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装甲、或いは星の刃

「っ!?」 

 謎の白銀の鎧を見ておれは少しだけ息を吐く。未知数の姿だ、イアンにも似た、っていや仮面のヒーロー感ある姿ってくらいしか共通点は無いんだが、これは……

 

 「……獅童君、あれは」

 「ふっ!」

 『キュグゥ!』

 裏拳一発。剣を振り回すので手一杯で移動は半ば転移任せであった筈のユーゴが猛然と地を蹴り、何処かカサカサとした動きでアウィルの眼前へと高速で接近すると、咄嗟に腕甲で受け止めた白狼の巨体を弾き飛ばした。

 

 「うわっ!?」

 「くっ!」

 そのまま建物同士を繋ぐ連絡通路の壁へと激突し、瓦礫と共に屋内へと倒れ込むが、流石天狼というか即座に四肢を踏ん張り、桜色の雷と共に駆け抜けて追撃として振り下ろされる陽剣の燃える一刀とすれ違う。

 『ルグゥ!』

 その背後で、穴の空いた連絡通路の壁……そして屋根が一刀両断されていた。

 

 「はっ!誰がアガートラーム頼りの雑魚だって?」

 「頼ってないのか、それは?」

 「てめぇだって武器頼みだろ、知ってんだぜ?」

 軽口を叩きあいながら摺り足で間合いを測る。が、猛然ダッシュの速度はおれにも匹敵していた。大分重いだろうガラティーンと短距離転移を合わせれば、今の機動力はおれを越えていると見て良い。

 

 「おいおい、抜くのかよ」

 それを把握し、抜刀して構えたおれを見て、銀白のヒーロー感の強い仮面(マスク)の下からユーゴの声が響く。フルフェイスの割には音質がクリアなのが違和感があるが、その分くぐもっていて魔法詠唱の種類が判別つかないなんて事は無さそうで安心だ。

 「抜刀術は一撃必殺、良く考えたらお前相手に使うものじゃ無かったようだ」

 言いつつ腰に鞘をマウント、突きを狙うように頭の横まで持ち上げ刃を天に峰を地に向けて構える。

 

 「こほっ、獅童君、それはノーマルスーツだよ」

 「スーツ?近未来は変わってるな」

 「違うっての。要はパイロット向けの防護服、最強のAGXを扱う際の環境に耐えるパワードスーツってこった!

 身の程、思い知った?」

 その言葉に、瓦礫に突っ込まされて咳き込んでいた桜理の肩が大きくびくりと震えた。

 

 その言い方は、おれを、そして桜理を苛めてきていたリーダーの口癖だったから。もう隠すつもりもないのか、それを告げて、仮面の下でおそらく彼は狂暴に笑うのだ。

 

 「成程な。確かにヒロイック過ぎるが、英雄たろうとしたアガートラームには似合いの姿だよ」

 良く良く考えれば、アルビオン時点でかなり可笑しい軌道描いて飛んでたものな、あれを巨大ロボでやるとなると、やはり生身では耐えきれないのだろう。

 「でも、それをわざわざ着て出てくるって余裕だな。破壊すればお前は生身で」

 「はっ!」

 その瞬間、背後から飛び込んでくる気配。が、おれは動かずに近くに控える騎士に任せた。

 「重いが、それだけか!」

 「ユーゴ様のようにはいかないか」

 

 そう、フルフェイスではないがほぼ同じものに身を包んだ騎士クリスの姿。こっちが最初から来ると思っていたが、やはり居たか。

 

 「お前さぁ、忘れたのかよ?我等円卓の救世主だぜ?

 確かによ我だけならそりゃ一着喪えば大事よ?でもよ、最近ティアちゃん外見で外面だけはめっちゃ可愛くなったリーダーが居て、他にもAGX持ちも居るんだぜ?そして拠点はユートピアの奴が使ってたっていう事象の地平線に潜航している潜界母艦ティル・ナ・ノーグ。

 流石にAGX量産はキツいってか縮退炉のシステムも精霊自体をコアに組み込まない安全性の高いレヴも造れねぇけどよ?このスーツくらいなら量産出来んだぜ?」

 

 ちっ、と毒づくおれ。もう少し楽にと思ったが、やはりというかユーゴに従うスペック面での利点って案外あるもんだな。スーツを支給して貰えるってなれば、それだけで嬉しいだろう。

 

 「で、配ったって訳か」

 「はっ?配ってやるかもとは言ったがよ、そんなもん本当に配ってやる必然性あるか?」

 「そう、選ばれし者だけが許される。そして、この身はユーゴ様に選ばれたのだ!」

 なんて自慢気に言う騎士クリス。ディオ団長が不意討ちの一撃を防げた辺り、アイアンゴーレムとかそのレベルで性能は止まってそうだが……まあ全長6mとかある巨大ゴーレム並の強さって上級職でもなきゃ太刀打ちしようもないんで十分強いな。

