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少女の家、或いは誤魔化しの決闘

「もう、買わなくて良いのに」

 「日持ちがする魚だから、明日の朝にでも使ってください」

 鰻の蒲焼き……ではないが、それっぽいハーブとタレ焼きの袋を差し出しながら、おれは小さく会釈した。

 

 「悪いわねぇ」

 「さっきも言いましたが、親しき仲にも礼儀あり。かつて相手に何かをやっていたからといって、それを盾にはしたくない。今は今ですからね」

 だから、こうして世話になるならば何かを持っていく、それがおれなりのケジメだ。

 

 「……でも良かったわ。この娘、ほら、男の子っぽくしたがるし……しっかり落ち込んでた助けてくれた皇子様と仲直り出来てたのね」

 「おれも助けられてますよ」

 特に、彼自身は嫌うあの力に。AGX-15(アルトアイネス)、大いなる鋼の皇(カイザー)。ほんの片鱗でも、まともに起動しない状態でも、おれ達の未来を切り開いてみせる窮極の力。あまり頼っては桜理に毒とは知っているが……

 

 「というか」

 言いかけて口をつぐむ。当たり前だ、この世界に産まれたサクラは女の子だものな。それが嫌でオーウェンと名乗って、早坂桜理の姿で男をやってたとはいえ、今世の母からすれば男っぽく振る舞いたがる男装娘に過ぎない。わざわざ前世を掘るのは駄目だろう。

 「何かしら?」

 「その魚は米の方が合います。おれ自身強要はしませんが、可能なら一考をとだけ」

 適当なことを言いつつ、さらっと誤魔化せる何かを探しておれの右目は周囲を漁り……一つの束に目を付けた。スリーブ(ちなみに魔物素材)に包まれたカードの束。ギャンブルで使われるカードは大体こうして(マーク)対策をされているがそれよりもだ。この裏面は……

 

 「マジック・ルーラーズか?」

 「うん。知ってると思うけど四年前から発売されてっているカードゲームで、獅ど……皇子モチーフのあのカードもあるんだよ?

 最近は王都近郊だけじゃなくて帝国全土に広まってて」

 知ってる。というか、散々やった。何ならアステールが聖教国で大々的に売ろうとか言って、販売元とのアポ取り付けてと言ってきてる。

 んだが、エッケハルトが販売に一枚噛んでるんだよなこいつ。最近はフォースのとこ(エルリック商会)とニコレットのとこ(アラン・フルニエ商会)が利権でバチバチやってる噂を聞いたりと中々アレだ。

 ってことで、おれ自身版元から来た販売戦略として魔神剣帝シリーズ出して良いか?という話に元ネタとしてアステールも良いと言う筈だし了承すると一筆添えたくらいしか関わってない。製作者とか会って話したことすら無いんだよな……エッケハルトは会ったらしいが。

 

 閑話休題。とにかく、おれもプレイヤーではある。

 ということを示すように、おれはちらっとデッキを振る。ちなみにこれはシロノワールが影から投げてくれたものだ。同じのが実は3つある。

 いや、アルヴィナ何か気に入ってたがそれはそれとして良く預かってくれてるなシロノワール!?余暇にデュエル誘っても断るのに。

 

 「……あれ!?皇子も持ってるの?じゃあ、やる?」

 そう誘われて、おれはデッキを翳した。

 

 そして……

 「なあサクラ、その混成魔神剣帝デッキ流行ってるのか?」

 アルヴィナ相手に大体のカードを見たデッキを眺めて、おれはぼやいた。ってかおれの知り合いのマジック・ルーラーズプレイヤー、ロダ兄以外そのデッキなんだが!?切り札が火闇属性のカードなのにデッキ構成は火光水の三属性って点まで同じ。噂に聞くと魔神剣帝デッキ、普通に火闇で組んだパターンも七属性で組んだ通称7Cゼノンコントロールもあるらしいが……そもそも他に大量にデッキタイプあるのにここまで同じデッキ使いが居るって環境デッキか何かかそいつ。

 

 「というか、獅童君のそのデッキ何!?」

 と、勝利者様が驚いたようにおれのデッキを見る。

 「何かすっごく変なデッキだけど」

 「こいつか?パウパービートって言うんだよ。コモンカード縛りの速攻ビートデッキ」

 「え?獅童君ってひょっとしてお金がないの?」

 「いや自分で使える分も多少あるが?でも、1ディンギルするようなデッキとかちょっと興味あるって時にぽんと渡されても困るだろ?

