機械人形、或いは空戦
『……兄さん』
耳に届くのは暫くおれを集中させてくれていた幼馴染神様の声。
始水、何かあるのか?
『いえ、王狼から聞いてはいましたが……撃てると思いますか?第一、撃って平気ですか、今の兄さんは』
心配そうなその声に、仮面の下でにぃと笑って返す。
撃てるさ。どんな犠牲を払っても、な。
『【心煌剣・逆龍霹靂神】。或いは、轟威火鎚。兄さん、あれは人が振るうものではありません。生き飽いた永き時を過ごす者が振るう、命を懸けた霹靂です』
何を言っている、誰だって、アナも桜理もシロノワールも……死んでいった皆を含めて命懸けでない奴なんて居ない。だから撃つ、撃てるさ。天狼の想いと一緒ならば!
「もう、攻撃して良いかよぉっ!待ちくたびれたっての!」
その刹那、降り注ぐのは無数の結晶の雨。
ってかそんな技もあるのかよ!?
「はっ!」
が、おれはそれを嘲笑して空中に留まる。何もしない。する必要がそもそも無い。
だってこれは……
「ちっ!避けろよ!」
なんて言いながら、すぐに雨は止む。そう、当たり前だが……空から雨を降らせれば地上は濡れる。それと同じで広範囲過ぎて味方を巻き込むから放置してたら勝手に止むんだよな、あの攻撃。
そんなおれの真似か、シロノワールも同じように微動だにせず一瞬だけ雨を受けてにやりと笑う。
「まあ、最初からスノウ以外は御免だがな。随分と私も好かれたものだ」
おいシロノワール、一応聖女を攻略するだなんだで味方面って話なんで、真実ぶっちゃけるなオイ。最初からあんなこと言ってるけど単にアルヴィナの為に味方してるってのは分かってたけどさ。
ってか、リリーナ嬢が聞いたら……案外最初からうん知ってたけど?ってけろっとしてる気もする。最初だけシロノワールと仲良ししたそうだったけど、そんな素振りすぐに無くなったしな。
まあ、外見割と魔神王だし……って馬鹿かおれは!今はそこまで想いを巡らしてる場合か!
「……お前は、お前はぁっ!」
雨が上がった、その瞬間に降り注ぐ7発のビーム。四方から飛んでくる機械人形のそれをシロノワールはブレて回避し……た瞬間、鋼の神のアッパーが転移先を襲う!
だが、そんなもの知っている!シロノワール狙いだということは分かっているのだから……
「浅い!」
おれはそれを完全に無視。手助けすらせずに、ユーゴ側が集中を切らした大型ビットへと駆ける。
って良く見るとデカイな。数メートルサイズか!だが!
「はぁっ!」
流石にこの人形にまではレヴシステムも何も搭載していない!っていうか、桜理から聞いたが有人機……魂を持つ者が居なければ暴走して凍りつくらしいからな!お陰で脆い!
横凪ぎの一閃、刃渡り的にその胴を両断するには少し短いが、おれの想いを汲んで迸る雷光が、そしてそれにより更なる加速を得て吹き荒れる衝撃波が補い、一撃で両断。背中にくっついていたビット本体ごと切り裂く。
が、その爆発を認識した瞬間、流石にユーゴも気が付いたのかバルカン砲の掃射がおれを襲った。
いや数百mくらい先から普通に届くって距離感バグるんだが止めてくれないか!
そんなことを考えながら、おれは咄嗟に二機目の機械人形の背後に回り込む。
盾がズタズタに引き裂かれるのを見ながら、どうせ持たないと分かっていたので即座に離脱。倒せたのは二機か、割と悪くない!
やはり脆い。まあ当然か、AGXが対峙していたのは精霊、人の歴史へのアンチテーゼだ。人間を優先して襲うがゆえに、無人のこの兵器は迎撃そのものを想定していないのだろう。落とすのはそこまで難しくはない。
あの奥義は隙がある、だからこそビットは潰してからしか当てようがない。
次は……
というか、まだか、まだなのか頼勇!
そうして約5分後、機械人形の姿は天空から消え去った。




