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遭遇、或いは気品

「……さて、と。風呂屋にでも行くか?」

 そう誘われて、そうだなーと考える。

 

 おれ自身はあまり汗とか無いし、わざわざって思いはあるんだよな。汚いかもしれないが、風呂に入れない日も良く経験するし汚れてなければって認識がある。

 いや、日本人混じりとしてはどうなんだろうなそれ?

 

 『兄さん?男から風呂に誘われるってことはですよ?』

 いや、頼勇はそんなじゃないだろ始水?

 楽しげにからかいを話しかけてくる幼馴染に呆れた声音を脳内で返す。

 『いえいえ、日本という国にはあるじゃないですか。会社の同僚男と連れ立って向かうと、何故かそれぞれ自由恋愛に発展する謎の風呂屋が……』

 ってそっちかよ!?色恋というか欲が膨れた早熟な生徒が行きてー言ってた気がするあそこだ。

 って待て、そもそもこの世界そんな誤魔化し要らないぞ?おれは行かないが風俗はその行為を明言して営業している。だから逆にそんな風呂屋システムは無いというか……

 

 閑話休題。

 からかうのに満足したのか幼馴染神様は言うだけ言って黙り(何だか気まずい)、おれはというとどうだろうな?と首をかしげながら一応向かおうかとして……

 「美味しかった、有り難うお母さん」

 「良いのよ、久し振りだもの」

 聞き覚えのある声に右眼を細めて声の方向を見た。

 

 ああ、やはり桜理か。こういう場所で会う時の常というか、おれが贈った眼鏡を掛けた白髪混じりの中年女性の手を引いた黒髪少年の姿がある。ラフな服装で、軽く火照っていて風呂上がりって感じだ。

 

 いや待て、腕時計起動してないから今のあいつって女の子だな。多分母親と湯場に行くから、一緒に入れる女性の方が良かったんだろう。何時も服装はボーイッシュだからぱっと見混乱する。

 

 いや、気にしてなかったがどうなんだろうな?男になれる少女って、他の女性にとって共同の場を使うのは危険って意識も……

 おれ自身なら桜理に危険はないって言いきれるが、他人には押し付けられないしな。

 

 まあ良いや、その辺りの話はおいおいな?おれが考えてても仕方ない。

 

 「あ、皇子」

 と、向こうも視線からおれに気がついたのか魔物素材の安くて魔法が良く通るカップから顔を上げておれ達を見る。

 「風呂か?」

 「うん。お母さんと行って、冷えたフルーツ牛乳……じゃないけど飲んでたんだ。

 そっちは?っていうか、出てくるの珍しいね?」

 「アレット達のせいか寮が燃えたからな」

 いや、マジでなにやってんだアレット・ベルタン。エッケハルトどん引き案件だぞ真面目な話。

 

 「え、え!?だ、大丈夫なの!?」

 「今日は可哀想だが明日相応に対応させて貰うから、今日だけ何処かで……」

 いや、とおれは笑う

 「軽く刀を振って勘を鈍らせないようにしつつ寝なくても良いが学園内でやりたくはなくて、さ」

 「うーん」

 と、カップを持ったまま少女は少しだけ悩む素振りを見せ、あっと顔を上げた。

 

 「なら、家……来る?」

 「オーウェン?」

 いや、女性しか居ない家にお邪魔するって駄目だろう普通に。

 「オーウェンのお母さん、貴女からも」

 「この子が何時も言ってくれますのよ、皇子が皇子がって。それに、この眼鏡を贈って下さった方ですもの。

 変にワルぶって、自己評価が呪いのせいで酷くて、誰にでも手を伸ばす皇子殿下。今回くらい、此方から手を伸ばすのは宜しいかしら?」

 ……何だろう、言い回しにどことなくノア味を感じる。高貴さ?というかなんというか……

 

 となると、少し疑っていたが本気でこの人というかオーウェン、ロダ兄の探している生き別れの妹だったりするのか?ロダ兄は一人桃太郎なキメラ亜人だから遠ざけられてたけれど血筋はそこそこだった気がするし、その家に居たなら気品の欠片があるのも分かる。

 

 むぅ、とおれは悩む。

 とはいえだ。何か気になったって女性の家に上がり込むとか……

 「駄目、かな?」

 上目遣いで見詰められて、おれは溜め息を吐いた。

 「竪神、悪いけれど」

 「ああ、残りはジェネシックの完成の目処が立った後、打ち上げとして頼めるだろうか」

 「いや割とおれと色々と遊びたかったのかよ!?」

 「友人と遊ぶのは楽しいものだろう?それとも皇子は違うのか?」

 「いや、おれもそうだよ。なら、今度頼むな?予定が空いたらそれを教えてくれ」

 そう告げれば、藍の髪の青年はその機械の左手を上げ、踵を返した。

 

 「ならば今日は楽しかったが、もう夜だ。続きは今度またとしよう」

 「良いのか、竪神」

 「アイリス殿下とは食事したら終わりのつもりだった。皇子とならばと思ったが、計画は白紙も良いところだ。ちょうど良い、今度の隙間の日までに埋めておこうと思っていたところだ」

 「そうか、ならばまたな、竪神」

 「ああ、まただ皇子」

 ほんの少しの微笑みと共に彼は去り、それを見送りながら……

 

 「と、まずはその前に」

 やるべき事をおれは思い出す。

 「ん?これから僕の家に行くんだよね?」

 「一宿一飯の恩義は返すものだろう?そこまで高くても萎縮するだろうし……そういえば晩御飯は?」

 「食べたよ?」

 「ならば明日まで持つし、変に加工しなくても良い……となると、揚げ物は劣化するし保存食はその気が強すぎても困るし」

 「だからどうしたの?」

 「お世話になるなら何か土産くらい持っていくだろ?いっそ選んで貰うかって話だ」

 「い、いやいやいや、昔の僕は調子に乗りすぎてたから図々しくお母さんの眼のアフターケアまで要求したけど基本的に僕ら皇子に散々に助けられてきたっていうか、寧ろ僕らがおもてなしするのが当然なのに要らないって!?」

 「親しき仲にも礼儀有り、だぞオーウェン。世話になるなら何か返せ、それが基本だ」

 「そこがまず変なんだけど!?世話になってるの僕たち!」

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