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撤退策、或いは全てを覆す狂愛

地に輝く極光(オーロラ)が視界を優しく灼く。痛くないのに眩しいほどのそれは、包み込み護ろうとする龍の翼のようにも見えて。

 

 「アナちゃん!?」

 同時、感じるのはおれがみまごうはずもない始水の気配。つまり、これは!

 「おー、ステラもびっくりだねぇ……」

 「あら、やっぱりやれば出来るじゃない」 

 何だか自慢げなノア姫は……いや当初から分かってたものって理解者やってるか。

 輝きの中心に佇むのは、愛らしい顔を、唇をきゅっと結んだ銀髪の少女。儚さすら感じる雪のような雰囲気は鳴りを潜め、気高い強さを感じさせる。

 ゲーム中ではオーラのグラフィックを背後に重ねるだけだったから分からなかったが、これが!現実での聖女か!

 

 彼女が手を掲げ、軽く横に振って消毒魔法を唱える。それだけの事で、騎士達が顔の毛穴から噴き出した血は拭われ、よろめきながら彼等は立ち上がる。

 

 っ?立ち上がる?アマルガムによる心毒が消えた民達もそうだが、どうして立てている?ってか、凍った桜理も無事だし……

 「獅童君っ!」

 「サクラ、これは」

 「……っ、これは一体。どのような都合の良すぎる奇跡ですか」

 この事態は仮面の男にも理解できないらしい。仮面で笑顔が貼り付いているが、内心はとても嗤えていないだろう。

 

 「彼等の方の……ANCって付かないAGXシリーズは最初から未来から降ってきたAGX-ANC14Bの中のデータを元に作られたもの。発展した技術状況から始まった開発な分、エンジン一個で全部一括で賄ってて、どんなものも精霊結晶の影響が強いんだ」

 その言葉に理解する。つまりだ、少しずつ改良してきた結果として、左右の腕と胴部で三種もエンジン積んでたアガートラームの放つ超重力圏は右腕の縮退炉を使った物理的な重圧。だが、実はオーディーンのそれは絶望の冷気による心の重さで重く感じさせる亜種って事だ。だから耐性のあるおれは圧が軽く感じたし、絶望を祓う極光が、アナの力があれば、精神の問題が消えて重さがほぼ感じなくなるって訳か!

 

 逆にこれ、おれが重圧感じていたの心が負けてただけって話じゃないかよ情けねぇなオイ!?

 

 そんな事を感じながら、愛刀を支えに立つ。

 

 「っ、これだから三流は難儀です。困ると直ぐに、奇跡で低俗なハッピーエンドを目指してしまう。ケイ」

 底冷えのする、そんな声。

 「じゃ、この人質は必要ないよーね?」

 きゃはっとした、ケイを名乗る少女の声。少女は軽く時計のベゼルに手を掛けて、

 

 バァン、と轟くのは花火のような轟音と、色とりどりの火花。

 「きゃっ!?」

 思わずといったように目を瞑れば、忽然と出現した影が少女の腕を切り落とし……いやあれ良く見ればマニピュレータだ。血の代わりにコードと歯車がこぼれ落ちている。

 

 そうして、さっとヴィルジニーを奪還し、その白桃色の男は背の雉の翼を大きく見栄に拡げた。

 「……応応応応っ!俺様を呼んでたろ、ワンちゃん?奇縁気焔、エルフと共に助けに来たぜ?」

 「ロダ兄っ!」

 いや何で間に合ってるんだ!?

 

 「はーっはっ!なぁに、危機に間に合うは英雄の常ってもんだ!」

 ひょい、と掴んだその体をエッケハルトに向けて投げ渡しながらからからと青年は笑う。

 

 「ええ、十分でしょう」

 と、相槌を打つのはノア姫だ。

 そういえばノア姫と共に来たって言ったのか。転移魔法で来た……にしてはノア姫って自分が転移する際に同時に飛ばせる範囲は広いけれど、転移先は故郷固定じゃなかったっけ?どんな魔法を使ったのやら。

 

 まあ、後で教えてくれるだろう。

 「アナ、エッケハルト、下がるぞ!」

 「え!?下がっていいのか!」

 「皇子さま!?」

 オーロラに照らされた少女は頑張るんじゃとばかりにおれを見るが、これで正解だ。

 

 「あいつらに、此処で聖教国を滅ぼす意味も価値もない。己の抱く御神体が止めてるんだからな。おれ達が逃げ仰せれば、それでお前らも下がるんだろう?」

 シュリが見てるぞ、と嚇しをかけるおれ。

 

 「つまり」

 「人質は取り返した以上、下がれば勝ちだ!」

 走れ、とおれは指示する。

 

