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騎士、或いは行動指針

良く良く天井を見れば確かに鍵穴がある。恐らくは入り口と同じ鍵だろう、飛び上がって同じ鍵で錠を開けてやれば、暫くして素直に白い騎士が姿を見せた。兜までしっかり被っていて完璧だな。

 

 「此処へ向かう道こそ教えて貰ってはいたものの、アステール様からはおーじさま以外を寝室に入れたら浮気だよねぇとずっと」

 「んまあ、それは分かる」

 うんうんと頷くおれ。割とその辺りの貞操しっかりしてそうだよな、アステール。いやおれは良いのか……良いんだろうなぁ……してもいない既成事実を言い出すだけで。

 

 「でだ、大半おれ達について、知られては不味い湖とを明かしてみた訳だが、お前はどうする、ディオ団長?いや、白上星?」

 「此処で死ぬか?」

 と、姿を見せるシロノワール。グングニルまでさらっと構えて実にノリノリだ。まあ、実体はないが。

 「その答えは決まっていますよ、我らが明星。全ては我等を掬い上げ身を案じてくださったアステール様の為に。あの方が最後まで信じ続け、希望を託した貴方を、我等が信じずしてどうします?」

 兜の下でも分かる曇り無き瞳でそう告げられて思わず眼をしばたかせる。

 

 うん、アステールにもそこまで思ってくれる味方が出来てたんだな……とほっこりもするが、それよりも何というか、覚悟決まってるなこいつらって印象が先に出る。

 

 「というか、明星って何だ明星って」

 ルシファーか何かかおれは?

 と思ったがそこで思い出す。確か前世で始水が言ってたが、甕星とは確か金星(きんせい)だ。そして金星始水(かなほししすい)=龍姫の本名は天雨甕星(あめのみかぼし)、金星に由来する名で……明けの明星(ルシフェル)とかも同じく金星を大体意味する言葉が元だ。ってことは、おれと始水の関係が深いことを前提として、アステールがおれをその縁から明星扱いしていてそれが伝播したのか。

 いや分かりにくいぞアステール!?というかおれは太陽じゃなくて金星なのか!?と言いたくなるが、そもそも太陽みたいな存在になれてる気もしないので置いておく。

 

 「そうか、裏切った時は」

 「あの方を裏切るくらいならば、この命は貞蔵様達に護られること無く散っていた方が良かった」

 「そ、そうか……」

 いや、覚悟決まりすぎてないか?躊躇無く命を懸けてくれそうというか、何というか……こんな相手まで居てもおーじさまはおれなのかアステール!?

 

 何だろう、脳内で総ツッコミを受けた気がする。そう、『儂に対して、大概似たような態度じゃったよ?』とかそんな感じで……

 良く良く考えれば後先考えず始水と契約していたっぽいし、後先気にせずシュリの眷属化したし、命を簡単に懸けてるのおれもか?まあ、どれだけ冷静になって考え直そうがあの時の選択が間違っていたとは一切思わないが。

 

 「ならば、共に」

 「ええ、アステール様の皇子殿下」

 「いやその長ったらしい呼び方は止めてくれ。ゼノで良いディオ団長。

 これまでもこれからも、おれたちはこの国を、アステール達を救うために、護るために肩を並べる仲間だろ?」

 そんなおれの問いに、兜を取って獣の耳をさらけ出した青年騎士は強く同意の笑みを浮かべて膝を折った。

 「イエス、カイザー」

 「いやまておれ皇帝じゃないし多分継承する事無いぞ?」

 「失礼、何と返すか悩んで……」

 「ははっ、よく考えたら騎士の礼とか一切されたこと無いからおれもどう言えば良いのか良く分からないな」

 「その時はこう告げよ。イエス、我が先導者(マイヴァンガード)とな」

 「イエス、マイヴァンガード」

 「いやディオ団長、言わなくて良い言わなくて良い。シロノワールの冗談だから」

 影から顔だけ出した八咫烏の冗談におれはぱたぱたと手を振って律儀に従う青年騎士を止める。

 

 「というか、烏の翼の彼は一体?」

 「共通の敵たる真性異言(ゼノグラシア)、所謂異世界転生者を世界から追い払う為に一時的に手を組んでいる……」

 「魔神王、シロノワール・ブランシュだ。この名を聞いた時点で貴様は我が黒翼に呪われた。私の名を(みだ)りに語り洩らす事あれば死の裁きが魂を引き裂き闇へ誘うだろう。心して生きよ」

 と、影から人姿の全身を出して翼を拡げ威圧するシロノワールだが……いやそんな魔法かけてなくないか?単なる嘘の脅しだなこれ。ついでにテネーブルを名乗っていない、これで割と他に聞いてた奴が居たとして転生者か判別が付くって話だろう。普通は聖女伝説にある魔神王アートルムしか知らない。だからシロノワールが魔神王ならば=テネーブルとなるのは転生者だ。

 

 「ま、魔神王……」

 「この世界は、スノウが欲した太陽は我等が手に。転生者共になど渡すものか。こやつらとの決着は、蹂躙はその後だ」

 「……ヴァンガード、どう返せば」

 「だからその呼び方は止めてくれ。ゼノで良い。あと、シロノワールはまあ今は味方だからとりあえず変に敵視しなければ良い」

 

 一息置いて、おれはこの地ではおれより馴染んでいる亜人騎士へと切り出す。

 「さて、これからどうするかだが」

 「ゼノ皇子殿下。その点は此方が」

 「いや何が出来る?」

 「とりあえず、とある他人のフリをすれば自由行動は確保できるかと」

 その言葉に思わず眼を見開く。

 

 「いや待てどうやって」

 「少し前から、アステール様の為に来ると信じていました。ですので、貴方が来た時に相応の行動が取れるように、貴方の立場を用意しています。下位の騎士であるがゆえに、少し無礼をお許し戴きたいのですが」

 「待て、本当に待て!おれの為に誰かそれっぽい新米を演じていたとして、その当人は」

 「貴方のフリをしてかのユーゴに処刑されます」

 「止めろ!そんなことを」

 「彼自身、残り少ない命。耳を案じてくださった貴方の為に使うことに異論は無いそうです」

 その言葉で誰がその役か理解する。前に聖教国に来た時に轢かれかけていた彼だろう。成長したおれのフリは……厳しいがまあ体格としてはそこまで可笑しくはないのか?

 

 「馬鹿野郎、そんなに自分を捨てて……っ」

 が、止められない。この場に居ない時点で、最早おれが止められる状況じゃない。

 だからせめて、あの彼の想いを背負う。それくらいしか、おれには出来ないから。

 

 「……ゼノ殿下、これから」

 問われる言葉に少しの間眼を閉じる。今何をすべきだ?おれの代わりに処刑されに行く彼を救うことか?それとも違うのか?

 すぐに答えは出た。

 

 「ディオ団長。とりあえず、今この聖都に来ているというエルフ、サルースさんと合流する。おれが見て保護していないとどうなるか分からないから」

 特に今はシュリと行動しているようだからな、シュリがどうなるか不安だ。

 「イエス、マイヴァンガード。直ぐにエルフの場所に案内しますので、入れ替わる騎士の服を着ながらお待ちください」

 「いやだからその呼び方は止めろって!?」

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