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嗤う仮面、或いは一縷の希望

緑の光が、盾として人々を覆う。が、それは同じことが出来るだろうLIO-HXからのものではない。彼は天空で桃色の機神を止めるのに手一杯。

 

 ならば、これは……

 「桜理!」 

 「どうしてなんですか?」

 頭の前に腕時計を掲げてベゼルを回し、彼に出来るだろう目一杯の力を解放して、サクラ色の一房を持つ黒髪の少女(しょうねん)はバリアを展開する。

 

 「……弱虫ハーサカ?」

 ぽつりと、項垂れたユーゴがそんな言葉を溢す

 「何で、今更あーし達を庇うんだ。あんだけやったのに」

 「許したくないよ。君を、君達を助けたいなんて思えないよ!

 でも、僕は獅童君を信じたいから。彼がやったことを無になんてされたくないからっ!」

 「何それ。あーし等、当て馬じゃん」

 けれど、怒りというよりは自嘲気味に、ユーゴは己を嗤う。

 それを受けて、重力に耐えられるアウィルに背負われたアナがはっとしたように魔法書を開く。けれど……

 

 「……どうしたのー?」

 「今の、わたしじゃ……あの人達の心に巣食うものを、払ってあげられない」

 咄嗟に唱えられた下級の回復魔法。ちょっとした消毒とかそういったレベルの生活感溢れるそれが桜理の貼ったバリアに向けて各々武器を振り下ろす暴徒と化した民に淡い光をかけるが、何も起きない。

 

 それを見て、辛そうに銀髪の少女は目を伏せた。

 「……あ」

 「アナちゃん!?」

 それを見て漸く事態を理解して唇を噛む。そうだ、アナが言っていたが、アステールを救うために彼女は腕輪を手放した。聖女としての力を貸してくれる神器を失った。だからこそ、どんな回復魔法でも、それこそ気休めの消毒魔法ですら劇毒を治してしまう奇跡の力はもう無い。そして……腕輪の奇跡を使うことを想定していたアナには、素の性能で彼等の心毒を中和浄化する力を持った魔法の手持ちがないのだ。

 

 「ってか、お前」

 「えー、別に殺したりしないから、ウチ等の邪魔してほしくなーいってだけ。きゃはっ?」

 エッケハルトが食って掛かるが、ニコニコと悪戯っぽい笑みを浮かべた少女は、何とか治せそうな魔法書を持ってそうなヴィルジニーの喉を抑えたまま、愉快そうに己の機神がバラバラに引き裂いた騎士の亡骸が転がるその場で、結晶……ではなく鋼の椅子に(良く見たらクッションが付いているが)腰掛けて足をぷらぷらさせた。その細腕に喉を握られた少女はぐったりしているが、息はある。

 

 「……君は、何者だ。何故こうして」

 「あー、ウチ?ウチは円卓のケイ卿。ま、そこら辺はウチ等の神サマもあんまり気にしてないけど、本名宮野(けい)だから、けーちゃんって呼んでね?

 って、生き残れるなら桃色にーちゃんに言っておいてねー?」

 きゃはきゃはと楽しげにあっさりと名乗ってくれる。が、此処で簡単に分かるが、奴は円卓側なのだろう。ってか持ってるものの時点で確定だ。

 そして、名乗りが日本人名なことから、あれは前世の姿であり、それを表に出したせいで誰なのかユーゴは暫く分からなかったって感じだろうか。前世の姿って、互いに案外分からないものだ。桜理やおれが例外で、ヴィルフリートはおれの叔父なので老けまくるし、ユーゴとか前世はギャルっぽい女の子だし……

 

 「それよりも」

 「アイサツってやつー?それに」

 「TIME JUDGEMENT ALL。ええ。此処で銀腕を得れば、全てを裁く時の力を得られるのですよ」

 漸く理解した。

 やけにあっさり認めると思ったが、ユーゴを倒してくれたら、あいつの右腕のタイムマシンを回収できるって寸法だ。おれ達が負けてもダメージを与えてくれたら、あの二機で破壊できるかもしれない。

 

 何よりだ。こいつは最初から仕込んでいた。アマルガムで皆がユーゴ派を殺せと、願いで暴走する事を分かって、シュリの毒を持っていたのだろう。それを使えば、そして今世の姿で潜入してかユーゴ派として情報を集めていたケイというらしい少女の不意討ちでユーリを捕らえれば、決して勝てない事は無かったろう。

 

 単純明快な性能面ては勝ち目なんてないが、おれ達が戦っても分かったように、ユーゴって割と寂しがりで味方思いなんだよな。

 いやマディソン相手とか足蹴にしてたが、そもそも見捨てるって選択肢だけは取らなかった。貸し一つってヴィルフリートも手助けに来たし、何よりアステールを柩に閉ざしてまで魔神王と戦ったのもボコボコにされてる二人を助けるための筈だしな。

 

 「……やってくれる」

 言いながら、おれは切れる手を探す。ユーゴは今頼れはしない。お前の仲間達くらい自力で護れと一発殴りたいが、その為に何の力が残っているというのか。

 

 余力がある奴なんて居ない。リリーナ嬢には来て欲しくないし、せめてノア姫とか居てくれたら……

 「……大丈夫かしら?」

 「はい、何とか」

 「では、無いようね。嘘は止めなさい?」

 って居るじゃんノア姫!?