 その点このパウパーデッキは割と流通してるコモンカードしか入ってないから、屋台街で二個くらい何か食べ物買うより安いんだよ。

 ついでに低レアを一部高レアに入れ換えるだけでかなり強くなる。複雑なコンボがないから初心者が回せて、貰っても罪悪感なくて、そして改造しがいがある。プレゼントしやすい布教しやすい良いデッキだろ?」

 と、おれは己のデッキの背を撫でた。

 「あ、布教用なんだそのデッキ」

 「まあな。安いし案外強いから何パターンか組んで持ってるぞ。

 おれ達と関わりたくない真性異言(ゼノグラシア)が売るのは良いが、普及を願うならもっとスタートデッキ売れっての」

 と、会ったこともない製作にちょっとだけ愚痴りながら、おれはふぅと息を吐いた。

 

 うん。これで万が一作ってたのが桜理だったらしょんぼりされたところだが、そこは一般家庭の出。そんな筈も無かったようだ。

 最近の世界の狭さならあり得るかと思ったが……

 「でも、最近の新段ちょっとばたばたしてたんだよね……」

 心配そうに告げるサクラ。

 「獅童君は知ってる?」

 「呼び方可笑しくなってるぞサクラ」

 「あ、そっか」

 と、慌てて少女はデッキを大切そうに仕舞いこむと母を見た。

 

 「あらあら、愛称で呼び合って、良かったわねサクラ」

 ……メガネを贈っただけであまり話してこなかったが、さてはこの女性案外強いな?

 

 「というか、気になるのか。そういえば……」

 『ちなみに、最初の販売元は名前だけの貴族ですよ。多分引き継ぎは起きますが、そこまで問題は無いでしょう』

 と、幼馴染様が教えてくれる。

 いや分かるのか始水。

 

 『ええ。これでも神様ですからね、私。兄さんはあまり意識していないようですしそれで構いませんが』

 

 「……皇子?」

 「いや、ちょっと神様からの啓示でな。

 カードについては多分大丈夫だって」

 「啓示!?しかも俗っぽい!?」

 「神様だってゲームくらいするぞ。野球のチームだって買ってたくらいだからな」

 「いやそれ本当に神様!?」

 「神だぞ。諏訪建(すわたけ)天雨甕星(あめのみかぼし)様だ」

 「……えーと、何て?」

 「ティアミシュタル=アラスティル様」

 「……えーと、同じ言葉だろうけど聞き取れないよ?

 あ、そっか魔名か。ってことは、七大天様のこ……って本物だったの!?」

 紫の眼を見開く少女におれは苦笑した。

 

 ってか、あの名前ちゃんと始水として理解されるんだな……?おれは魔名ちゃんと聞き取れるから違う名前では?となるが、魔名を唱える資格がないと始水を示すそれぞれの名前割と同じ謎の音に聞こえるらしい。

 

 「ま、まあ皇子がとんでもない札を隠し持ってるのは何時もの事だし……」

 曖昧に少女は笑ったのだった。

「……へっくち!」

 「おー、佑胡さま、風邪ー?」

 ふわふわ浮く桃色服狐耳少女に言われて、金髪でラフな服装の少女はいやいやと頭を振った。

 

 「あーしの事、誰か噂してるんじゃない?

 あーし、風邪とかマジ御免だし頭も痛くないし熱もない。これ噂っしょ」

 言いながら、少女は防塵防寒用だが今は要らないと腰のスカートの外に巻いていた上着の袖をほどいた。

 

 「ってか、うっわ」

 そして、嫌そうに空を見上げる。乾いて雨季を前に一部の花が散っていく林の上、夜空が割れて位やな赤色を見せていた。

 「あのバケモン達だけじゃなくて、原作ゲーム通りの魔神まで来るとかマジありえんから」

 そして、苛立たしげに左手の傷の入った腕時計を叩く。

 

 「壊れてても、さ。これしかないっしょガラティーン!

 あーもう、獅童からエクスカリバー返してって恥覚悟で貰ってくるべきだった!」

 「おー、おーじさまから?」

 「回路壊れてるし、アガートラームの予備パーツはあの神に差し押さえられてて円卓に取りに帰るとか冗談過ぎるし!使う度にダメージ来る壊れた武器とかマジ無いって!」

 

 そんな姦しい少女の前に、空から異形が降って来る。それは、コカトリスといったおぞましい怪物達。万色の混沌より湧き出る脅威……低位の魔神。

 「ま、四天王とかじゃないならあいつらXよりは弱いのが助かっけど、心身共に休まる時が無さすぎて流石につらたにえん……

 あーし入園料払ってないから!とっとと閉園しろバーカ!」

 「おー!へいえんだー!

 で佑胡さま?辛谷園ってどんなばしょー?」

 「あーしが!知るか!適当に言ってるだけのやばたにえんなワードだっての!ノリで返せ!」

 そんな少女を、銀髪を纏めスカートを履いた銀髪の軍人の影が、少し遠くから呆れたように、槍を片手に眺め……

 「ゼノちゃんには悪いから、不意討ちはしない。けど……

 あの屑を助けてやるだけの価値、ルー姐分からないかな」

 静かに、少女に加勢しようかという騎士団の兵士を手で押し止めた。

 「とりあえず様子見、良いよね?」

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