傍観者、或いは学年末考査
そんなこんなで三日後。おれはふぅ、と息を吐いて大教室へと入っていく皆を眺めていた。
ちなみにだが、所謂学年末考査という奴である。アルヴィナと共に投獄されたり大怪我してたり聖教国へと駆けつけてたりであまり授業を受けられていないから実感沸かないが、あの入学式から7ヶ月ちょっとが経過したのだ。一年は八ヶ月だから、最後の一月はほぼ休み。その期間で学園祭の準備を進めて~って訳だな。
そんなことを思っていると、白い何時もの外套の袖を引かれた。
「ああ、アナか」
「皇子さま、ずっと見てると遅れますよ?」
という言葉におれは苦笑を返した。
「いや、受けないよ」
「え、受けないんですか?」
「アナも嫌なら受けなくて良いぞ」
「いやいやいや、そんなことしたら落第しちゃわない?ゲーム内だったら考査とかスキップされてたけど、現実だと」
と、桃色髪の聖女様が横から突っ込みを入れてきた。びしっと手でチョップまでかましている。
が、別にとおれは語る。
そんなおれを見て、いつの間にか初等部から転勤してきた教師、マチアス先生が軽く此方を見て……スルーした。
「ん、あれ?」
「ゼノ、受けないのか」
「ああ、シルヴェール先生。基本受けないことにしたよ」
「そうか」
教員を兼ねた兄もおれの言葉をスルー。
「え?いや待って?何で?」
「何でも何も、おれ達って最初から進級確定してるからな」
ちなみに確定枠はアナ、リリーナ嬢、おれ、頼勇、ガイストの五人だ。
「そうなの?何で?」
「多くのものを押し付ける以上せめて青春して欲しいから学園で楽しく過ごせるように、が聖女様相手のおれ達皇族のスタンス。だから、三年で自動的に卒業するように最初から全単位ある扱いなんだよ、聖女様方は。
後、その護衛を担当するおれ達も同じく。なんで、受けなくても進級するし、試験受けてたら逆に護衛として目を逸らして平気かよって話になる。おれの目なら不正し放題だ」
試験中もずっとアナやリリーナ嬢に何か起きないようにチラチラ見なきゃいけないからな。最初から受けないことにした。アナの書いてる答案の答えくらい軽く読めるしな。
「ゼノ君、試験無視してると頭悪いって思われるよー?」
なお、これが正論である。勉強してない訳ではないが、正直そこまでテストの点数に自信は無かったりするのだ。半分くらい授業出てないからなおれ。
「そうそう、そんなのが皇帝になろうとしたら」
「おれが皇帝にならなきゃいけない時点で世界終わってませんか、先生?」
「もう、皇子さま、出来たら勉強もしませんか?」
なんて、アナにすら言われてしまう。
が、まあ出来ないこともないのだ。アナが勉強してるのを見守ってるからな。
なんてやっていると、じっと見詰める視線を感じておれは振り返った。
そこに居たのは、やはりというか一人の教員。小柄な体格には多い量の試験用紙を持つノア姫であった。
「あ、ノア姫」
「此処ではノア先生、よ」
紅玉の瞳がおれを射た。ぶっちゃけ身長差的に見上げられるような形だが、甘さというよりは厳しさを思わせる視線に思わず頭が下がる。
「試験はそろそろ始まるわよ、受けるならば早く席に着きなさい」
うん、授業取ってたから知っているが、かなり真面目に教員やってるんだよな、ノア姫。そんな彼女に、受けないよと告げて……
「許すと思うの?」
そう、返された。
「ノア先生?」
「ええ、進級の必要は知っているわ、それを咎めたりはしない。けれど……」
くすり、と微笑まれる。
「ワタシ、これでも己の仕事には誇りというものがあるわ。折角教員なんてやってあげたのに、成果を見させないというのは、許しがたいわね」
「つまり?」
「ワタシの授業の試験くらい、受けてくれるかしら?今日ではないけれど」
確か明後日だとおれは脳内でスケジュールを捲る。学年末というだけあって、試験は一週間がかりだ。
「……分かった」
折れるように、おれは頷いた。
「はい、頑張りましょうね皇子さま」
「って言うかゼノ君、その試験で酷い点数とか……
ま、取らないか。エルフの事は割と知ってそうだし」
 




