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別れの言葉、或いは迅雷

刹那、眼前に聳える銀腕のカミの巨大な腕に迸るエネルギーラインから装甲が展開し、リング状に変形した腕装甲パーツに囲われた中身が露出する。それは白銀の腕の中、機械的な同じく銀色の金属製の蛇腹パイプ等が装着された内部構造の中央で微かに脈動し大きさを都度変える漆黒の太陽。

 

 そう、マイクロブラックホールそのものである。

 

 大きく内部へと引き摺り込む重力を感じる。大地に深々と突き立った……いや最早大地を抉って柄どころか握っていた腕までもが地割れに埋まりきった状態では掴む物もなく、おれの身体はブラックホールに引かれて軽く浮き上がった。

 

 踏ん張ろうとはするが……あの奥義は言った通りに「哮雷の剣ケラウノスの奥義」だ。再現こそ出来たが……そもそも、武器主体の技であり、おれが使う必要も意味もない、そんな奥義なのだ。当然、そんなものを無理矢理再現したおれの肉体はボロボロで、けほっと青い血を大地へと吐き出してしまう。

 纏う力も剥がれ、結晶が凍結して砕け散る。尽雷の狼龍形態……良く持ってくれたが、流石に限界か。

 

 そのまま呑み込まれるようにして……

 その瞬間、ブラックホール周囲に様々な紋様が浮かび上がる。ルーンのような光の文字、時計の針のような不可思議な紋様。その他諸々により、収束黒点が膨れ上がっていく。空の雲もおれの放った奥義により砕けた地面も何もかもが巻き戻って行く。それは正に、かつてあの鋼の皇帝が行ってきたものと同じ現象で……

 完全に呑み込まれる寸前、一条の光が膨れ上がった漆黒の太陽を貫いた。

 

 「オーバードライブ・グングニル。という所か。

 時を遡る為に総ての守りを解いた一瞬、言われた通りに突いてやった」

 同時、引力が消え去って虚空に投げ出されるおれの体。半分凍っていて動かないままに墜落するそれを受け止めるのはやはり、シロノワール。が、青年はそのまま一瞥だけして、おれをぽいと大きく放り投げた。

 

 「後は貴様の仕事だ。ゆめゆめ、予想を裏切るなよ?」

 そのまま影に消えて行く八咫烏。

 

 ああ、向こうも当に限界だったのだろう。というか、ほぼユーゴの攻撃捌き続けさせてたようなものだ。良く生き残れたってレベル。ゆっくりしててくれ。

 

 と、言いたいのは山々だが、と何とか受け止めてくれた桜理の心配そうな顔を無視して血反吐をもう一回吐き捨てて立ち上がる。

 視界がブレる。生えたままの右翼が重い。左翼はオーラで出しているもの、変身が解ければ消失してしまい肉体が大きく左右非対称故に重心のバランスが崩れる。

 

 そんなおれの前で、一条の光……結晶槍の一投を受けた銀腕の巨神が一瞬だけ膨れ上がり全体を覆いきった黒点から姿を現した。

 

 「てめぇ、ら……」 

 右腕に光はない。脈動していたラインが消え、威圧感も無くなっている。だが……逆に斬り裂いたはずの左腕は完全に傷一つ無い状態へと回帰してしまったようだ。

 

 「もう時は戻せない。破壊しきれなかったようだが……タイムマシンは狂った。お前に時の支配を明け渡すのは勿体無い」

 精一杯に凄んでみせる。そんなおれの額を、復活したらしいビットが撃ち据えた。

 

 「ぐっ!」

 「獅童君!」

 咄嗟におれの肩を持ってくれる桜理に支えられ、右手で流れる青い血を拭う。

 ギリギリだ。だがここまで来て……

 

 「終われよ」

 「終われるかよ」

 腕を掲げてブラックホールから何かを呼び出そうとして、巨大な銀腕が空を切る。縮退炉はその機能を喪っている。今ならば!

 

 「まだ先がある」

 先なんて無い。もうほぼ切れるものは切った。左足の感覚は無くなったし、視界も霞んでろくに見えたものじゃない。眼前の見えない筈もない巨体が3機あるように見えてならない。

 

 「はっ、何を馬鹿言ってんだ?」

 嘲りの声が降り注ぐ。正直おれ自身頷きたくなる。だが……

 

 「っ!何やってる!」

 不意に銀腕の巨神の目が輝き、首を回して遠くを見据える。

 「お前」

 「悪いな、教王。色々と教えて貰った」

 そう告げるのはディオ団長。その横に居るのは……うーん、知らない人だな。

 が、大体分かる。多分ユーゴ派だ。

 

 「っ!お前等」

 「離れていった教王派は兎も角、潜伏したままだった同派閥の持つ七天の息吹等の魔法書も押収させて貰った」

 「いやー、ごめんねごめんねー。でもさ、まけそーなざぁこ、いまっさらちゅーせーとか要らないよね?」

 なんて、げんなりするような言動が横の幼げな少女から飛んできた。

 

 「はぁ!?」

 「じゃ、そーいうことで」

 なんて言いながら背を向ける幼少女。

 いや何なんだあの子、仕込みか?

 

 とか思ったが、ユーゴは絶句したのか少しだけ固まっていた。

 

 「獅童君、平気?

 僕にはこんなことしか出来ないけれど……」

 背中をさすりながら、少女が呟く。その腕の時計が、凍てついたおれの肉体を薄く覆う氷のようにも見える結晶を吸収してくれて体が暖まる。

 が、それを感じると共に、触れる指先がどんどん冷たくなっていって。

 

 「桜理」

 「言わないで、振り返らないで。僕を見ようとしないで。

 このまま、僕に少しでも手伝わせて」

 おれはまだ耐えられる。けれど、怯えがちな少女がおれの代わりに絶望の冷気を受け持ったとしたらどれだけ持つだろう。なのに、無理矢理引き受けてくれた。あまり意味はなくとも、ほんの一欠片のおれの休息のために。

 

 「っ!ちっ!」

 そんなおれを見て、鋼鉄のコクピットで毒づく音が聞こえた。

 ああ、持てる。

 「うぜぇ!」

 が、足の感覚が戻る前に銀腕のカミの胸元がフラッシュする。

 っ!スタングレネードみたいなものか!

 

 咄嗟に目を瞑ろうとして間に合わない。体が重くて閉じきれず……が、おれ達を覆うように黒い光を呑み込む魔法壁が出現して視界を塞いだ。

 

 「ディオ団長?」

 「いいや、忌み子殿下。我等竜騎士団の事を忘れぬよう」

 あれ?ああ竜騎士団の人達が助けてくれたのか。

 

 って待て、彼らまで協力してくれるのか!

 

 「死ねよ!裏切り者と邪魔者ども!守ってみせろよ三千矢ぁぁっ!」

 「ならば!」

 とん、と背中を押されて一歩前へ。もう手は動く。先祖返りしたままで血を垂れ流す翼も動かせる。

 「……終わりにしよう、ユーゴ。さようなら、アステール」

 一息だけ置く。本当は続けたいが、コマンドの直後に言葉を続けては反応してくれないかもしれないのだから。

 

 「……なんて、言うわけ無いだろうが!」

 おれの眼前で、今正にバルカン砲を最早気にせず乱射して元味方ごと総てを穴だらけに変えようとした巨大な機械神がぴたりと静止した。

 

 「こんだけの人間が呼んでるんだよ、とっとと戻ってこいアステール!

 迅雷!抜翔断!」

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