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極光の聖女としょんぼり狼(side:アナスタシア・アルカンシエル)

「皇子さまが楽しんでくれるような出し物……」

 帰り際、魔力を通せば昇降してくれる魔法の床板を動かしながら、わたしはむむむ?と首を傾げました。もう、寮の中ですし殆ど身に不安はないんですけど……

 

 悩ましいところは、何も解決していません。沢山の人が尚もわたしと一緒にって言ってくれたのは嬉しいんですけれど、わたしなんて、折角皇子さまに付いていったのに、アステールちゃん達を助ける際にあんまりお役に立てませんでしたし……

 

 細かい傷が増えた隻眼で、優しく君が居てくれたからって微笑んではくれますけど、わたし自身が何より分かっています。シロノワールさんにも竪神さんにも、ロダキーニャさんにも出来て、オーウェン君だって頑張っていて。でも、わたしは……命を懸けて戦っている彼等の為には殆ど何も出来ませんでした。

 見てるだけに近かったです。腕輪の力を使いきって、龍姫様からその上位版とも呼べるような、リリーナちゃんと並ぶ力を託されたのに、です。

 

 情けないですよね、聖女さまって持ち上げられて、護られてばかりで。だから、せめて出来ることは頑張りたいんです。

 ああして命を懸けた皆さんが少しでも心休まるように、楽しく過ごせるように。

 わたしを希望だと傷ついていく皇子さま達が護ってくれた意味を、ちゃんと彼等に返せるように。

 

 その一貫として、やっぱり学園祭でもわたし達の出し物で心に響かせてあげたいんですけれど……

 

 「難しいですよね」

 堂々巡りの思考をひとりごちながらわたしの為の部屋の鍵を開けて……

 わたしは明るさに目をぱちくりさせました。ちゃんと照明の魔法は消していった筈なんですけどと思えば、小さな人影が机の上に突っ伏しているのが見えます。

 

 「アルヴィナちゃん?」

 そう声をかければ、ぐてっと気力無く伏せた少女の大きな耳がぴくりと片方だけ立ちました。そして、わたしの方へと向きますけど、全体としては伏せたままです。

 「……あーにゃん」

 大事な帽子も机の上に置いて、本当に辛そうな少女を見て、わたしは手元の鞄を閉じた扉に立て掛けて慌てて走ります。

 茶器の大きめの湯差しに水を注いで置いてあった魔法でお湯に変えると熱すぎる温度が少し冷めてお茶を淹れるのに良い温度になるまでの間にカップと茶葉を用意し、後は蒸らすだけというところで手作りのクッキー(明日にでも皆さんに配ろうかな?って包装しておいたものですけど)を一つ開けて、コトンと全部を机の上に置きます。

 

 「大丈夫ですか、アルヴィナちゃん?」

 ぽふっと大事な帽子を被せてあげれば、満月みたいで綺麗な瞳がわたしを見上げます。

 「大丈夫だけど、平気じゃ……ない」

 「え?どうしたんですか?魔神警報に引っ掛かっちゃった……とか本当に危険な何かですか?」

 ちなみにですけど、アルヴィナちゃんがサバキストさんの腕を引きちぎったあの事件以降、魔神絡みの警報魔法は多く張り巡らされています。だから、アルヴィナちゃんは皇子さまやわたしが大丈夫って言った範囲から出られないんですよね。警報鳴っちゃいますから。だから、学園に通ったり出来ずに居るしかないんです。

 

 「皇子に、フラれた……」

 「それは許せませ……あれ?」

 思いがけない言葉に、わたしはきゅっと握った手を下ろしました。

 「えっと、どういうことですか?」

 「ボクは、少しは皇子達の為にも何かしたかった。怖がらせた分、楽しませる事でボクは居て良いって思いたかった。

 だから、ボクも学園祭に混ぜてと言ったけど、にべもなく断られた。話すら聞いてもらえなかった」

 「それは酷いです」

 皇子さまならそうするだろうなって思いは胸に、わたしは相槌を打ちました。

 

 「確かに、皇子さまは変に心配性ですし、アルヴィナちゃんを連れ回したら危険かもって思って断るのは分かります」

 「ボクも、そこは覚悟していた。でも、話を聞いて欲しかった……。あれは、悲しい」

 完全に意気消沈、しょんぼりしたその手に、暖かいカップを握らせます。

 

 「アルヴィナちゃん」

 「あーにゃん。ボクは……」

 「一緒に頑張りましょう、アルヴィナちゃん!」

 覚悟は決めました。皇子さまにはアルヴィナちゃんと一緒に学園祭を盛り上げる手はありません。それは仕方ないです。

 でも、です。聖女様って扱いで、魔法も使えるわたしなら、あんまり誉められた事じゃないですけれど、警報の誤魔化しも割と出来ちゃいますから。

 

 「……?」

 こてん、と少し持ち上げられた首が傾げられました。

 「皇子さまは無理でも、わたしが居ます。一緒に盛り上げて、輝いて、皇子さまを楽しませちゃいましょう?」

 「……良い、の?」

 「えへへ、変なところでお堅い皇子さまだって、アルヴィナちゃんを何とも思ってないなんて事はないですから。わたしが責任をもってちゃんとすれば、嫌とは言わないですよ?」

 そこは自信たっぷりにわたしは友達のひんやりした手を取りました。

 

 「……ボク、頑張れる?」

 「はい、一緒にやりましょう?

 えっと、とりあえず今回はアルヴィナちゃんはわたしの義理の妹?とかそういうもので、編入してくるって設定なら大丈夫でしょうか……」

 参加するなら相応のカバーストーリーが必要です。わたしが孤児だったとか言われずに、ほぼ会ったこともない聖教国のお偉いさんの秘蔵っ娘みたいな扱いなのと同じくそれっぽい立場を言えれば良いんですけれども。この学園に編入してくるというか、編入したんだけど試験終わっちゃってたから本格的に登校は二年からってお話なら、一緒の班になれます。

 「分かった。一緒に頑張れるなら、ボクはお兄ちゃん以外の妹になる。宜しく、あーにゃんお姉ちゃん」

 そんな言葉に、うっかりくすっと笑ってしまいます。お姉ちゃんと渾名が何だかミスマッチ過ぎて、違和感が凄いですから。

 

 「さてアルヴィナちゃん。アルヴィナちゃんも共にって言うなら、どんな出し物が良いか明日みなさんとお話しするまでに、二人で考えましょう?」

 そうわたしが言えば、機嫌を直してぱくりとクッキーを口に運んでいた女の子は己が従えている死霊を自分の背後に指を鳴らして呼び寄せました。

 

 「ボクと言えばこれ」

 「あのちょっと幾らなんでも怖すぎて学園祭には向かないっていうか、所謂ホラーハウス?なら行けなくもないと思うんですけどそれだとわたしとかアルヴィナちゃん自身はぜんっぜん活躍しようがないですから……

 もう少し、アルヴィナちゃんの可愛らしさを表に出せるものとか、無いですか?」

 

 と、わたしが疑問を投げた瞬間、大きくばぁん!と扉が開かれました。

 「話は聞かせてもらったよ!今こそアイドルの出ば……あっ」

 「あ、リリーナちゃん」

 そして、わたしが立て掛けていた鞄が扉に撥ね飛ばされ壁へと当たって、小さな音が鳴ったのでした。

 「あ、ご、ごめん!?」

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