金髪と襲い来る覇灰(side:竜胆佑胡)
「……ふぅ」
影の聖域の魔法で姿を誰も見ようとはしないマント。それを脱ぎ捨てて、あーしは軽く息を吐いた。
「ねーねー、佑胡さま?」
その背に話しかけるのは、ふよふよと浮いた一人の狐尻尾少女だ。本来の姿より少し幼く尻尾も一本になっていて、けれどもその右瞳には星を輝かせる姿は彼女が確かにアステールの一部であることを雄弁に物語っていた。
「佑胡さまさー、帰らなくて良いの?大事な人の亡骸を置いてって良いのかなー?」
転移で抜け出してきた、聖なる都。鋼のバケモノ達の戦いの傷痕で、内部からぶった斬られたように外壁には大きな亀裂が走り、本来は階層数の少ない建物で統一されているが故に高い外壁に阻まれ見えない内部の建物が露呈している。
それを名残惜しげに一瞬振り返り、未練を断つように姿を隠すためのマントに火をつけて、染めた金の髪の少女は首を横に振った。
「良いって。あーしが居ても邪魔なだけだし、つらたんじゃん?」
「つらたんー?」
「マジ辛いって意味」
そういや昔みたいな言葉遣い止めようって思ったのにと、もうポゼッション発動のために切り捨てたから男の……今世の姿に戻ることはなくまた一生付き合っていく必要が出来た胸を見下ろすあーし。
はぁ、と溜め息が出る。男の視線が厭らしくて嫌で仕方なかった胸。目茶苦茶揉みたいとか言われても、嬉しくなくね?ってずっと思ってた。
いや、あーし自身他の女の子と戯れで触るのはあったけどさ?軽いスキンシップ越えて何分でも揉みたいとか嫌悪感ヤバいって。特に妄想でイっちゃってる眼とかキモすぎ。
「ってか、おっきいと思ってたけど、やっぱリアルで見たらあの聖女に負けてんじゃん、ウケる……って訳でもないか」
貰った上着の胸元を閉めようとしたらパツパツで、少し緩めながら愚痴るあーし。何でそんなのが気になるのか、自分でも分からなくて笑う。
「邪魔かなー?」
「邪魔だっての」
言いながらあーしは左手をぶんと振る。其処にあるのは、凍てついた腕時計。
「ポゼッション?って変化は使えるようになったけどさ?あーし、使いこなせて無いわけだし。それにさ?」
あーしは前を向いて眼を細める。
空を割って、バケモノが降ってきた。獅子のような姿だけど、鬣はほぼ丸めた人間の指みたいな、そんな怪物。鬣を開けば、頭の後ろには少女の顔がある。
Xとか言う人間を歴史ごと葬る為の怪物だ。確か地上特化型で、ゲームだと主人公の妹が入院している病院を襲撃して患者と職員の7割を食い殺したとかドン引き必至の個体が居た筈。
多分、ほっといても他のも来る。
「あーし、今やこうして狙われまくる身じゃん?結局、ワンチャンを信じてユーリの亡骸連れ回すとか無理っしょ?
獅童の奴とかこんなん飼ってたらやばたんのおろち。あーしはあーしの道を行くの」
「おー、じゃあ、ステラもお供しないとねー。ま、ステラに他の選択肢なんて、佑胡さまごと死ぬしか残ってないから、悲しいことにそれしかないんだけどねー」
けらけらと笑う狐少女を睨んで、人頭を後頭部に携えた異形の獅子が吠えた。
「で、どうするのかなー?」
「ステラ!」
「はいはーい、でもー、アガートラームはかなーり佑胡さまにこの力を与えた神様につごーの良いように弄られてるよー?
それに、今の佑胡さまって自由にポゼッション出来ないよねー?」
「あの獅童の発言とか、何より意味分かんないけど原作に無いジェネシックとか、どうせAGX絡みの奴等どっかに居んでしょ?現実に存在できるなら、あのゲームも実際に有り得る事って話っしょ?
なら、もうそいつに会って使いこなせるようになれば良いじゃん?頭使えよバーカ」
「それは良いけどー?今のこれはどーするのー?」
その言葉に、あーしは軽く笑った。
「逃げる!」
「おー!で、どーやって?」
「ステラ、少しならあのいけすかねー女の姿になるカミサマのアレ無視して扱えんじゃん?」
「出来るけどー、ステラつらいよー?
ちゃーんとほーしゅー、欲しいかなー?」
「何?」
「佑胡さまの知ってるおーじさまのおはなしー、聞きたいなーって?」
獅子が吠えて、爪を輝かせて飛び掛かってくる
それを避けても、多分あーしを狙って鬣からビームが飛んで来て串刺しにされる。
「は?あいつの話とか正直……」
少しだけ、あーし的にもあんまり明るい過去じゃなくて言い澱むけど。
「ま、いっか!」
自分の心も整理したくて、あっさりとあーしは頷く。
「おっけー!ステラ頑張っちゃうよー?
それで、確実に出来るのは一アクションくらいだけど何すれば良いのかなー?」
ぴこぴこと動く耳に、焦りからか語気を荒くするあーし。
「未来に、転移して逃げる!奴等が諦めて消えた後の時間軸にまで飛べばそれで終わり!」
「えー?出来るのー?」
「タイムマシンが過去にしか飛べないと思うなバーカ!とりあえず3日後!」
「おっけー!
こうかなー?限定顕現、ティプラー・アキシオン・シリンダー、駆動!」
爪が届く寸前、あーしの姿は世界から消えた。




