絶望を払う炎、或いは決意の合体(side:サクラ・オーリリア)
前回の後書きは嘘です(自虐)。サクラちゃん視点で人々の状況回です。次回アガートラームをボコボコにして決着します。
頬を暖める熱で、僕は目を覚ました。
ああ、凍ってたんだ……って、手元の完全に凍結して結晶に閉ざされ、けれどもそんな状態でも緑色の輝きを喪わずに簡易的なバリアを貼り続けてくれているとんでもない転生特典を見て、情けないなぁと感じる。
獅童君は自力で起き上がったのに、戦おうとする皆はちゃんと動けたのにって。僕も勇気を出して、何かきっと仕込まれているだろう策も超えて……鋼皇を扱えたらって思ってしまう。
そんな事を思いながら、目を凝らして……
「獅童くっ!けほっ!」
思わず叫ぼうとして、喉の傷から咳き込む。
あんなボロボロで、立ってるのだってやっとだった筈の隻眼の青年は、傷だらけで歪で、壊れていく片方しかない翼を、それ全体を噴かせて空に浮き上がり、振り下ろされる蒼き結晶剣と蒼刃で撃ち合っていた。
その彼の背後には、緑色の光の柱。僕は全然見たことはないけれど、それでも分かってしまう。あれは僕の貼ったバリアと同質の光。つまり、あれって……
それと同時に理解もする。あの柱は確かに障壁になって内部を護ってくれるけれど、あの触れなくても周囲に伝播する冷気だけで心が凍てつくあの結晶剣の前には薄紙にしかならないって。
だから彼は、壊れた体を引き摺ってでもその剣を止めているんだって。
「……僕には応援しか出来ないけど、頑張れ、獅童君!」
その声をせめて張り上げたその時、時計が少しだけ振動する。
「うん、行って!」
そう願うと、輝く光が一条、冷気を撒き散らしながらぎこちなく動く銀腕の巨神へと向かって走った。
「……無理をする。その体はアルヴィナのものだ。あまり砕くな、その権利はない」
と、その光……アガートラームのブラックホール内部に存在する巨大な円筒型タイムマシンに突き刺して無くなった結晶槍グングニルの代わりになりそうな同系統の結晶槍を手にして、シロノワールさんが獅童君の影から現れ、共に巨剣を止めに入ってくれる。
更には……
「さて、弟ばかりに良い顔はさせない方が良いよね!
君の居る場所は違うよね、さあ、行って!」
魔力の装甲を身に纏い、銀髪の女性が加勢する。それに留まらず、魔力の砲撃が、無数のドラゴンブレスが剣を襲う。この国の騎士団達が、立ち上がった皆が助けようとしてくれている。
「……っ!あぁ!」
そうして、獅童君は踵を返すと、絶望に凍りついた人々を溶かす熱の源点、光の柱へと飛び込んだ。
けれども。
「『抗う必要は な い』」
「『苦しむ意味は な い』」
「『生の苦悩に、身を置かせるは 忍 び な い』」
更なる冷気が僕たちを襲う。全てが熱を超えて心を冷やし……。銀腕のカミの周囲から、全てが消えていく。建物も、武器も、逃げ遅れたというか空き巣しようとしたのだろう逞しい一人の人も……全てが最初から無かったかのように灰と化して、後に残るのは生命の痕跡すらも見えなくなった傷ひとつない大地だけ。戦いの傷跡である地割れすらも消えてしまっている。
「『恐 れ る な』」
「『無 に 帰 れ』」
「『世界っ!』」
「『生命!』」
でも、もう凍る気はしない。僕の知る限り誰よりも信頼できる二人の声がするんだから。
「『え、あ、いや何!?』」
そして、何か頼りない彼の声も。
「「『魂ッ!……創征ッ!!』」」
「『いやだから聞けよ!?』」
「「『明誕せよ!Genesis Jurassic-Tyrantォォッ!』」」
光の柱が弾け飛ぶ。爆発的な熱量が、熱波が僕たちの間を吹き抜けて、響く声による絶望をある程度振り払うだけの暖かさをくれる。
そうして降り立つのは、LI-OHの上半身を食べるように合体したティラノサウルス?型の巨大ロボの後半身が二つに割れて巨大な腕になった超兵器……に、更に背中に巨大なプテラノドン型ロボがくっついた巨大神、GJ-T。言っちゃ悪いと思うけど、下半身部分がLI-OHそのままで上半身に比べて貧弱すぎる外見の機神。
うんまあ、背中に巨大なエネルギーウィング背負ってるんだし、足は飾りだって割り切れば何にも問題ないのかな?
