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揺らぐ竜胆佑胡と尽雷の恐怖(side:ユーゴ・シュヴァリエ)

「あ、きゅぅ……」

 苦しげに呼吸する銀髪の少女を掲げた腕に吊るし、あーし……じゃなかった、僕、でもなくて我は少し離れた地でその名を呼んだ異形の怪物を眺めていた。

 

 全身を覆う深い海に近い群青色の精霊結晶には時折幾多の光が明滅して銀河を思わせる。その下に見えるのは何処から持ってきたよ宇宙金属か何かと言いたくなるほの暗い金属光沢を持った灰銀のアンダー。各所に白銀の甲殻のような装甲が追加され全体としては我も一回見たことがあるかの変身、スカーレットゼノンに似ていると言えるだろう。

 だが、胸元から迸る紅のエネルギーライン、狼を模したろうフルフェイスの兜を突き破って後頭部へと流れる銀の角からは前へと突き出す小さな朱角が見え、僅かに透けた兜の下から黄金に燃える左目の光だけが強く見える。

 何より……その背には狂った翼がある。

 右翼は短い翼脚に三つの巨大なブースターのような翼節がくっつき、その間を鱗に覆われた翼膜が軽く繋いだような、少しだけ寛げた今は巨大なクローを背負うようにも見える姿。そして左翼はヒロイックなロボットの鳥型パーツならこんなだろうと言いたくなる展開翼。少なくともブースターを連ねたものとは全く機能が違うだろうし、実際羽ばたくような動きを見せている。

 

 だというのに、だ。右翼のみを噴かせているとは思えない自在な制動で、奴は襲いかかってきた。

 

 有り得ない。何だよあの意味不明の軌道!?普通片方だけ噴かせたらまともに飛べないだろ!?

 

 だが、だ。大丈夫だ、何とかなる。

 「はっ、良かったぜ本当に。

 お前がユーリを人質に取ってたらそれこそ交換とかさせられる所だった」

 「……やりたかったのか?」

 「御免だっての」

 その言葉に、狼のマスクの下で、灰銀の怪物は静かに笑ったのだろう。

 

 本当にイライラする。それをあの日、見せてくれていたら……っ。勝手に死んで、歯車は狂い初めて!全部コイツから始まったってのに!

 

 「まあ良いや、聖女を殺すぞ、武器を捨ててその変身を解け」

 更に少しだけ力を強める。苦しげにサイドテールが揺れるが、それを見ても狼なのか龍なのかという異形の装甲を纏ったゼノは静かに燃える左目でおれを見つめていた。

 

 「ほら!」

 嫌がらせの意図を込めて胸元に左手を伸ばし、無駄にデカイそれに指を埋め……

 ふにゅんとした感触が、ズレた。

 「あ、パッド!?」

 「はっ!」

 思わぬ事に目を剥いた瞬間、奴の右腕ガントレットと化していたパーツが単分離して我の右手を打ち据え、思わず少女の喉を緩めてしまう。

 

 「ヴィルジニー、こっちだ!」

 「全く、魔神のような男に庇われるとは悪夢ですわね!」

 は!?ヴィルジニー?

 が、胸元の詰め物を放り投げて背を向ける少女は確かに良く良く見ればゲームで……はそもそも銀髪スチル無かった。そう、小説の挿し絵で見てた銀髪聖女とは別人。少しだけ青みがかった銀髪も、魔法が解けたのか毛先にかけて銀色に変わっていくストロベリーブロンドへと変わってしまう。

 

 っ!銀に変わるって点は魔法で誤魔化せないけれど、逆に言えば銀に染めるだけなら何とか出来るのか!最初から騙されてた!?

 

 「にがっ!?」

 手を伸ばし、装甲を失った右足と左足の圧倒的な出力差に足を取られてつんのめる。それを静かに隻眼は見下していた。まるで全てを見透かしていたように。

 

 「てっめ」

 「全く、無茶をする」

 「無茶くらいしますわよ。何度も良いようにされて、放置せざるを得ないなど困りますわ」

 変装魔法が完全に解け、グラデーションの髪の少女はドレスの裾を摘まむとそう言った。

 

 「危険だ」

 「ええ、大丈夫ですわよ。『恐ろしいしやりたくないけど、あいつらはそれを当然のように出来てしまう、そして勝ってくる。バケモンだよ、付いていけない』とエッケハルト様が言ってらしたもの。守ってくれるのでしょう?」

 その台詞に、怪物ははぁ、と溜め息を吐いたように見えた。

 

 「我を、見ろぉぉっ!」

 「見てどうする」

 瞬きする間の回し蹴り。死角から襲いかからせたビットが攻撃を放つ前に蹴り飛ばされ、我の腰に付けていた斥力フィールド装置の位置を正確に撃ち抜いた。

 

 「それだけか、竜胆」

 ……遊ばれている。そう理解した。

 此処まで、何度でも殺せた。殺意があれば死んでいた。我自身適度に加減して遊ぶのには慣れていたっていうか、気に入らない相手では遊んでいたから良く分かる。

 

 全く本気じゃない。だってゼノはもう抜刀すらしていないじゃないか。変身後まともに月花迅雷を振るってきたか?

