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襲来、或いは噛み付き

「さて、と」

 ロダ兄にサクラ母の事こそ教えたものの、まだ早いぜワンちゃんと返された後。おれは桜理と共に学園を歩いていた。

 

 「獅童君、これから何をするの?」

 「基本的にはエッケハルトがシナリオを上げてくれるまでに、どんな仕掛けを作っておくかを考えるんだ。

 脱出ゲームは基本的に暗号を解いて先に進む」

 と、おれはさりげなく脳内でwikiを丸暗記でもしたのか情報を流してくれる幼馴染神様の受け売りで語る。

 

 「うん。色んな謎を解く、物語仕立ての謎解きゲームなんだよね?

 脱出って言葉からは派手なアクションさせられるのかなって思うけどそんなんじゃなくて」

 と、それにおれは笑いながら頷き、軽く足を踏み切って飛んだ。

 

 そして、四階の窓にタッチしてひょいと横に片足で着地。

 「皇族だの上級職な騎士団長だのになれば身体能力こんなだからな。まず調整なんてしようがない」

 「説得力が凄い!?」

 まあそうだろう。人間並みに設定したアトラクションなら全部仕掛けぶち抜いて正面突破出来る自信がある。魔法の罠さえ避ければ、壁も穴も飛び越えられるしな。

 「こんなバケモノに物理的に楽しんで貰うよりは頭脳を使えって奴だ。

 あと、単純に教室を主に使う以上体を動かすにはスペースがない」

 うんうんと頷く黒髪の少年におれは苦笑して頭をうっかり撫でながら、話を続ける。

 

 「ってことで、空き部屋なんかを多く使って幾つかの謎を用意する必要があるんだが……

 その謎までエッケハルトに丸投げする訳じゃないし、それを考えておこうって訳。こんな暗号で先に進むための鍵をこう隠したら面白いんじゃないかとか、な」

 そしておれは、不安げに揺れる瞳に笑いかけた。

 

 「大丈夫、おれ達は真性異言(ゼノグラシア)だろ?

 おれはあまり読んでないけれど、サスペンスものとか読んでたらそこの謎かけを元ネタにしたって良いんだ」

 例えば某ホームズの人形の暗号。踊る人形そのものを書いて自作として売り出したら著作権……はこの世界に無いとはいえ倫理的に問題だが、こういった祭の場で暗号を使うくらい良いんじゃないか?という話。

 

 「あ、うんそうだよね」

 と、桜理が軽くフワッとした笑みを返してくれたところで、おれは道に仁王立ちしている少女に気が付いた。

 横には、やれやれといった雰囲気の金髪エルフ。ノア先生である。

 

 「ノア先生にアレット。どうしたんだ?」

 「……こっの、卑怯もの」

 うーん、殺気すら感じる。激怒といった面持ちだな、アレット。原作ゲームからしてかなり嫌われていたという話はあるが、逆に嫌われてるからほぼ絡む時がないんだよな。お陰でどんな会話になるのか検討も付かない。

 「……卑怯者?」

 なので、とりあえず聞き返す。呆れた顔をノア姫がしてるのが気がかりだが。

 

 「どうせ灰かぶり(サンドリヨン)は聞くんでしょうから好きになさい。ワタシは止めたわよ、流石に逆恨みが過ぎる、学園からの評価下がるわよ、と」

 ……何となく理解した。おれの寮という名のボロ小屋をキャンプファイアーした事で呼び出されてキレたな、アレット?