 「えー?」

 その先に、不満げに唇を尖らすケイとやら。

 「せーっかく、桃色おにーさんが来たのに」

 「今回は縁が無かったって話さ!」

 更に一発花火弾が瞬く。半ばオート操縦らしいユピテールは此方を攻撃しようとして、天空で刃を振るうLIO-HXに噛みつかれて失速する。

 

 「だから……」

 おれ自身も対峙したグリームニルがオーディーンをけしかけてこないよう見守りながらノア姫のところに集まるのを待って……

 

 「……おい!」

 そうしてユーゴがずっと電池が切れたように項垂れたままなことに気が付く。

 

 「何やってるんだユーゴ、てめぇも走れ!」

 「……何もかも、無くなった。我は……我でなきゃ、強く、なきゃ……」

 「何時まで呆けてるんだよ!」

 仮面の下でニヤケてそうな男が悠々と歩みを進めるのを歯を剥き出して威嚇しながら、敵である青年をどやしつける。

 「おれを、桜理を虐めていた時の元気は何処に消えた」

 「それは、人が着いてくる……強者ムーヴだか、ら」

 「だから何だ!お前にはもう何もないのか!」

 ったく!間違ってるってしっかり止めたら止めたでこれかよ面倒臭い!

 

 「お前を叱るおれが居る!反省したなら今度は前を向けますね?と許してくれる龍姫(始水)が居る!そして何より!」

 「ユーゴさま!此方です!」

 響くのは悲痛な呼び声。

 「そうだユーゴ様!此方へ!」

 そうして、まだ装甲したままの女騎士の声。

 

 「お前にはまだまだ、その手に残ってるものが居るだろ!諦めてる場合かよ!」

 「……ああ、全く」

 嘆かわしい、というように仮面の人は歩みを止める。

 「下らなさすぎますよ。が、しかし……

 我が終末の事もありますし、最悪アガートラームのエンジンは確保できる」

 唇を噛む。そうなんだよな。ユーゴ連れ帰ったとして、アガートラームの残骸を持ち帰れない。

 

 「竪神」

 『「無理を言わないで欲しいものだ!離脱するなら可能だが、その際に破壊できる保障はない」』

 まあ、そうだよなと苦笑する。やはり、おれがやるしかないのか。ダメージを与えておければ、再利用しにくいだろう。

 それに、本来の持ち主を生かしておくんだ、反省してくれればユーゴを通して封印とか出来るかもしれない。

 

 「……殺せば、楽」

 「アルヴィナ、それ今までが無意味だろ」

 そう呟きながら、ひょこんとおれの背中に手を当てて死霊術を使ってくれる魔神少女と共に、刀を構えて最後の仕上げに向かう。

 よろよろと立ち上がった彼がノア姫達のところに来たら、一気に隙を作っておれもあそこへ。そのまま転移に……

 

 ってダメじゃんこれ!?おれに転移魔法が効かない。希望にすがりすぎて忘れていた。

 

 「……皇子さま!」

 「エッケハルト。暫くアナやアステール達を任せる」

 「あ、おま」

 「忌み子に転移は効きやしない。だから、おれは自力で帰る。それまで頼む」

 死ぬ気はない、何より頼勇も居るし、二人で離脱でもしようか。

 

 「……そうね」

 おれを見る紅玉の瞳にも、憂いはあっても迷いはない。ノア姫も分かってるんだろう。

 「……っ!皇子さま」

 ユーゴが、其処に辿り着く。さあ、お前のやりたいことは大半終わりだグリームニル。

 

 この先、帰るのが一苦労だが……

 

 その瞬間、

 「ユーゴ様!」

 二人は手を取り、

 

 「っ、え?」

 血の華が咲く。

 「ユー、リ?」

 「ああ、ハスィヤ殿。これでユーゴ様は、他の者に現を抜かさないのですね!」

 凍りついた場に、空虚な声が響く。

 

 「……ええ、そのメイドを殺せば、彼は貴女しか見ることは出来ません。

 上出来ですよ、騎士クリス嬢。狂気を心の底から受け入れ、正気のまま狂うことを良しとすれば心毒を祓われても最早無意味。

 

 安直な奇跡に泥を塗る、素晴らしい幕引きです」

 アマルガムの赤黒いオーラは無い。確かに祓った筈だった。けれど、女騎士の瞳には狂った光が湛えられていて。

 メイド少女に突き刺さった剣が、業火と共に爆散した。


 「っ!ユーリぃぃっ!?」

ちなみにですが、ちゃんとグリームニル氏は今章中に痛い目に遭います。イキる章ボスは大体勝ち誇った後に落とされるものなのです。

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