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飛来、或いは暴走の片鱗

プテラノドンのような支援機ジェネシック・リバレイター。それを纏った群青色の獅子の咆哮が響き渡る。その名こそ融合機神ジェネシック・ライオレックス!王の名を冠する最速の翼!

 そうだろう。アイリスの執念が、託された翼が、本来有り得ないこの場への降臨を間に合わせた。

 

 「……有り得ねぇ、有って良い筈がない」

 譫言のように呟く声が銀腕のカミから漏れる。が、それを消し去るほどの音は、鬣の機神から轟く。

 「が、なあっ!」

 「舐められたものだ」

 刹那の攻防。背にプテラノドンのような支援機をほぼパーツ分割せずそのまま背負った機神ではなく、おれ達を狙った一撃を放とうとした白銀の腕が、群青色の機神の持つ槍によって防がれる。ほんの少し回復したらしい縮退炉による転移を駆使して距離を詰めたにも関わらず、それを越える速度によって、一撃は阻まれたのだ。

 

 「……あ、あ。お前は、お前達は、何なんだよ!我の、あーしのやりたいことを邪魔しまくって!」

 輝く瞳がおれ……そして少し離れた場所で肩で息をするエッケハルトを見据えて叫ぶ。

 

 「あ、大丈夫ですか皇子さま」

 「……これで、最後だから平気だ」

 立ってられるかと言われるとそんな力はない。燃えた全身、凍てついた魂、動くことすら最早奇跡な体を引き摺って、おれは頭をもたげる。

 

 「……おれか?おれ達は……悪の敵だ。そう在りたいとせめて願ったただの人間の集まりだよ、竜胆」

 「勝った筈だ、勝てた筈なんだ、お前に!」

 その言葉に、おれは優しく笑みを浮かべた。

 

 「ああ、お前の勝ちだ。お前はおれに勝利して……

 そして、おれ達に負ける。自分勝手な夢は、それで終わる」

 「っ!てめぇ!」

 「誇れよ、それを胸に絶望しろ、竜胆。おれに勝ちたかったんだろう?そしてお前は勝ったんだよ。おれ個人には」

 そして、と更に呟く。

 「でも、おれ達には勝てない。それだけだ」

 「っ!ふっざけ!」

 声無き声。言い終わる前に突き込まれる槍の一撃を避けて、片翼の銀腕が空へと舞い上がる。ってか、片翼で自在に飛ぶなよ自由か。

 ……いやおれの尽雷の狼龍も物理的には片翼だな。

 

 そんな事を考えながら、天空で槍を振るう鬣の機神を見上げ……軽く息を吐いた瞬間に崩れ落ちる。

 流石に立ってられなくて、有りもしない壁にもたれるように……

 

 が、ひょいと受け止められた。

 「……アルヴィナ?」

 「せい、かい」

 おれの背中を抑えてくれたのは、突如として駆けつけた魔神娘だったようだ。背に軽く何時も被っている帽子のつばが当たっているのを感じる。

 

 「……平気?」

 「平気だ。それより、アステールは」

 「……皇子が引っ張り出してくれたけど、全部じゃなかった」

 言われ振り替えれば、確かに狐尻尾に見える何かを立てたぐしゃぐしゃの……半分くらい溶けた存在が其処には残っていた。アナは手を翳し、腕輪を輝かせて魔法を唱えているが、それはそれとしてまだ特に形は整わない。

 

 「駄目、なのか」

 「ううん。駄目じゃない。皇子がちゃんと引っ張り出したから、きっと形を保てる。あの毒を撃ち込んで強く生きたいと願わせたから、ボクの死霊術で、あーにゃんが体を治せるまで消滅を引き伸ばせる」

 おれの背に頭を押し付け、アルヴィナはきゅっと狐火……いや人魂?を浮かべた右手を強く握った。

 

 「勿論僕だって、役に立てる限り」

 アナの横では腕時計を輝かせて桜理が何かやっている。おれには理解できないが、まあ魂の柩はあいつのAGXにも積まれてるしな。出来る手はあるのだろう。

 

