表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

545/685

暁を待つ者、或いは火蓋

そうして、夜が明ける前。牢獄へと向かうおれの背後にはついてきてくれる騎士の姿があった。

 

 「すまない、ディオ団長。巻き込むことになる」

 「いえ。戦えて助かります。あの日我等は何も出来なかった。魔神に蹂躙される皆も、立ち向かった主の死も、変えられなかった。

 そして今、新しい主の苦境を変える一助にならなければ、その方が心苦しいのですから」

 「……そうだな」

 そう告げて、影から見守るシロノワールにも頷いて、おれは牢へと辿り着く。

 

 まず、ユーゴを引きずり出さなければ始まらない。そして、あまり民間人が巻き込まれない場を選ぶ。

 その二点を考えた結果が早朝、暁を迎える前。わざと桜理の入れられてる牢獄を破り、警報でユーゴを呼び出すというものだった。

 後は散々用意してきた策が全部嵌まれば……残りはおれが死力を尽くすだけだ!

 

 「桜理、迷惑をかける」

 「ううん。僕が頑張れば、君が勝てるんだよね?」

 「そう、巻き込まれても良いのです。貴方が勝つならば、危険はあれど死ぬわけではない」

 違いますか?と獣の耳を立て、尻尾で壁を叩きながら青年騎士は告げた。

 

 「だから頑張るよ、僕」

 「はい。いざという時に近くに居なければならない。それまでの護衛、それからの対処……この身に任されました」

 その言葉を信じて、おれは牢獄の格子に手を掛ける。そして一気に力を込めて引き抜いた。

 

 「作戦開始だ、走れ!」

 同時、ばちりとスパークが走る。警報音は恐らくユーゴの寝室に、そして騎士団の夜勤の詰所にも響き渡ったろう。

 

 だが!騎士団に対しておれが働きかけている事くらい向こうも把握済み。騎士団に任せるなんて手は取る筈がない。だからこそ……

 地下を駆け抜け、外へと飛び出し……

 

 「甘いぞユーゴ!」

 飛んできたレーザービームのような魔法を身を屈めて前転回避。そのまま現れていた豪奢すぎる寝巻きの青年の腹を蹴り飛ばす!

 

 超硬質なバリア……いや、重力の歪みによる実体の無い壁がそれを阻むが!とっくに御存知だ!あくまでもこれは挨拶!

 空中でくるっと回って着地。ローリングから蹴りに繋げて、立ち上がる隙を突けなくしただけだ。

 

 「よう、お早いお着きだな、ユーゴ」

 「はっ!随分と早くに仕掛けてきたなぁゼェノくん?」

 けっ!と笑うユーゴ。その狂暴な笑みは、確かに前世を知ってみれば笑いながら桜理を虐めていた彼女に同じだ。何処か性的興奮があったのか頬を染めながらカッターで制服を切っていた部下と違い、嘲るようにしながらも目はあまり笑っていないあの顔。

 

 「もう十分だ。終わらせてやるよユーゴ」

 「ほぉん?勝てるつもりかよこの阿呆」

 「勝つさ。勝ってお前の尻でも叩いて反省させてやる」

 男の尻を叩く趣味はない。女の子のもまた。だから嘘だが、屈辱的な言葉を選んで告げる。

 

 「言ってろ、よ!」

 叫びながら、寝巻きのままの金髪青年は持ち込んできた白銀の鞘の刀を抜き放った。

 オイ鞘を捨てるなアホユーゴ!と言いたいが、途中で鞘を拾えてしまうので好都合かこれ。月花迅雷としては間違いまくりだがな。

 

 「お前の武器はどうした?おれの刀なんて慣れないものを持ち込みやがって」

 「はっ!エクスカリバーはてめぇにパクられたし、ガラティーンを抜くまでもない!」

 あ、やはりあるんだなそういうの。

 

 「そもそも、てめぇの刀で止めを刺してやるよ。手だての無いてめぇにはうれしいだろ!?」

 澄んだ青い刃がおれを狙って大上段から振り下ろされる。隙だらけの一撃だが、防御手段が豊富にあるが故に間違ってはいない。

 が、それは……おれの手に何もその斥力フィールドを剥がす手がない時だけの話!

 

 「聴け!猛る鋼龍の咆哮を!」

 刹那、おれはアルビオンパーツ総てを右手に収束させ……

 カタール状に結晶刃を展開!片手持ちの刀の横っ腹を弾いて軌道を逸らす!そのまま拳を握って怒りを放出し、解き放つは死念の雷槍!

 「ブリューナクっ!」

 「うげっ!?」

 思わずといったように、青年が飛び上がる。そのまま重力カタパルトで射出されるようにかなり上空まで吹っ飛んでいき……

 「あっぶねぇ。そんな隠し玉を持ってたとか聞いてねぇわ」

 ひゅんとブラックホールに呑まれて戻ってくる。

 

 が、それで十分だ。飛んでいった露骨なまでの隙の最中に、おれはとっくに愛刀の鞘を拾っている。

 

 こんなことしなくても良い筈だが、わざとだ。自力で愛刀を取り戻そうと動くことで、愛刀召喚は不可能だという誤認を植え付ける。取り戻したとして刀を奪えば!という認識を持たせれやれば、必ず何処かで見誤る!

 だってそうだろう。ユーゴは圧倒的な力で、おれの罠に引っ掛かってから突破したがりだからな!

 

 「だがよ?我が生きてることに気がついてなかったとでも思ってんの?一回死んで御苦労様、徒労だな!」

 「徒労かどうか、一刻後のお前に牢獄で聞いてやるよ」

 薄暗い空に吐き捨て、残った右目で少しだけ空へ浮かぶ彼を見上げて告げる。寝巻きで飛んでるのが笑えてなら無いな。アガートラームの機能酷使され過ぎだ。

 怯えが見えるぞユーゴ。

 

 「やってみろよ、ステラに捨てられた忌み子がよぉ!」

 「やってみせてやるよ、竜胆ぉぉっ!」

 まずは第一段階、てめぇの手から、あの母狼の想いの詰まった愛刀を取り戻す!左手に鞘を握り締めて、おれは内心でそう叫んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