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呪い、或いは正体

「かふっ……!」

 愛刀が心臓を貫く。その瞬間の感触は殆ど無く、こんなに柔らかいものなのかとだけ思う。

 が、流石にそこから振り切るには骨が邪魔をして抵抗がある。肉体も生きようと力を込めて刃を留めようとする。

 

 そうして、吐き出された血を見えない左目に浴びながら、ただ、おれは立ち尽くす。

 

 「最期に、聞か……せろ……」

 途切れ途切れのしゃがれた声。

 おれの想いを代弁するかのように、死の間際の青年が叫びをあげる。

 

 「はぁん?しょーがねぇなぁ、冥土の土産が欲しいってなら、別に?」

 掌からブレードアンテナを携えた頭の横へと移動してアンテナを掴んで肩に腰掛けるユーゴ。巨大ロボとしてはまだ小柄寄り(20m無いくらい)だから腰から上でも頭位はあるのでそんな体勢になるようだ。

 

 「多少教えてやっよ、我は寛大だろ?満足して地獄へ行け」

 その言葉に、少しだけ思考を巡らせるおれ。

 

 ユーゴが答えてくれるなら、と思ったが、そもそもこれはおれへの言葉じゃないと思考を振り切る。これをおれが問い掛けたら台無しで……

 

 『聞くべき、ことは』

 不意に、そんな声が聞こえた気がした。

 

 どうして、お前はこんなことをしている、と聞きたい。そうおれは己の思考を脳内で、始水に告げるように語る。

 聞こえた声は間違いなく彼女のものではないが、それでも。

 

 「ユーゴ!お前は……っ、ごふっ!

 どうしてこんなこと、をする。魔神族と戦おうとすらせず……っ」

 一度咳き込みながら、おれに心臓を貫かれたアルデが聞きたかったことを叫ぶ。

 

 ……さっきの声、ひょっとして。

 『……ボク』

 っ!?アルヴィナ!?

 『ボクの呪い。死に貧した相手の声が聞こえる呪い。【断末魔の残響】。

 本当は、死に貧した相手の苦しみと嘆きで精神を責める魔法だから、皇子にも効く』

 なんて、呪いに組み込んでおいたのか原理の解説すらしてくれるアルヴィナボイス。というか、出発前におれの耳を甘噛みしながらしゃぶってきたのはその呪いの為だったのか。

 

 ……違う気がする。多分呪いの為にかこつけた趣味だ。呪うだけならもっと手軽な筈。

 

 だが、助かったよアルヴィナ。お陰でアルデと少しだけ、バレずに言葉(おもい)を交わせる。

 

 そんな風に魔神娘に小さく聞こえないだろう礼を告げて、おれはアルデと共に天を、聳え立つ白銀の腕を持つ機械神を見上げた。

 

 「皇子さまっ!」

 「眼を逸らすなよ、偽聖女が。貴様が招いた、紛い物の結末だ」

 良い気味だ、と嘲るように、寂しそうに嗤うユーゴ。

 「逸らしません。あの人の苦しみを、少しでもわたしも分かって一緒に持ってあげたいですから」

 それに対して、信徒の人々にぐるりと取り囲まれた少女は、胸元に両手を合わせながら力強い視線を返す。

 

 「まあ、好きにしろや。シャーフヴォルの野郎のモンとか興味ねぇからよ」

 けっ、と何処か寂寥を感じさせる虚ろな嘲りを消し去って青年は吼えた。

 「んで、何でだって?

 寧ろどうして、わざわざ戦ってやる必要があんだ?アガートラームさえあれば、あんなもん雑魚の集団だろ。魔神王だろうが銀腕の前には唯の」

 っ!落ち着けシロノワール!

