出し物、或いはシナリオ依頼
「は?今なんて?」
炎髪の青年がその青い瞳をくわっと見開いた。
「うーん、獅童君、良いアイデアだとは思うけどさ、場所って大丈夫なの?」
と、聞いている桜理も首を傾げ気味だ。
「ああ、大丈夫だよ。今年は気合いを入れてるグループ多いけど、それと同時にメンバーも多い。そしてついでに、模擬店なんかより発表をやるってところが多いんだ」
と、おれは資料を叩く。
まあ、聖女様方が居て、それが様々に出し物を見るって事を宣言してるからな。目立ち易い出し物で意識されたいという意図は分かる。それこそ文化祭でお化け屋敷やるよりバンドの方がモテるってのは真理だろう。
が、お陰でステージの利用スケジュールは準備時間がタイトになるほどパンパンな割に、使って良い部屋余りがちなんだよな、今年。
去年の資料と見比べると一目瞭然のスカスカさ。記録映像会(つまり自主製作映画みたいなもん)とか、それでも教室利用な出し物のグループはあるが……
「成程成程、結構結構!
面白いじゃあないかワンちゃん、なぁに、此処から始まる縁もまた良し!俺様は支持しよう!」
なんて、おれの肩を叩く青年にだろ?と笑って……
「俺は!脱出ゲームとかいう面倒なものよりアナちゃんミスコンとかやりたいの!」
おれが提案した脱出ゲーム、への反論が飛び出し……
「嫌われんぞエッケハルト」
半眼でおれは突っ込んだ。
ついでにもうミスコンやるグループ居る。いや文化祭の華みたいなものな印象はなくはないが、堂々とミスコンが出し物です!って申請するのはどうなんだ。伯爵家の子息がリーダーだからって通すのもどうなんだ。
「知らん!俺はお前みたいな好きとも一言言ってやらないキザ野郎じゃないの!女の子としてアナちゃんが好きなの!
そこがお前を越える点なんだから」
「アナに直接言え」
「お前による洗脳を解く!」
「むしろ解いてくれよ。おれより幸せに出来るだろうからさ」
おれだって死ぬ気はもう無い。死んで楽になんてなってる暇はない。
けれども、やはり。それでも誰かから好かれるのはどうしても吐き気がして。
シュリは良い、あれは自分を許す手段を欲しておれに手を伸ばしているから。
始水もまだ良い。神様として手出ししにくい分おれみたいなのが必要だという打算がある。
でも、アナにおれは必要ない。居なくても幸せになれる。だのに!と思ってしまうのだ。
だからおれは、炎の赤毛の青年の肩を叩いて……
「ゼノ野郎が、触れんな!」
その手を払われて肩を竦めた。
「おっと、悪縁は絶つに限るが、そうでない縁は大事にするもんだぜ?」
「うっせぇ!アナちゃんを誑かして危険に晒す悪縁が!」
「ちょ、ちょっとエッケハルト様……」
「オーウェン!お前も言ってやれ!」
「え、え!?でも僕は獅童君のこと好きだし……」
「ホモがぁぁぁっ!?」
言われ、少年の瞳が少しだけ曇った。
「ほ、ホモ……」
「でワンちゃん、そのホモってのはなんだ?」
しょんぼりと肩を落とす桜理と、愉快そうなロダ兄に、おれは少し言い澱みながら答えた。
「同姓を恋愛対象にする男」
「おおっと、それは可笑しいぜワンちゃん?」
「まあ可笑しいんだけどさ」
そもそも本名サクラな女の子だぞ半分。つまり、悪く言ってバイだ。良く言えば単なる女の子。
肩を竦めながら、おれは桜理を庇うように軽く横へとさりげなく動いた。
「そもそもリリーナ嬢と割と仲良いしな」
「ちっ、ホモテかよ」
「エッケハルト!」
「ったく、冗談くらい分かれよゼノ。最近……じゃないけど可笑しいぞお前。同じ真性異言だってのに、狂気孕み過ぎだ」
ばん!と少しだけの申し訳なさを奥歯で噛み締めるような、歪んだ顔の青年に肩を叩かれる。
分かっている。それでも、折れた先には何もないから。
「悪いな、怒鳴って。
それでも、オーウェンには謝ってくれ。そういうのが嫌で、苦しんでるんだから」
「そうだぜ少年。そこは、誰しも触れて欲しくないもんだ。謝らなきゃ、自分が悪縁になるぜ?」
そう告げるロダ兄の眼も、何時もと違って笑っていなくて。
「……悪かったよ。ゼノのせいで苛立ってた。
何かに当たりたかったんだよ」
黒髪の少年に向けて、炎髪を揺らして頭が下がる。
「オーウェン、おれからも御免な?」
「い、いや皇子が悪いことはなくて!?」
眼を白黒させられて、これでまあ良いか?とくすっと笑って手打ちにする。
「で、なんだけど……」
「うげー、アナちゃんと学園祭したくて何とか交渉して帰ってきたのにさ」
「それならもうアナと脱出ゲーム参加しろよ」
呆れたようにおれは言う。
何そこは遠慮してるんだコイツ?
「は?ってか流石に幾ら俺でも全部知ってるゲームで無双して惚れて貰うのが無理筋なくらい分かるわボケ!」
すこーんと飛んでくるハリセン型の炎。
っ!
反射的に呼び戻した愛刀でそれを切り払ってしまって気まずくなり、おれは頭を突き出した。
「存分に叩いてくれ」
「もう遅いわ!?ってかいきなり何なんだよ!?斬り殺されるかと思ったわ!」
「……いやさ少年。ワンちゃんの左眼付近は、焔で焼けた痕がある」
「……もうおれは気にしてないよ、ロダ兄。うっかり寝ぼけて敵かと勘違いしただけだ」
実際は、やはり焔の一撃には何か心の底がざわめくが。それを無視しておれは曖昧に笑みを浮かべた。
「というか、エッケハルトはこの中で一番話が作れるから、何人かで参加したメンバー向けにシナリオを作って欲しいんだ。
仕掛けなんかは此方で頑張るから、謎解き部分はほぼ初見のままで行こうと思えば行ける。だから参加するのも悪くないんじゃないか?」
ほら、とおれは手を上げて適当に資料を振る。
「聖女様とで宣伝にもなるしさ。
おれはオーウェンと仕掛けを考えたり設置するから流石に参加できないし、おれと参加じゃ宣伝にならないだろ?」
「あ、僕そこなんだ。頑張るよ」
で、とおれは白桃色の青年を見た。
「仕掛けの魔法部分の装置とか竪神に作って貰うから、ロダ兄は当日の案内とかナレーションとか頼めるか?」
「適材適所、ってとこだぜワンちゃん」
と、炎髪の青年が席を立つ。
「……エッケハルト?」
「ああもう、迷惑かけたしアナちゃんと宣伝するし!
二度と白ばっかコピ本案件ごめんだっての!」
……と、その言葉におれは横の桜理と顔を見合わせた。
「白ばっかコピ本?分かるか?」
「え、僕おたく?用語詳しくなくて……」
『白ばっかとは恐らく背景描き足りないという意味。コピ本はコピー本。つまり正規の印刷ではなくコピー機でコピーしたものを束ねて本にしたものを指します兄さん。
つまり、言い換えれば遊び過ぎて締め切り過ぎたので慌てて最低限だけ書いてコピーで形だけ作った駄目作品。つまり、酷評されるようなものにはしたくないという意味です』
……詳しいな始水。あと一応受けてくれてるのかエッケハルト。




