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採点、或いは班

「……さて、と」

 答案用紙をまとめてさらさらと採点しながら、エルフがそう呟くのをおれは眺めていた。

 結局ノア姫の用意したテストだけは受けた。っていっても、今日受けるさと気分転換を兼ねて試験を受けに出てきた頼勇に頼んで暫くアナ達の護衛を任せている間に、だが。

 

 「ああ、アナタの試験の採点なら直ぐに終わったわ。今は他の皆のものよ」

 見る?と小首を傾げるおれより幼くも見えるが雰囲気はしっかりとした大人なエルフに頷けば、超適当に採点された感がある答案をひらりと卓上に置かれた。

 うん、全部で7問あり、うち後半3問は記述式問題って奴なんだが……大きく名前の横に赤く✔️が入っているだけだ。

 

 「……ノア姫?」

 「ええ、個人的に言いたいことはあるけれど、アナタの考え方も一つの在り方。咎めて減点する要素はないわ。エルフから見た話、幻獣への理解の足りていなさ、そうしたものは無いもの。個人的に気に入らない書き方だから、要素は正解でも駄目、なんてフェアじゃないものね」

 そういうものか、と頷いておれの答案を受け取り、改めて眺める。

 

 「アナタ基準だと少し点数低い子も多いわね。といっても、割と書けている」

 とんとんと一つの答案の文章を、手にした赤いインクを付けた羽根ペンの色付かない羽根側で叩きながら、少しだけ少女は迷いを見せていた。

 

 「というか、おれの採点こんなんで良いのか」

 「ええ、受けて欲しかっただけだもの。ワタシの事を、折角伝えに来た言葉を、ちゃんと覚えてるのだと証明して貰って良いかしら?

 というだけよ。ええ、分かりやすく言えば、安心したかっただけ。アナタ、そういうのは得意でしょう?」

 くすり、と淡く微笑むエルフの媛。纏められた髪が軽く揺れた。

 

 「得意か?」

 「得意だから、あの子等がずっと着いてくるんでしょう?

 放っておけない、心に刺さる棘のように抜けず、痛みと共に色々と溢れるもの。覚めない熱狂に、相手を留めてるのよ、アナタ。自覚なさい」

 

 その言葉に黙りこくるおれ。

 分かっているからこそ、言葉に出来ない。アステール達でも、桜理達でも、思い知らされた。

 もっと出来た筈という思いは燻り続け、それでも……やってきた事を間違っていたとは言いたくない。結果的に着いてきてくれた皆の事も……否定すべきところはある気がして、でも言えない。

 

 「アナタ、試験を受けて良く分かったでしょう?人を動かす熱、エルフ種にすらそれを感じさせた者が聖女リリアンヌであり、あの魔神との戦いに、エルフが参加した理由なのよ。アナタと同じく、ね。それが最後の記述問題の意味。

 

 ずっと無駄に背負って深刻そうな顔をしていたら、減点するわよ?彼等彼女等はアナタの火を継いで走り出したの。もうアナタの手を離れたわ。聖女リリアンヌがそうであったように、その先は彼等の紡ぐ物語。無駄に責任なんて取ろうとして、馬鹿にしないで」

 

 と、おれの前にぱさっと用紙の束が置かれた。

 「はい、この話は終わりよ。

 早めに片付ける必要があるの。手伝って貰えるかしら?」

 くすり、と微笑まれる。多分気を遣ってくれた……のは分かる。分かるが……

 「いや、生徒に採点させるってどうなんだそれ」

 「あら、満点取る相手だし、間違えないだろうから良いでしょう?」

 どうだか、と言いつつも、おれは答案を手に取った。

 

 「……それで?試験は良いとして、その先は?」

 言われ、とりあえずおれは考え込む。記述問題は兎も角、暗記問題は脳死で採点できるから手は止めない。

 「奴等は何時仕掛けてこれるようになるのか、それは」

 「そうじゃないわよ、馬鹿。アナタがそれじゃあ、せめて青春を謳歌しろと言われても無理でしょうに。

 学園祭の事よ。ほら、聖女様方に楽しんで貰う!って沢山のグループに分かれたでしょう?」

 その言葉に苦笑する。おれの脳内殺伐とし過ぎてたな、うん。

 

 「……アナが張り切ってるし、そこら辺は任せておれは別件」

 「あら、一緒じゃないの?」

 「いや、ゲスト絡みも多いから特別枠。何処の班にも入らないけれど参加はする形。自分達の出し物に行くってのも微妙だし、アナ自身案内したいから別班が良かったんだってさ」 

 言いながら、おれは窓から部屋の外を見た。漸く試験は終わり、此処から一ヶ月程で学園祭の為の諸々を仕込むのだ。が、まあ……

 

 「メイド服で出店を!」

 「聖女様、どうでしょうか!?」

 ……試験の寸前までグループすらまともに決まってなかったのだ。まだまだこんな領域の班も多い。

 ってか、アナにメイド服着せたい派の連中がメイド喫茶みたいな出し物をやろうとごり押ししてるっぽいな。気持ちは分からんでもないが……

 

 「はい」

 と、ノア姫が窓を指を鳴らして魔法で開けてくれたので、微かに聞こえていたそんな話し声が大きくなり……

 

 「お前ら、当日聖女様方は色々と見て回るんだからな?長時間当日拘束するような出し物は止めろよ?」

 とだけ、おれは窓越しに釘を刺しておくのだった。


 「そうですよ。わたしはメイドさんの服とか着るのは良いんですけど、皇子さまはちょっと楽しめない出し物ですし……」

 「あと、早めに決めないと喫茶店出来るような大教室全部取られるぞ」

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