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一途、或いは馬鹿話

「はぁ、ワタシ入室を許可した覚えはないわよ。教員の為の部屋、礼儀は」

 「おいゼノ!」

 「……言うだけ無駄ね」

 溜め息を吐き、右手で纏めた髪をふぁさっと後ろに払うと、エルフの媛は手元の答案を纏め、とんとんと机の上で叩いて揃えた。

 そして、それをしゅっと緋色のリボンで結ぶと立ち上がる。

 

 「鍵は置いていくわ。しっかりと返しに来ること。今日中に返さなかったら反省のために呼び出すわよ」

 「ああ、有り難うノア姫、そしてすまない」

 「まあ良いわよ、教室も沢山使われているのだし」

 くすりと笑って、エルフ教師は部屋を出ていった。揺れる髪とその幼い容姿に似合わずかっちりとスーツのような服を着こなした背中を見送れば……

 

 「ってかアナちゃん!アナちゃんは」

 「別の班だ」

 むんずと肩を掴んで血走った……と言いたくなる迫力ある瞳をした男にそう告げる。

 

 「……は?何で?」

 「アナ自身、皆に楽しんで欲しいからだってさ

 お前も、当日一緒に働くよりはアナが働いてるメイド喫茶に遊びに行くイメージだろ?」

 まあ、メイド喫茶は出し物として有り得ないんだが。アナの拘束時間がヤバイからな、それ。

 「ん、まあそうなんだけど……」

 と、青年は口ごもる。

 

 「それはそれ!これはこれ!一緒に練習してってのも良いじゃん!」

 「はーっはっはっ、一度に相反する二つの縁は結べないってこった。今回はって思おうぜ?切れなきゃ、次があるってもんよ」

 青年は楽しげに笑い、炎髪の男の肩を叩いた。

 

 「ふべっ!?」

 あ、つんのめってる。まあ、色々とスペック高いからなロダ兄……痛いほど叩かれるとは思ってなくて、押しきられたか。

 「お、おまっ!?」

 「っと、悪いな燃えてる兄ちゃん。俺様、耐えられる気でやったんだが……」

 「アナちゃん以外に押し倒されるとか悪夢でしかねぇの!分かる!?」

 うーん、ブレないなこいつとおれは内心で感心の息を吐いた。

 

 「ってかエッケハルト、お前変わらないな」

 「てめぇもだゼノ野郎!」

 「……だな、互いにそうそう変われない」

 すっと、おれは右目を細めた。

 

 「ま、それは良いんだがなエッケハルト。変わらないのか?」

 「変わるかよ。お前は気が狂ってる。それでも助けたいってアナちゃんの気持ちは分かるし、あんな奴等に無理矢理従わされてるようなアナちゃんは見たくないから手を貸したの!

 でも!てめぇはクソ野郎だし何時かアナちゃんだってそれに気が付く。そん時に、諦めたと思われてアナちゃんを竪神やらロダキーニャに盗られたら死んでも死にきれないっての!だから、言い続ける。君の運命の人は、俺だ!と」

 まあ頑張れと何時ものように言おうとして、口が動かない。

 

 「ま、その時に真っ先に行くのは恋愛云々じゃなく親友のアルヴィナのところじゃないか?とおれは思うが……」

 ぞっとしないな。おれが死んだりアナから見捨てられた後の話なんて、あまりやりたくはない。

 考えておいて当然ではある筈なんだが、どうにも思い浮かべたくない。それに……

 

 「死ぬ気はないさ」

 「いや、見捨てられるって当然の事言ってんの!死ぬ気あったらとっくにどっかで死んでんだろうがゼノ野郎!」

 「……ははっ、そうかもな。死ぬ気で挑んだ事なんて無い。死にたくて戦ってた訳でもない」

 おれの認識なんて、自分であまり自覚していないように、実は最初から対して変わってないのかもしれない。

 

 『さあ、どうでしょうね?少なくとも兄さんは、少し変わったと思いますよ?』

 と、寂しい幼馴染評がおれの耳に届いた。

 

 「まあ良いや。で、だ」

 と言ったところで、おれは漸く小さく手を上げている少年の姿に気が付いた。背が低いから埋もれて見えてなかった。

 

 「ってか、オーウェン?」

 黒髪に桜色の少年が背伸びする(身長、多分少年の姿でも150くらいしかないんだよな)のを眺めながら、おれは目をぱちくりさせた。

 「どうした、何かあったのか?」

 腰に差してるだけで威圧と言われるので、抜刀前に一拍置かざるをえないよう背に背負った愛刀の柄に手を掛ける。

 が、少年は慌てたようにぱたぱたと手を振った。

 

 「いや違って違って、何かあって助けてって違って、単に……

 お母さんの所に帰ったら、やっぱり友達やあの人と色々としたいんだろう?って、送り出されちゃって……」

 えへへ、と少しだけ紅潮した頬で見上げられると、そうかとしか頷けなくなる。

 

 「少しでもお休みの間に仕事を手伝ってお母さんが楽になったらって思ったけど、目が悪い人向けのお仕事があって十分暮らしていけるからって。

 皇子が、用意してくれたんだよね?」

 「公共事業を用意して、民の仕事の需要を産むのも皇族の仕事だ。特に贔屓とかしてないよ」

 まあ、推したのは間違いないが、桜理の母が仕事出来ない人間ならクビになってるからな、そこは当人の努力。おれからとやかくは言わない。

 

 「ってかさぁ、オーウェン」

 と、突如無視されたエッケハルトが少し嫌そうに、いや共感を求めてか少年の細い肩を叩いた。

 

 ……うん、少年で合ってる筈だ。常に見分けがつく訳じゃないが、今は前世の早坂桜理側が表に出てるっぽくてちゃんと男性。

 良かったなエッケハルト、男装だったら知らないうちにセクハラだぞ。

 

 「お前それで良いの?」

 「えっと、何が……かな?」

 少しだけびくりと震えて、少年は己を庇うようにしつつ頭ひとつ高い青年(同い年)を見上げた。

 「いやだから、お前ゼノ絡みで何も思わないわけ?ひっでぇのにあいつばっかモテてさ」

 「あはは……」

 乾いた笑いが響く。

 

 何処まで本気だったのか分からないが、実は今世では女で告白までしてくれた側だもんな、桜理。言われても困るのだろう。

 

 「僕は、獅童君の事信じてるから」

 「ちなみに、俺様もだぜ?ま、ワンちゃんに言われて縁を繋いだからな。その縁は大事にするさ」

 「……ちっ、そういやお前って恋と仲良かったか……」

 と、吐き捨てるように青年は目線を反らした。

 

 ……いやお前もおれ程イカれてないけどそれでもって姿がとヴィルジニーから好かれてたろうがエッケハルト!昨日の夜、アナの手を借りて水鏡で話したアステールから聞いたぞ。「そのうち諦めて帰ってくるから寛大なだけ」と呟いてたって。

 ……似た者同士だな!

 

 「ってそれはもう良い。考えるべきは何するかだ。

 おれは実は外部招待枠絡みでも動くからそこまで沢山時間は取れないし、あまり複雑でない方が良いが……」

 と、おれは話題を変えるように切り出した。

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