 突如として姿を見せてアナに向けて不敵?に微笑んで小さな手を伸ばしているエルフを見て戦く。

 いや、駆け付けるのが速すぎる。

 

 「ですけど」

 「困ってるときは、素直に助けてと言うものよ。ワタシはそれを、他人に向けては声高に叫びながら自分は実践出来ていないおバカさんから教えて貰ったの」

 と言いながら、金髪を纏めたエルフは、少女に笑いかけて一冊の書物を手渡す。それは確かに強力な魔法書であり、確かにアナなら使えるだろうが……いや良く用意してきたなそれ!?

 

 「……はい、頑張ります!」

 「ええ。そうしてくれないと、取ってきた意味がないわ」

 ……あれ?と疑問を感じる。ひょっとして、

 「ああ、期待は止めてくれるかしら?ワタシは結局、居るべき場所と故郷にしか飛べないもの。好きな場所になんて行けないから、後はアナタがやるべき事よ」

 なんて、ノア姫は肩を竦める。だが、それで良い。彼女が来てくれただけで、最後に失えないものを撤退させつつ、救える限りを救う手だてが一発で出来た。十二分過ぎるというか、何で持ってこれたんだよあの魔法書ってレベルだ。

 

 「……マーグ」

 「グリームニルとお呼びください」

 それに対して少し悩む。

 

 「……もう良かろ。戦う必要も必然も価値もない。儂はそう告げた筈じゃよ、【勇猛果敢(ヴィーラ)】」

 そう、軽薄な笑みを浮かべた顔を模した仮面を顔に被った男の横で、銀紫の龍少女が無表情に吐き捨てる。

 

 が、おれは止まらない。止まれやしない。

 桜理が繋いで、ノア姫が更に可能性を作ってくれた救援を、無駄にさせたくない。

 

 「そちらが心毒によるおれ達への侮辱を捨てて下がってくれたら、な」

 「心外な。我等はただ、至らぬ貴方方を助けつつ、敵を終わらせる為に動いているのみであるというのに」

 非難するような声が飛んでくる。それに何を反論するか悩みつつ銀龍を見れば、何処か辛そうな顔をしていた。シュリ自身想定外だった可能性が高いなこれ?

 一応連れてきたがというか付いてきたが、おれ達をここまで妨害する気は無かったと。まあ、知ってはいたが、シュリ自身自分が用意した眷属に振り回されてそうだな。

 

 「ですので、我等が終末の言に従い、去ることですよ。さすれば、この場で殺す愚を犯さなくて済みますので」

 「……儂は、これ以上争う愚を説いておるがの?お主もそれは同じじゃよ。儂の【勇気(ヴィーラ)】と争っても良いことはあまりあるまい?何より、これはあ奴等が紡いだ勝利の物語。結末を決めるのも、彼等でも良かろ?」

 「ああ、ああ、貴方様の言葉は実に正しく聞こえますよ我が終末よ。しかしそれはいけない。あのような三文芝居だけは、笑顔で終末を楽しみ語る我等として、許してはならないのです」

 おれを見下しながら、彼は告げる。

 

 「だから、ほら」

 仮面の人が手を伸ばせば、バリアが揺らぐ。

 「サクラ!」

 「あ、うっ……

 抑えて、アルトアイネス。僕は君を、悪魔にしたくない……だから、君を使わないっ」

 「無礼な。かの神が与えたのは、世界を好きに終わらせる力。それを終末に使わずして愚弄するのは愚の骨頂」

 「……あ、獅童、く…ごめ、後、は……」

 緑の光が乱点滅し、時計の中に秘められた精霊の力が暴走する。少女はそれに呑まれて氷像と化し、バリアも凍てついてしまう。

 

 が、桜理が稼いでくれた時間、ノア姫が持ってきてくれた希望、それらが実を結ぶ。

 アナの握りしめた魔法書の詠唱がもう完成する。これで、人々を冷静にさせられる!

 

 そう思った瞬間。

 「……果たして本当にそうでしょうか、ね?

 ああ、一つ教えて差し上げましょう。貴方が手を出すなと仰ったので、誠に心苦しい事ではありますが、いざという時のために予め盛っていた毒を、必要無いと解毒する事が出来なかったのですよ。実に、悲しいことです」

 全身の毛穴から血を流したように突如として血まみれになった騎士達が、地面に崩れて呻き声をあげた。

 「こんの、糞野郎が……」

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