 

 「だが!こいつは!」

 「……そろそろ、遊びは終わりにしようユーゴ」

 背後に落ちている足とその装甲から魔法を放とうとするが、軽く爪のような右翼を薙がれて失敗。背中に目ん玉付いてるのかと聞きたいし、あの右翼背後に攻撃出来るの反則だろう。

 

 それに、何か違和感が……

 「もう良いよ、お疲れオーウェン」

 その瞬間、真っ黒な空が落ちた。

 いや違う。空を、周囲を覆っていた闇という名のスクリーンが剥がれたのだ。

 「うぎっ!?」

 照らされる多数の光の魔法に目を焼かれて思わず強く目蓋を閉じる。そうして研ぎ澄まされた耳に届くのは、鳴り響く鐘の音とざわめく人々の喧騒。

 

 「っ!これは!?」

 「お前はオーウェンの貼った結界からルー姐が貼った消音結界の中に転移したから聞こえなかったろうが、さっきからずっと鳴ってたぞ?

 恐ろしい敵が聖都を踏み荒らしたという危急存亡を告げる七つ鐘の音が」

 「て、っめぇ!」

 折れた歯をぺっ!と吐き出して叫ぶ。聖女アナスタシア……に化けたヴィルジニーを脅して魔法で繋がせたが、顔までは治してる暇がなかったのだ。

 

 「……お陰でだ、全部多くの人の前で見せてくれたよ教王ユガート・ガラクシアース。

 意図的に伝統と血統のアングリクス枢機卿家を、己のためだけに人質に取った。聖女を人質に取ろうとし、更には害そうとした」

 カシャンと兜がバラバラのパーツとなって虚空に溶け、縦に裂けた青光を持つ燃える黄金の左瞳と静かな明鏡止水の右目。見せ付けられていた狂った揺らがぬあの眼に、全てを覗かれた気にすらなって心がざわつく。

 「お前がカミ足り得ない証明を皆が見ていたぞ。お前に教王足る資格があるか、聞いてやろうか?」

 

 「だがぁぁっ!」

 助け起こしてくれるユーリと、我を護るように姿を見せるステラ。

 

 「亡霊の如く。人ならこうして忽然と現れることはないよな、アステール?」

 「おー、ユーゴさまの為にって嘘だったのかなー?」

 怒り心頭、尻尾を膨らませるステラだが、我聞いてないんだけどそれ。何か交渉とかしてたのかよ!?

 

 「いや、真の敵を倒すために、ユーゴに色々と分からせるためにやってるだけだよ」

 その言葉に嘘はないだろう。殺意が感じられない一撃ばかりで、此方の全てをあしらってきた。格の差を知らしめるように。

 

 「それより、幽霊みたいだぞアステール?」

 「いやー、失敗だねぇ……裏切られるとは、どーしてか思いたくなかったのが仇になったかなー?

 あそこでしょけーされるように、動くべきだったねぇ……」

 「そう、これがあの教王の真実ですわ!」

 微かに透けるステラを指して勝ち誇るのはヴィルジニー。

 

 「勝った気か」

 「お前自身には勝ったよ。また人質を取るか?アナの居場所はお前に分からないから転移は不可能。探し回るなら、その間にお前の仲間も死ぬ。

 それとも一緒に転移するか?その隙があるならば好きにしろ」

 

 くっ、と唇を噛む。

 クリスは一頭と一人に抑えられユーリを守れない状況。

 どうしてだ。何であんな遊びで死んだんだ。これだけ出来て、飾って誤魔化すしか無かったあーしと違って素で沢山持っていた奴が!

 

 「ならこれでどうよ!グラビトン・ジャッジメント!」

 もうなりふり構うか!あーし達も身を切らなきゃやられる!というか、既に立場を崩され身を切らされてる!此処を切り抜けても、逃げなければ後から奴が来る!原作より強化されて性格そのままの竪神頼勇が!

 もうステラの記憶がとか、反動が来て少し昔の記憶が強く脳に焼き付くとか言えない!

 

 「アガートラァァム!」

 「それを待っていた!」

 だのに!

 胸元ポケットの顔が奴に似ててイライラするあの男からパクった腕時計と共鳴する我の時計を高く掲げて叫んだ瞬間、眼前の怪物はにやりと笑った。

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