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焼却、或いは鬣の友人

そうして、何か期待しているアステールの為に学園内で一番高い場所を借りて(天文研究会の人々こそ居たものの快くはないが貸してくれた。彼ら集まって天文幕……所謂プラネタリウムを今年こそ開催するんだ!と意気込んで空を見るよりも天幕を作っていたからな)、暫くアステールと星がまだあまり無い空を眺めて……

 

 戻ってくると、寮が無かった。

 うん、見事に撤去されてるわあのボロ小屋。誰が入るとも知れないから小銭と教科書……つまり盗っても仕方ないものしか置いてなかったから良いんだがどうなんだそれ。

 っていうか、燃え残りが放置されてるが、解放感からキャンプファイヤーしてる奴等が居るなぁと明かりを確認したがその材料の薪あの小屋かよ、せめて片付けていけ。

 

 いやまあ、本来何やってんだと暴言の一つでも吐きたくなるが、女子寮近くに男子がのうのうと居座ってたのがそもそも嫌だってのは分かるんだよなぁ……。おれ自身聖女様の護衛が忌み子とかふざけんなって石を投げる気持ちは理解できるし。

 

 「だからって、落書きは止めろよ、寮の壁だぞ」

 煤で書かれたおれへの罵詈雑言。手紙なり直接なり言ってくれるなら良いが、女子寮の壁にやったら唯の違法な落書きだ。アナに近付くなとか散々にボロクソ書かれてるが、やはり忌み子って嫌われるものだなと苦笑しかない。

 『兄さん』

 仕方ないだろ。おれなりにやれることはやってきたけれど、それは彼等に好かれる努力じゃなかった。寧ろ嫌われても良いと走ってきた報いだ。

 そんな風に少しだけ憤る幼馴染の耳元囁きに応えつつしょうがないかととりあえずそれを消して……日が暮れる。

 

 ってか、今晩どうしようか。泊まる場所が無くなったが……まあ、ハンモックで良いか。近付くなとか呪いで死ねとか言われても、それがおれの仕事だからな。

 と思っていると、不意に肩を叩かれた。

 

 「シロノワール?」

 「すまないが私だ」

 振り返れば、少し煤けた青年が困った笑みを浮かべていた。

 「竪神」

 「それにしても、この国の皇族相手とは思えないな、これは」

 「まあ、皇族である前に忌み子だ。そして、七大天に歯向かう呪い子でありながら、聖女様を誑かそうとしている大魔神」

 って痛いんだがシロノワール?蹴るな蹴るな。

 この世界では悪魔って七大天の一柱の事だし、邪悪な奴は悪魔じゃなくて魔神扱いするんだよ。この悪魔!って完全に誉め言葉でしかない。

 

 「嫌われるのも分かるさ。が、これは犯罪だし犯人も正直分かる。なんで明日にでも反省して貰おうか」

 ま、おれが説教しても聞きやしないが、と苦笑しながら壁の汚れを落としきる。

 

 「分かっているさ、皇子。同学年の三人だ。アイリス殿下が確認している」

 と、頼勇が持っていた一枚の魔力映写を見せてくれた。

 そう、当たり前だが寮の防犯設備ってあるし、壁登って女子寮に侵入とかされないように壁にも魔道具埋め込んであるからばっちり誰がやったのかバレてるんだよな。浅はかというか、怒りに身を任せすぎだというか……しかも男子生徒が二人混じってるから凄い。大義名分消えてるぞそれ。

 

 「……アイリス自身は?」

 「憤慨しつつ、聖女様方のところに行ってしまわれた。で、だが……」

 言いにくそうに、青年は機械の腕を握ったり開いたりした。

 「アイリス殿下曰く、『お姉ちゃんのところに泊まるべき……です』ということで、腕輪の、いや極光の聖女様の部屋に案内するようにと言われた

 言われたんだが……」

 「却下に決まってるだろ!?」

 アナがおれを大事だとおおっぴらに公言して、一歩引いた感じが減ったせいで周囲が忌み子がぁっ!?とキレてこうして寮破壊されている只中にアナの部屋に泊まるとか正気の沙汰ではない。恨みで人が殺せるならおれは死んでるだろう。

 第一、悪い噂がアナに立つだろうそれは。

 

 「……まあ、流石にな?私はそう思ったし、他の皆がアイリス殿下を宥めてくれる事を祈るとしよう」

 「アナ自身止めてくれ……」

 いや、最近のアナ怪しいなその辺り?貴方が大切だからですと言って憚らないし、言動に予想が付かなくなってきている。いや、ダメですよと諌めてくれるのは助かるんで有り難いが……ノア姫の影響でも受けたのだろうか。

 

 「まあ、明日ノア先生に色々と頼むし、今日さえ乗りきれば良いからハンモックでも何でも良いんだが」

 「泣かれるだろう?外泊でも良い筈だ」

 そこで漸く、おれは彼がタオルを首に掛けていることに気がついた。軍服の上から博士のような白衣っぽい防護外套って少し珍妙だが似合う出で立ちのインパクトに隠れて見落としていた。

 

 「まあ良いんだが……ひょっとして、その誘いなのか竪神?」

 「ああ。アイリス殿下がゴーレムで聖女様方と話に行ってしまった以上、今日の作業は進められない。まだ一番星以外はあまり見えない程に夜早く、たまには友人とゆっくりと話したくてな」

 そんな青年に、おれはそれもそうだなと微笑んだ。

 

 「行くか、竪神」

 「そう言ってくれると嬉しい」

 「ところで、竪神は学園祭はどうするんだ?」

 「参加できる範囲ではやりたいが、何よりも……ジェネシック・ダイライオウの完成を急ぐ必要がある。皇子が下準備辺りで私や殿下が作れそうなものを発注してくれると大助かりという所だろう」

 「……じゃあ、仕掛け付きの出し物を考えてみるか」

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