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決戦前夜、或いは銀腕の虐めっ娘

そうして、決戦前夜。

 夜風に乗って空を見上げるおれに向けて、水を飲みに来ただけなのに!と不満げな炎髪の青年は、何処か嫌そうにおれを見詰めていた。

 

 「ってか、マジであいつと一戦やんのかよ」

 「ああ、本来の敵とな」

 なんて、おれが真に恐れている相手を煽らないようにことを選んでおれは告げる。ってか、サルース相手となると何を警戒して良いのか分からない。

 あいつが【笑顔(ハスィヤ)】ということはまず間違いないし、だからこそ最初からおれが迎えに行ったり何だり、散々に動きを止めてはきた。だが……何が奴の能力でとか全く不明だ。というか、笑顔(ハスィヤ)の力についてすらシュリは教えてくれなかった。

 あの辺り、やはりまだシュリとおれは敵同士だと思い知らされる。全部流して助けてと手を伸ばしてくれればそりゃもう何をおいても助けるが、そうではないってことはまだ敵だ。

 

 「ま、それは良いや」

 何処か投げ槍に、青年は告げる。

 「ってかよゼノ、ふざけてんのか?」

 「何がだ、エッケハルト」

 この一日半ほど、駆け回っていたのはおれとて同じこと。ふざける余裕など無い。というか、アガートラーム(AGX-ANC14B)や底知れない敵相手にそんなものあってたまるか。

 

 「なにがって、そもそも可笑しいだろ!相手がお前の因縁の相手ってどんな確率だよ!」

 その言葉には苦笑して、おれはバレないように夜風に当たる青年に向けて恭しく白く半透明なグラスを差し出した。

 「いや、そいつは当然だぞエッケハルト」

 

 というか、桜理にはもう言った結論だ。

 「ワケわからねぇんだけど!?あいつキレてたけどお前の知り合いなんだろ!?どんな確率か答えろよ!」

 「確率とか無関係だエッケハルト。昔言ったが、ゼノ(おれ)ティア(始水)の間にはゲームの最初から縁がある」

 「そんなん知って……ん?」

 「金星始水(かなほししすい)。知ってるよな?彼女は龍姫と同一人物だ」 

 「おい待て、イキなり俺の前世が意味不明なんだが!?あの世界の有名お嬢様=乙女ゲーに出てくる神って何それ」

 「両方嘘じゃない世界だから、互いに干渉できるって話らしいぞ。

 それはそれとして、お前は聞いてなかったかもしれないが、円卓の長……アヴァロン・ユートピアは始水に執着している。いや寧ろそれ以外にまともに興味を示さない」

 龍姫を諏訪健天雨甕星と呼び、それにしか意味がないとまで言ってのけていたからな。

 

 「それとお前の因縁の相手が多い偶然と」

 「偶然なものか。獅童和喜、竜胆佑胡、早坂桜理。全員あいつが意図して……別世界で何かやってる龍姫を煽るためにわざと選んで転生させやがっただけだ。

 まあ、頭数が足りてないからか無関係にランダムに選んだ奴も居そうだが」

 桜理に少し前に語ったことを言いつつ、おれは少しだけ頬を掻く。

 というか、本当によくもまあ基本ずっと味方だな桜理……やはりスゴいのではなかろうか。

 

 「つまり、おれ自体は関係ないが、おれの幼馴染である金星始水即ちおれを転生させて自分が幼馴染面していた龍姫に関連して、わざと選ばれているから妙に揃う。

 無関係な割には縁深いが、おれをターゲットには全く意識していなかったろう」

 なんて苦笑するおれ。下手したら残り二人の虐めっ子とか転生してそうだってくらいだ。


 いやどうだろう。リーダーの佑胡だけは桜理を虐め続けていたってのを当人から聞いたし、その件もあって……寧ろあれだ、おれへの反抗心とか色々あるから転生に乗り気だったろうが、他はな。

 ってか、おれに対して敵愾心が高かったの、多分だが原作ゲームからして性格同じなおれ=ゼノに向けておれ=獅童三千矢を重ねて執着していたのかもしれない。

 

 となると、アステール絡みの執着の奥底にあるのが彼女への性欲なりなんなりではなく『ゼノに好意を向けたことがある少女を己のものにする事でのゼノ否定』欲になりそうで頭が痛いんだが、それはもう直接殴りあって確かめるしかない。ってか、おれ自身彼女の好意はちょっと理解できないがそれはそれとして、本気で当人に向き合わない奴がどうこうってのは止める。もっと止めなきゃ行けない理由が出来たって話だ。