 影から怒りを顕に翼を出そうとする魔神王の魂をアルデの体を影にして隠して足で押し込む。不満げに足首を嘴が貫くが無視だ。

 

 「生け贄に過ぎねぇっての」

 「ならば!何故だ!」

 「だからよ?何言ってんだよてめぇ?まるで、魔神族に勝てる力があるから戦えってご立派な事をほざいてるように聞こえるが……んなことねぇよな?」

 「残念だが、その通りだ」

 おれが意志を伝えるまでもなくアルデが思ったのと同じ言葉を吼える。

 

 「ああ?てめぇ馬鹿か?何でそんな事をしてやらなきゃいけねぇんだよ?」

 「それが……それが、力を持つという」

 「だったらよ!てめぇは何でそこに居る。どうして二度も僕に殺されてんだよ、獅童がよぉっ!」

 

 ……その叫びに、漸く彼を理解した。そうか、ユーゴ……お前は。

 あの日、獅童三千矢を閉じ込めた少年達グループの一人だったのか。いや、だから何だというのだ。

 

 「……それとこれとが、関係、あるか!」

 おれのそんな意識を受けて、アルデが吼え……喉から血が飛沫いた。愛刀は突き刺したまま、まだ心臓部が潰れていても出血だけは防いでいるが……吐血は止められない。

 

 「ああっ!?分かんねぇのかよ!見捨てられて殺されておいてよぉ!」

 「何が、言いたい……」

 「だからよ!分かってんだろうがてめぇ!

 ゴールドスターだなんだ、力を持ってる奴らは居る。そして持ってる奴等だけで楽しくやってんだよ!僕等が日々の生活にも苦しんで、てめぇに八つ当たりしてたりした間にも!有り余る金で好き勝手してたんだろうが!」

 ……は?

 

 何を言われているかが理解できない。

 「さらっと殺されてよ、てめぇは何にも護られてない。楽しみも金も何もかも!持ってる奴等が下々なんて省みずに好き勝手やってるだけだ!

 転生して分かったろてめぇだって!」

 その何時もの傲慢さをかなぐり捨てた悲痛な叫びに、ようやっと言いたいことを理解する。

 

 ああ、こいつ……おれが始水に見捨てられたとか思ってるな?だからこうもズレる。

 

 『……ズレ?』

 ああ、始水は……龍姫様は今もおれを、おれ達を見守って手助けしてくれている。

 あ、でもアルデ、それは言うなよ?

 

 「だからだ。転生してこの力を得たんだ。持つ者になったんだから好き勝手して、何が悪い!」

 「……本当にそうか?」

 おれの意志を汲んだアルデは、最期に、たった一言そう告げた。

 

 「っ!うっせぇよ!殺れアルデ!とっとと殺せ!」

 タイムオーバーか。が、アルデは散々色々とやってくれた。ユーゴの真実とか本音を引き出して、幾ら銀の腕のカミを持っていてもという不信も何もかもを人々に植え付けてくれた。

 

 その瞬間の……肉体の抵抗が消えてすっと刃が肉を両断する刹那の無いに等しい感覚を、おれは二度と忘れないだろう。いや、忘れるものか。

 

 言いたいことはあるか、アルデ。

 内心でアルヴィナの用意してくれた呪いで問い掛ける。

 『……出来ることならば、もう一度幸せそうに笑うあの方を、見たかった。

 頼む、皇子……アステール様を……』

 閃く刃、斜め上へと振り上げたそれを、これ以上苦しまぬよう傷口を辿るように袈裟懸けに斬り下ろす。

 

 おれの近くでそれを見守るのは、何も言わずに見守っていた、狐娘。

 そんなおれ達に向けて、何処までも優しく微笑んで。おれに化けた騎士の上体は台へと転がり、二度と起き上がることは無かった。

 同時、肩に隠してあるアルビオンパーツに小さな重さが加わる。その重量は21グラムほどだが……おれにはその何倍も重く感じた。

 

 「ちっ……帰るぞ、ステラ!

 ユーリ、後片付けしておけ。ちゃんと月花迅雷を回収してろよ!」

 それだけ告げて、銀の腕の巨神は重力球に呑まれて乗り手ごと姿を消す。

 

 「……儂、やはり嫌われておるの」

 一人だけ空中に取り残されたシュリが憮然と呟くのが、何故か耳に残りながら……友を斬った愛刀を鞘に収め、おれはその体を受け止めた。

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