 いやどうなんだ、そもそもおれは許すが他にやったら犯罪だぞ。

 

 「皇族が悪い」

 「皇子は悪くないよ。節穴なんじゃない?」

 が、おれが何かを言うより前に、桜理が珍しく何時もは優しげな眼をつり上げておれの前に立つ。

 

 「何を!貴方も同罪なの。お姉ちゃんを救わず、世界を救わないあんな奴等と!」

 「救おうとしてるよ!」

 「救うのは聖女様じゃない!皇族じゃなくて!あのキラキラした方じゃない!」

 それを言われるとぐぅの音も出ないのが辛いところだ。聖女に頼る時点で民の守護者としてはポンコツだってのは、父さん含めた全員の悩みだ。だから忖度込みで学園生活送ってもらって少しでも何か恩返ししようとしてる訳で。

 

 「いや、負けちゃ駄目だよそこ!?」

 ノア姫の冷ややかな視線が突き刺さる。何だろう、味方が居ない。

 

 「いざという時に人々を護るのが皇族と嘯いておいて!お姉ちゃんも助けない!世界の危機にエッケハルト様や聖女様頼み!」

 びしっ!と少女は持っていたアクセサリー(魔法で圧縮された武器)を展開し、盾の裏に取り付けられた片手剣を利き手と逆の手でおれへと突き付けた。

 「そんな奴等、敬う価値も従う価値もない!皇族だなんて偉ぶるだけで反吐が出る!」

 

 静かに、眼を閉じる。

 

 手元に現れるのはオリハルコンの銀鞘に収められた愛刀。僅かに外面でも帯電が分かる、幾つもの託された想いが織り成した奇跡の神器、湖・月花迅雷。

 それを抜かず、けれども携えて。ぽっかりと空いた左眼窩をも開いておれは栗色のような髪色の少女を見据えた。

 

 「……黙るが良い、アレット・ベルタン」

 「ひっ!?」

 少女が剣を捨て両手で盾を構える。その盾の背には魔法書のページが仕込まれているってのは、原作でも話があったな。

 ……今回仕込んであるのは攻撃魔法、岩槍か。殺意の高いことだ、学園内では基本的に使用禁止だぞそれ。

 

 信頼しているのか動かないノア姫。おれの背後にそそくさと逃げ込む桜理。そして、何か遠くで見かけてしまったのか駆け寄ってくるアナ。

 その全員に向けて軽く手を上げて制止して、おれは少女と対峙する。

 

 「……確かにそう見えるかもしれない。でもな。

 それで馬鹿にして良いのはおれだけだ。護れていないこの皇族失格だけだ。今の見せかけの平和すら、第四皇子ルディウスやアイリスが精一杯やって、それで護られている事を忘れるな」

 「煩いっ!」

 飛んでくる岩槍は避けない。これは魔法……の中では珍しく物理攻撃判定だ。あくまでも岩を固めて撃ち出す、までが魔法であって岩は魔法で産んでおらずそこらから持ってきたもの。

 

 だからだ。裏拳一発、愛刀を握った左手で正面からそれを打ち砕く。

 「言いたいことがあるならおれに好きなだけ吐き出せ。サンドバッグか最前線貼って被害を減らす役にくらいしか立たないが、それくらいはやるぞ?」

 ぱらぱらと落ちる瓦礫。

 

 「不安は払おう。愚痴も聞こう。

 君の言う通り、皇族(おれ)(くに)を護るために生きてるんだから」

 その言葉に、忌々しげにアレットは唇を噛む。

 

 「調子の良いことを!」

 「聖女様と同じだ。希望となる為には調子の良い事くらい言うさ」

 その返しはおれでも分かるくらい欺瞞に満ちて空虚で。

 

 「……勝負よ」

 「ああ、良いよ。但し」

 一歩近付く。

 「ある程度平和的に頼むな?」

 静かに少女が眼を伏せる。勝算を考えているのだろう。直接では皇族相手に勝ち目などほぼ無い。ならば、多分……

 

 「学園祭!そこである出し物の投票で勝負しなさい!」

 「良いが、一位取れとは言うなよ?おれたちも君たちも多分今年は無理だからな」

 「逃げ腰ね」

 「当然だ。おれは希望を護るだけだが、希望そのものが参加しているんだ、勝ててたまるか。

 だからだ、あくまでもおれ達と君達のみで判断する、良いな?負けたら反省しろ」

 「そっちこそ!負けたら謝って学園を出てきなさい、詐欺一族!」

 それだけを告げると、少女は踵を返し……

 

 「反省文書くまで、寮には帰らせないわよ?」

 あ、ノア姫に捕まった。

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