「『無 意 味。覇灰せよ』」
熱波を受けても、暴走する銀腕は止まらない。更に……
「な、何だあれ!?」
「バケモノ……」
「教王も敵で更にあんなバケモノゴーレムまで!?」
「俺達は生きた痕跡すら全部灰になって消えるんだ!もう終わりなんだ!」
「魔神なんてとんでもねぇ!もっと恐ろしい……世界は終わりだ」
「助けてくれよ、教王を、神を名乗ってたんだから!」
「救世主なんて、魔神剣帝なんて!聖女伝説すら嘘っぱちじゃないか!」
「救いなんて、無いんだ……」
伝播した冷気だけで絶望に凍てついていた人々から恐怖の声が上がる。うん、まあ結構異形の合体だし、知らなきゃ無理もないよね?って悲しく思う。
あの機体は、獅童君達が皆を護るために必死に合体した正義の機神なのに……
可笑しいって思ったけど、彼らの声は僕の腕時計が拾ってくれてるだけみたいで、他の人には聞こえていない。
そう思った時には、僕は声を上げようとしていて。
「『滅びあれ、滅びあれ、滅びあれ、滅びあれ、滅びあれ、未来あれ、滅びあれ。
晩鐘に導かれ、安らぎに消滅れ。赦 し で あ る』」
それより前に、鳴り続ける鐘のように響く抑揚のない声をかき消すように、鈴の鳴るような澄んだ声が張り上げられていた。
「でも、わたしたちは死にたいなんて思ってません。だから、戦う人達が居るんですっ!
皇子さま達は、わたしたちが生きる今日と言う時間を護るために、今も……っ!」
「そうだよ!」
何を言ったら良いか分からなくて、思わず同意だけする。
なおも懐疑的な人々の顔を上げさせることは出来なくて、悔しくて拳をきゅっと握ったところで、不意に手に布が擦れる。
「……聞かせたい、の?」
帽子の下から目を爛々と輝かせて問いかけてくるのは、アルヴィナって呼ばれる女の子。
一も二も無く頷く。この子そのものは信じられなくても、獅童君なら信じられるから。
「……お兄ちゃん」
と、少女は目深に帽子を被ると、そう烏を呼んだ。
「アルヴィナが望むのであれば、私に異論はない。彼の者達の言葉を導こう。それに意味など感じぬが……」
「あります。だって皇子さま達は、わたしたちの為に頑張ってるんですから。応援されてないなんて嫌です」
と、シロノワールに告げるアーニャ様に僕も強く頷いて、声を拡散するって言い出したその青年に向けて腕時計を嵌めた手を差し出す僕。
「『ってか、これ熱すぎるんだけどどうなってんの!?』」
「『止まること無く未来を見るために、心を燃やせ!その熱さくらい、耐えてやるものだ!』」
「『いや根性論!?』」
……あれ、急に不安になってきた。
なんて思う僕の前で、合体機神はその手の大きな爪を振りかざして横凪ぎに振るう。それを、腕を組んだ銀腕のカミはふわっと浮かぶと重力球に呑まれて転移した。
「『それはお前の力じゃないだろう?』」
刹那、背中のウィングが強く煌めき、巨神は天へとロケットのような速度でかっとんでいった。
「……ほら、そうですよね?
だから皆も信じてあげてください。あの人達を」
それを見送る聖女さま。そして……
「たしかに、あの声は!」
「やはり、救世主!」
「狂った声も聞こえたけど、正気で、恐ろしくて、でも戦おうとしてくださっている!」
「きゃー!エッケハルトさまぁっ!」
……何か違うよね!?って思いながらも、妙な熱狂をしだした人々と共に、僕は暁も近い空に浮かぶ二つの輝く鋼の星を見上げた。
 




