦める。けれど、それで良い。ぶっちゃけた話、誰かゴミ箱……じゃないが、貯まった不平不満叩き付けられる役が居た方が良いのだ。馬鹿にしやすくて歯止めが効かない。ちょうど良いじゃないか。アイリスなんかに向けたら可哀想だし、父さんやルー姐に向けて言うと怖いからな、そこはおれが担当する。

 

 「ひょっとして、負けてあげたりする気ですか?」 

 心配そうな海色の瞳。信頼されてないなと自業自得ながら奥歯を噛んで、おれはその目を見返した。

 「馬鹿言うなアナ。皇族ってのは、勝ってやることで安心しろと結果で示すものだぞ?

 当然、正面から完勝する気でやるし、勝つ」

 ま、流石に買収とか不正はしないが。

 

 「はい、安心しました。わたし達にも勝つ気で」

 「勝つ気でやるが、勝てても困る」

 おれは頬を掻く。

 

 「あはは、買いかぶり過ぎですよ?」

 「確かにアーニャ様大人気だけど、人気だけで出し物の勝負決まっちゃったら可笑しいから」

 と、珍しく……でもないか。割とやる気の高い桜理の頭をぽんと撫でて苦笑いする。

 

 「基本はそうだがな。おれはおれに出来ることを精一杯やる。けれど、それはそれとして聖女は希望だ。

 おれに出来ることはそれを護ること、喪わせないこと。おれ達が勝つようじゃ、聖女側が情けなくて困る」

 と、頬を掻いて肩を竦めていたら、えへへと笑う銀髪少女が目に止まった。

 

 「皇子さまからそこまで期待されてるなら、もっと頑張りますよ」

 えい、と拳を握って軽く突き上げるが、背が低いせいで微笑ましさしかないぞアナ。

 

 「っていうか、案外期待してるんだ……」

 「いや、おれを何だと思ってたんだオーウェン?」

 「え、自己中で自己犠牲の塊の、僕とかアーニャ様とか信じなくて傷つけまいと遠ざける人」

 「がはっ!?」

 うん、割とそうだからわざとらしく血を吐く演技をして後ずさる。

 

 「は、反論してよ……」

 「出来るかオーウェン。事実は反論できないから痛いものなんだ」

 「でも、嬉しいです。だってわたしに後を託すくらいの信頼はあるんですよね?

 それはおとめげーむ?主人公っていうわたしの知らないわたしの肩書きからかもしれませんけど、そもそもそれ以前に聖女様の肩書きだって重いですし……」

 「うん、重いよねそこら辺……僕なら逃げてたかも」

 「ふふっ。リリーナちゃんも浮かれた気持ちが収まってからは正直怖いって言ってましたよ?」

 そう微笑む聖女。楽しげにサイドテールを指でくるっと巻いた。

 

 ……うーん、多分アナ的にはリリーナ嬢のまだ蕾の淡いを花咲かせたいのかもしれない。が、桜理良く分からないんだよな。

 女の子としての自分を認めるか、男だって前世の姿を主にするか……。チート能力があるから、後者を選べば普通にリリーナ嬢と恋愛も出来るだろうし、その選択をしたならばおれも応援する。

 が、まだサクラ色……な訳はない。玉虫色な現状では何とも応援しようが無いというか、な。いやまあ、少女として、現世の姿でとなるとその淡い想いがおれに向くからそれはそれで辛いが。

 

 おれに出来るのは、所詮手を血で汚す事。誰かと手を繋いで幸せにとか考えれる立場でも無い。キラキラした希望とは違う、血生臭い存在だ。

 

 「う、うん……」

 あ、やっぱり桜理も曖昧に答えるしかないんだな。

 

 「それにしても皇子さま、顔が怖いですよ?」

 と、銀髪の聖女さまはニコニコとおれの手を取る。

 

 「……止めてくれ」

 「いえ、止めません。ズルいことを言うと、皇子さまはわたし達を護り、危険に巻き込むからせめてって人生を、青春を楽しく過ごすために手助けしてくれるんですよね?

 なら、離しません」

 「おれは」

 「駄目です」

 「この手は。

 君が!」

 「構いません」

 「薄汚れて、穢れて、血塗られていて」

 「でも、それはわたしや誰かを必死になって助けようとした結果です。どれだけ汚れていても、それはわたしにとって(きた)ないものじゃありません」

 「悪の敵(あく)は、正義でも希望でも」

 ふわりと、おれの肩に手が回される。少女の小さな体が、おれを抱き締める。

 更に桜理も何かぽんとおれの頭に手を……って待て、桜理じゃなくていつの間にか戻ってきてたノア姫じゃん!?なにやってるんだ先生!?

 

 「貴方がわたしを正義と、聖女と呼ぶなら。絶対にこの手を離しません。

 だってわたしは、貴方が願った未来の希望ですよ?汚れて希望を残してくれた人を、見捨てるわけ無いじゃないですか」

 「ざまぁないわね、自分で勝てないって言った相手に喧嘩売る癖、いい加減止めたらどうかしら?ワタシにも極光の聖女にも勝てるわけ無いわよ、アナタ」

 「そこ、悪い癖だよ獅童君。分かってても辛いんだから」

 三方向逃げ場無し。

 

 『残念でしたね兄さん。360°です』

 

 はぁ、と息を吐く。逃げ場は何時もの事ながら無いようだ。

 

 「えへへ、じゃあ、昨日アイリスちゃんが愚痴ってましたけど、竪神さんと遊びに行った後オーウェン君のところに泊まったんですよね?

 羨ましいから、わたしとも遊びに行ってくださいね?」

 ……逃げ場は、無かった。

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