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暁、或いは事後処理(颶風)

「……甘すぎない?」

 なんて、端から見れば正論みたいな台詞を告げて、鞘ごと突き付けた愛刀の代わりに差し伸べた掌に爪を立てながら、金髪の青年は立ち上がる。

 

 「甘いか」

 「普通に考えて我とか助ける必要あるか?殺したいんだろう?」

 なんて言葉に、は?と肩を竦める。そもそもユーゴを殺す気になったこととか一度もないんだが、何を言ってるんだろうな?

 

 「なあ竜胆。寧ろ殺されたいのか?」

 その言葉に、少しの沈黙が返ってくる。

 「……そんな訳無い」

 ベゼルが展開したまま砕け、歯車が折れた時を刻まめなくなったボロボロの腕時計を見下ろして、ポツリと告げられて苦笑する。

 

 「だろ?だからこれで終わりだ」

 「っ!ふっざけんな」

 「ふざけてる訳がない」

 ぶん!と振られる拳を、避けもせず肩で受け止める。痛みはない、力も込められていない。

 

 「情けのつもりかよ」

 「おれが他人に情けをかけた事があったか?」

 「上から目線の情けしかかけてこないっしょ!自覚しろアホ!」

 ……台詞回しが崩れているぞユーゴ?

 

 「ってかお前、マジでやるの?」

 軽く拘束だけしてあるユーゴ派等を心底嫌そうに顔を歪めて眺めながら、エッケハルトが溜め息を吐いた。

 「おー、おーじさまだねぇ……」

 心なしかアステールの声も沈んでいるが……その割にアナやアルヴィナは何も嫌そうじゃなく、寧ろニコニコとおれを見ているのが対照的だ。

 

 「ユーゴさま……」

 と、心配そうな言葉を溢すのはメイド少女のユーリだ。纏めて凍らされた時に巻き込まれ、桜理が腕時計バリアで庇ってくれていた。

 ってか何も言わなかったのに良くやってくれたな桜理。後でお礼を言っておこう。

 

 「……おれは、自分が必死なだけだよ」

 「この甘さが?それとも、油断させて処刑でも……

 ああ、我は見せしめには良いか」

 一人で納得したように、だらりと力を抜くユーゴ。


 「だから君とも戦った。互いに、やりたいことがぶつかり合っていた。そのままでは譲れなかったから」

 「……昔は、虐められるのを喜んでたってのに」

 「ああ、獅童三千矢としては、それだけがおれに出来る事だと思っていたから。でも、それが嫌だったから、虐め続けたんだろう、竜胆?」

 おれの眼前で、青年の顔立ちが少し変わる。髪が伸びてショートボブくらいになり、顔には他人を威嚇するような強めの化粧が入る。

 「今っ更。早坂まで連れてきて」

 そうだな、とおれは桜理に目配せして参加するか見るが……任せるよと手を振られた。

 

 「ああ、今更だな。今更やり直す」

 「あんたを二回殺した敵相手に」

 「おれが勝手に暗闇で妹達の死を思い出してパニック起こしただけだよ。それに……竜胆、おれ達の敵じゃないだろ?」

 「いや敵だわアホゼノ!」

 いや今回だけは黙っててくれよエッケハルト!?

 

 「敵だ。殺せよ」

 「敵じゃないし、殺さない。お前もお前の仲間達だって」

 言いつつ歯を見せておれは笑う。

 「勿論、無罪放免って事はないけどな?反省も、後悔も、償いだってして貰う。でも、誰一人として全部悪いって罪を被せて殺したりしない」

 「……っ、なにそれ」

 と、ああと表情から棘が抜ける。

 

 「我を殺しちゃ、アガートラームが消えそうだからか」

 「それはあるよ。折角原型が残ってるんだ、解析に使いたい。勿論暫くは……それこそ下手したら一生お前にこいつは返す気はない」

 でも、とおれは額に垂れてくる血を腕で拭う。

 

 「それはそれ、だ」

 「……まっさかアンタ、あーしに気ぃでもあったの?」

 金にカラー染めしたショートボブの髪型、ぱっちりした眼、濃いメイク。前世たる竜胆佑胡の顔で、半壊した時計ゆえか首から下はユーゴのままの不格好さで、少し意外そうに青年(少女)は問い掛けてきた。