 

 「なぁユーゴ、お前こそ、此方に来ないか?」

 「抜かせ!我は好きに生きるんだよ、力を得たんだから」

 「……本当にそうか?」

 おれの知っている竜胆佑胡は、ユーゴ・シュヴァリエはそうじゃ無かったぞ?と唇の端を吊り上げる。

 

 「抜かしたいなら、まずはこの輝界装甲を超えてみろよ、超えられるんだろうが!てめぇの本気で!」

 巨大な剣がおれの顔面に向けて突きつけられる。

 「ヴィルから聞いてんだぜ?スカーレットゼノン・アルビオン。使ってこいよ、遊んでやる」

 「お前が切り札を切ったら、こっちが遊んでやるよ」

 が、変身はしない。きっと今発動すれば待っててくれるだろう。だが、今はまだ駄目だ。

 

 まだかよ、ユーゴ!とおれは内心で歯噛みする。

 

 「ったく、訳分からねぇなお前はよ!」

 「早坂の為にも、今度こそお前を止めてやるためだよ、竜胆」

 「……っ!」

 少しだけ突きつけてくる剣の切っ先がブレた。

 やはりというか、あいつなりに桜理に対しては思うところがあったのだろう。まあおれは勝手に自己死しただけだが、桜理はあの後も女みたいな奴として虐め続けた結果、親の事もあったが女扱いされる最大の原因であった整った童顔を焼いて入院したんだものな。

 

 だからだ、だから早く、お前の怯えを形にしろユーゴ。

 怖いだろう、怒られたいが怒られたくないだろう?だから、お前はきっと……

 

 「っと、ふーん?」

 と、ユーゴが不意に何処かから通信を受けたように剣を下ろす。

 その隙にとりあえず雷を撃っておくが、どうせ防がれるのは知っている。隙を晒してるようで、此方が切り札を切っていかねば特に隙にはならないバリアはまだ彼を護っている。

 

 「はっ、でだよ獅童君よぉ?

 お前、こいつを期待してたろ?ざーんねん、来ねぇよ」

 と、ユーゴは空中にモニターのようなものを投影した。そこに映っているのは、一つの巨大な影

 そう、鬣の機神LI-OHである。いや、支援機と思い切り合体しているからダイライオウだな。その巨体が、暗い筈が一部だけ空が割れその光を受けて輝く湖面に映っていた。

 

 「仕込んでたのはてめぇだけじゃねぇんだわ。

 トリトニスに再度魔神が襲来し、鋼の巨神が対処に向かった。これが、今さっき起こった事だ」

 仮面の下では顔は分からないが、恐らくにぃと笑っているだろう。

 

 「竪神は来ない。あそこでLI-OHを呼んだ以上、此処に駆け付ける手段はねぇ」

 「忘れたか?王都近郊からエルフの森に飛んだ事だってあるんだが?」

 「はっ!そんなもの、四天王カラドリウスありきの、向こうの策略だろ?

 今回はそんな奇跡は起こらねぇ。どれだけ頑張ろうが、そもそもエネルギー持たない筈だが……

 全力で今から飛んできたとして、辿り着くのは一刻半後。約四時間、間に合う筈がねぇ。

 

 竪神は来ない。アガートラームに唯一他に対抗できそうな切り札は、我が送った仲間が魔神の扉を開いたことで消えた!」


 ……そう、おれはそれを待っていた。

 

 ユーゴだって流石にLIO-HXでATLUSとやりあった頼勇とLI-OHだけは警戒する。だからこそ、引き剥がしに来ると知っていた。

 そして、遂に勝ったと思ったろう。だからこそ、もう変身して構わない。

 

 あの変身の今回最大の弱点は先祖返りを起こすこと。人の中の魔神だった頃の血が活性化する事で身体がヒトを完全に超えた人間型の魔神になる反面、この聖都で変身した瞬間に魔神警報に引っ掛かる。

 そしてユーゴは、魔神が聖都に現れた際ならば、帝国と聖教国の間の約定に反せずに帝国騎士団所属の頼勇が介入できると分かっているだろう。

 

 だから変身する訳にいかなかった。あいつが策を講じて警報の鐘を鳴らしたとしても頼勇が来ないと安心してくれるまで、手を貸してくれる魔神達もそしておれも警報に掛かるような動きは出来なかった。

 

 でもなぁユーゴ、少し後で教えてやるよ。アイリスの執念を。お前がアイリスと頼勇を舐めすぎだって事を、な!

 

 もう良い。あいつはもう、頼勇を警戒することを止めた。ならば十分!

 始水、下門、アルデ!皆おれに力を貸してくれ!アステールを、星の輝きをこの手に掴んで護るために!

 「……ああ。ならばやるしかないようだな!

 星刃!界放!」

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