 そんなことを思っていれば、おれの前に立つ影があった。

 「どうした、エッケハルト」

 「ったく。また助けさせられた。もうこれっきりにしてくれっての。何度も何度もあんなのと対峙してたらそのうち死ぬって!」

 そんな抗議からかと苦笑しておれは彼に手を差し出そうとして……濡れていることに気が付く。

 そういえばシュリの血由来のアマルガムを握り砕いたし、何より刀を握り込んで硬質なもの相手に振りすぎて掌の皮なんてボロボロだ。他人と握手したり手を借りて立ち上がるには汚れすぎている。

 

 「……ああ、すまない。だが、おれ一人では勝てなかった相手だ。巻き込むしかなかった」

 「もっと覚悟決めてる奴等だけでやってくれよ!俺もヴィルジニーちゃんも、お前にどんだけ文句言いたかったか」

 「後で聞くさ」

 言って空を見上げる。今も銀腕のカミは結晶で無理やり固定した左腕をぶんぶんと振るって抵抗している。ある程度縮退炉の機能は回復したのか、その飛行機能には変なブレはもう無い。

 

 あれだけやって、この程度のダメージか、と結晶で同じく腕を、放たれるいい加減弾切れしてほしいバルカン砲の雨を止めて空を駆けるジェネシックを見つめる。

 

 「でもまあ、勝つんだろ?」

 「いや、厳しいな」

 「は!?あんだけイキり散らしておいてその発言!?ってか、あんだけ格好付けて来ておいて勝てるわけじゃねぇの!?」

 その暴言に対して返す言葉に詰まる。

 

 「どういうことですの?」

 「そもそもアイリスからコンセプトが間違ってたって聞いてるからな。あの機体は、ジェネシック・リバレイターは速度と防衛に全能力を振り切った機体だ。出力そのものは大きく上がってる割には火力は素のLI-OHとほぼ変わらない」

 槍を投げつけ、アイリスが送った剣に持ち変えた鬣の機神を見ながらおれは告げる。

 

 「いや、ならばそもそもダイライオウだか何だか使ってろよ!」

 「そもそもお前……は逃げてて知らなかったか。お前のGJT(ティアラー)もそうだけれども、ジェネシックってのはレヴ搭載機、絶望の冷気を鼓動させる精霊心臓を組み込んでるんだよ。

 あまり巨大な兵器に、パイロットと離して組み込むとすぐにレヴ暴走が起きて凍りつく。そう、今のアガートラームのようにどんどん凍っていくんだよ」

 それを抑え、制御しやすくする為の魂の柩。それをそもそも搭載していないLI-OHには安全装置なんて勿論無い。

 「ダイライオウに合体してからだと危険すぎる。だから素のLI-OHに合体させて駆けつけるしか無かった」

 うげっというような顔をするエッケハルト。

 

 「だが、此処に例外がある」

 「俺に戦えっていうのかよ!」

 「まあ、出来るなら、な。お前のあの力は、そもそも共にLI-OHと合体する為に作られたもの。その中の攻撃力特化たる引き裂く者(ティアラー)。ならば、合体できない道理はない」

 「これ以上やりたくねぇよ!?やめろっての!俺は、命が惜しい一般人なんだよ!」

 そんな叫びに、遠巻きに見ていた人々が動揺しがっかりす……るよりは、何というか生暖かい視線になっていた。

 そして満足げに頷くヴィルジニー。あれか、あのシュヴァリエ邸の一件もそうだが、嫌だって真っ当な思考しながら、それでもやるしかないならやるって喧伝されてたんだろう。だから、誰一人として彼が本気でやらないとは思ってない。

 

 いやこれ、おれが憎まれ役買って出て戦って貰う方面に誘導する必要無いのでは?

 そんなことを考えた瞬間。

 

 「迷い、何も見えぬ瞳では!」 

 「っ!何なんだよぉぉっ、お前ら、本当に!

 あーしに手を差しのべてろよ、そんなんなら!」

 背後に自棄になったように転移してきていたアガートラームを、結晶で出来た鬣の機神の背中の翼が捉え、装甲を切り裂いていた。

 

 ヒィン、と可笑しな耳鳴りがする。不気味に胴部装甲が歪んだアガートラームの損傷部が蠢いたように見え……

 そしてその瞬間、おれの視界は完全に凍てつく結晶に染まった。

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