 「こんなに助けようとするなんて変じゃん。虐められて惚れたマゾだった訳?」

 「そんな訳無いよ」

 「ま、昔のアンタの心には事故で死んだ家族と見ず知らずの人間しか居なかったもんね。

 あの幼馴染すら心に入り込めないのに、あーしが入り込めてても可笑しいか」

 「嫌か?」

 「嫌みかって。あーしに言う、それ?」

 「悪いが、おれへの怒りを集めて周囲を庇うってのだけが得意でな」

 「……変わってな。虐めた側すら庇ってたアホのまんまじゃん。あーしが馬鹿みたい」

 「みたいじゃなく、おれも君も馬鹿やってたんだよ。

 ただ、それはもう終わりだ。チートを喪った。馬鹿は死ななきゃ治らないと言うが、死んだから治ったとも言える」

 

 と言いながら、おれは桜理に目配せし、ユーリを解放させる。すると即座に少女はいじけたような青年のところへと駆け出した。

 まあ良いや、別に咎める気ではない。

 

 と思っているとおれの肩が叩かれる。

 「……竪神?」

 「一つだけ教えてくれないか、ゼノ皇子。私を呼んだのは、鋼の機械神を操る"敵"と戦うためで合っていたろうか?」

 「あってるよ」

 とだけ告げる。すると蒼髪の青年は小さく頷いて距離を取った。

 「ならば私からはもう言うことはないか」

 そう告げて、青年はおれから離れると、アウィルに一言告げてその背のふかふかした毛に背を預ける。やはりというか、これで分かるから凄い。

 

 「ってか、お前本気で許す気かよ。こんだけ被害出したクソを」

 「本気で許す気だよ。そもそも敵じゃないからな」

 と言いながらも、やはり譲れない線としておれは歯を食い縛れとユーゴに告げる。

 

 そして、その鳩尾へと鉄拳一発、右ストレート。

 「かはっ!?」

 「アルデの無念の分だ。おれからはこれで十分、だが分かったろう、お前は無罪放免なんかじゃない」

 腹を抑えて踞る青年に向けて、冷たく一言。

 

 「だから甘すぎって」

 「最初に言ったろうエッケハルト。おれはおれが生き残るために正しいと思ったからこうしてる。皆が赦せないというのは理解できるが、その先に待つのは」

 と、おれが諭そうとしたところで、ぱちぱちという手拍子の音が聞こえた。いや、拍手……なのだろう。

 

 「ええ、ええ。全くです。

 何という三文芝居。これを上映するとは……シナリオ担当が無能に過ぎます。反省のほど、宜しくお願いしますね、ヴィーラ?」

 漸く来たかと息を吐く。

 

 そう、最初から言ってた通りだ。今回の敵はユーゴじゃない。そもそも竜胆佑胡は相容れない敵じゃない。確かに味方ではなかったし戦う必要はあったが、あいつは自分なりに救われたくて動いていた。迷惑だが理由には理解しようがあった。

 理解の及ばない仮面の怪物。マーグ・メレク・グリームニル。混合されし神秘の切り札の幹部、笑顔(ハスィヤ)。それが、おれが見越していた敵であった。

 

 「……笑顔(ハスィヤ)

 「かくして、頭を垂れたゴミは、甘すぎる阿呆に赦される。なんという、何という無能か。全く、命を持って代金の返金を要求しますよ。あまりにも劇としてなっていない、物語の体をなしていない。

 このような三流の結末、困るというものです」

 「三流で悪かったよ」

 「真に、後悔を要求させて頂きましょう。人はただ、孤独と絶望に怯え滅ぶもの。一人ぼっちにしない?あまつさえ手を取る?

 冗談は妄想か、死後にお願いしますよ。絶望のままに独り滅ぶ以外の結末など、何一つ素晴らしさがない。実に残念です。貴方ごと滅びてしまえと、口汚く酷評を与えてしまいそうなほどに、失望のみが今、張り裂けそうなこの胸を支配しているのですよ」

 

 ……分かっていた。だか、実際に理解しきれない思いの丈で否定されると……どうしても、悲しくなる。ノア姫に、見せたくなくなる。

 

 「では、仕方ありませんとも。あまりの愚劣なシナリオ、不承ながら、最低辺の終わりにだけは至らせるために。重い手を伸ばし乾いた筆を取りましょう。

 さぁ、絶望の果てに、独り地獄への旅路を。旅路の代金は、彼に払わせましょう、ユーゴ・シュヴァリエよ。絶望の時間です。

 ええ、気持ちは有り難いですがこの笑顔(ハスィヤ)にチップは不要、出血大サービスというものです。孤独に怯え死ぬ、羨ましく素晴らしき……良き終末を」

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