 いや、本気でユーゴがアステール大好きとかそんななら、止め方もまた変わるというかアピール間違えてんだよ!と頬をぶつ感じになるが、さっきの懸念が当たってると不味い。

 

 「お、おう。ってかまずさゼノ。てめぇティア絡みで疑ってたけど神と繋がりあんのかよ!なら勝手に神とあーだこーだしてろよ!アナちゃん達巻き込むな!」

 『私の聖女ですが?』

 と、聞いてるだけだった話題の中心様が一言。

 

 「エッケハルト。アナって龍姫の聖女だから巻き込むなって無理だ」

 「畜生このハーレム野郎!アナちゃんを解放しててめぇは龍姫とイチャついてろ!」

 胸ぐらを掴まれるおれ。振り払えるが、大人しく聖騎士団の制服の襟をネジ上げられるに任せる。

 

 「こんなことすら隠して、秘密主義で俺達を巻き込むなよ!ゲームの魔神絡みだけですら手一杯だし怖いんだよこちとら!」

 「すまない」

 「すまないですんだら要らねぇだろお前ら皇族!」

 「……ああ、そうかもしれないな」

 それを言えば、はぁと溜め息を吐かれる。

 

 「ゼノ、いい加減秘密主義は止めろ。頭が痛くて仕方ない」

 「分かってる。だからこの決戦前夜、お前と話をしに来た」

 「で、他は?ってか竜胆佑胡って名前に違和感あんだけど、ひょっとして女か?」

 「虐めっ子のリーダー格の女の子だったよ。女の子は三次元でも許すが男は二次元以外キモい、とか言っててオタク趣味があったから案外陰の者からワンチャン狙われてたりで陽のグループからは浮いてて輪に入りきれなかったからか、グレて桜理……ああオーウェンな?あいつの前世とか虐めてた。

 それをおれが止めて、暫くは標的にされてたかな」

 「前世女かよ!?もうやだこのハーレム王!」

 バシバシと背を叩かれる。

 

 「もう良いや、言った通りに人々に言付けだけしておいたからな!これ以上やらないしアイムールは転生者無関係だし押し付けられたジェネシックは手放したかんな!もうアナちゃんや俺に無茶振りすんなよ!

 ただでさえアガートラームとか二度と目にしたくない恐怖の塊なのに。相手が女とか勝手に攻略してろ!」

 

 そう誰もいない筈の部屋の隅に彼は吐き捨てた、筈だった。

 が……

 

 「ええ、酷い話です。では、参りましょうか我らが救世主」

 其処には忽然と仮面の男が居た。

 

 待て、サルースは……

 っ!もう寝てるか!無理には起こせないし、何なら桜理には言っちゃったが露骨に警戒しすぎるとバレるから他人には言ってないせいで、寝てる当人が魂だけ抜け出す事への対応が誰も出来ない。お陰で来てしまったわけか。

 

 バレてるのはサルース相手という扱いでディオ団長を交えておれは色々話してるが、それ以上の事を言ってなくて良かったってところだ。

 

 というか……と少しだけ怪訝そうな目をおれは青年に向けた。

 「いや、嫌だけど?」

 「つれないものですね。ユーゴは嫌だと言われ撃沈したものの、此方は勧誘を保留にされていた筈なのですが?

 こんな秘密主義、本当にまだ味方する価値はあるのでしょうか?我等が混合されし神秘(アルカナ・アルカヌム)の切り札(・アマルガム)、聖女諸共に貴方の事を歓迎するというのに」

 

 あ、案外平気そうだ。

 そんな事を考えながら、おれはユーゴより寧ろ警戒すべき仮面の男と対峙した。

 が、こいつを止められないと、そもそもユーゴ戦が始まらない。自在に介入されては戦える筈もなく、味方にするのはまず不可能。向こうから来てくれただけ、準備は足りないが好都合か!

 

 「言葉だな、笑顔(ハスィヤ)。そもそもその言い様だと、勇猛果敢(ヴィーラ)なおれとは何故か敵同士なのか?」

ちなみにですが、流石に言っておくとユーゴ君(竜胆佑胡)は一応前世女の子ではありますがヒロインでは無いです。

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