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問い掛け、或いは遺書

「……これは」

 声と共にぽん!と姿を見せたのは半透明のふわふわした小動物。でっかい頭をした、大体2頭身のデフォルメ狐だ。

 ちゃんと左右の目の色がアステールと同じだし、彼女が用意した魔法プログラムなのだろう。

 

 『これはステラのかくしごとー。乙女のひみつを覗こうとするなんて、悪い人だよねぇ……

 おーじさまなら責任取って貰うけどー、絶対におーじさまじゃないしー』

 こてん、と首をかしげる狐。その周囲にふよふよと狐火が幾つか浮かぶ。

 

 『爆発までーあとー』

 っ!何かあったら爆発して中身を隠滅できるようにしていたか!それだけ大事なものが入っているという話になる。

 

 と、身構えるおれの前で、狐は楽しげに短いし間に関節もないぬいぐるみな足で器用にステップを踏んで尻尾を振った。

 

 「踊りか?何を」

 『でも、有り得ないはずだけどもしも万が一おーじさまだったら困るよねぇ……

 だから、質問にこたえてねー?おーじさまなら、ステラが言って欲しい言葉がわかるはずだよねー?』

 楽しげな声に懐かしさを感じて手を握る。そうだ、本来のアステールって、こんな感じで……

 

 『ふっふふー、とっても簡単、これを間違えたらおーじさま失格ものだよー。

 貴方は誰かなー?ステラのおーじさまかな?』

 耳をぴこっと動かして、半透明の狐がそう問い掛けてくる。

 「おれはゼノ」

 『おやおやー?本当に、それは貴方のおなまえかなー?』

 恐らくだがあらかじめアステールがこの名を聞いたらと反応を設定していたのだろう。つまり、ここまでは相手の想定内。アステール的にも、ゼノまでは誰でも答えられるって分かってやってる。

 ならば、後答えるべきは、多分他人からは言えないおれを示す名前。が、スカーレットゼノンとか名乗るわけにもいかないし。

 

 と、ほんの少しの間悩むが、実は簡単に答えは出る。そう、彼女は最初に出会った時からその名を知っていた。即ち、

 「ああ、そうだよアステール。おれはゼノで、獅童三千矢(しどうみちや)だ」

 前世のおれ、手をがむしゃらに伸ばして届かせられなかった頃の自分。求められるのはその名だろう。

 

 『おやおやー?倭克の人かなー?ステラ、倭克出身で親しいのはせーやんしかいないよー?』

 その言葉に思わず間違えたか?と手を震わせるが、止めておく。

 というか多分これ、アステールなりの手助けのつもりだ。せーやんというのは恐らく(せい)、つまりあのケモミミ騎士ディオの本名だ。彼を信じろとアステールも言っているのだろう。

 

 『ほんとーにおーじさまなのかなー?疑わしいよねー?

 貴方はどういう人なのかな?』

 来た。これが本当の質問なのだろう。

 

 間違えたら爆発だ。考えろ、おれ。目の前でふよふよしている狐を見ながら頭を巡らせる。

 アステールは何を聞きたがっている?何と答えて欲しい?おれなら分かるって……逆に言えば、おれ以外の例えばユーゴならおれのふりをしていても絶対に答えられない何かって、何がある?

 

 というか、おれは何だ?何者だ?

 そう考えた瞬間、脳裏に閃くのはひとつの自称。が、これは口に出した事なんて……

 いや、そうじゃない。口にしたことがなくとも、考えていた以上アステールに伝わるはずだ。だってその思考は全て、アステールの為に幼い頃から話しかけていたろう龍姫が読んでいたのだから!

 「アステール、おれは君に手を差し伸べるのが遅すぎた大馬鹿で、至らないところばかりで……

 それでも、多くの人から託された想いをさ、無駄にしたくなくて。嘆きの結晶の刀に、未来へ繋ぎたかった彼等の想いを共に乗せて足掻き続ける……『蒼き雷刃の真性異言(ゼノグラシア)』だよ。だから、君にもう一度手を伸ばす」

 『おおー』

 

 ぱちぱちと目を輝かせた狐が短い手をギリギリのところで何とか打ち合わせて拍手する。

 『一言一句間違えずに当てる自信あったんだけどなー。結構違うねー。

 おーじさま、何て言ってるのかなー?決まった単語に返せるようにしただけだから分かんないやー』

 気楽そうな声が響き、狐の姿がブレる。

 『聞きたかったなぁ……』

 「何時か聞かせてあげるよ、直接」

 が、その言葉には何のトリガーワードも含まれていないからか反応を引き出すことは出来ず。狐は完全に姿を消した。

 そうして残されるのは、二重底が完全に開いた箱のみ。中身を取り出せば、これもまた折り畳まれた紙であった。

 紙?と思って取り出してみる。白く非常に上質なものだが、一部だけ水に濡れたようにたわんでいるな。

 

 そうして裏……いや表返せば、とても簡潔な文字列が飛び込んできた。即ち、『遺書』だ。

 

 漸く理解する。何故おれがこれを見付けられたのか、それは魔法で隠されていたからだ。だからアステールはあれだけおれには見付けられるわけがないと強弁していた。

 おれに対して遺されたアステールの遺書。それを見たおれが何を思うか考えて、『おれの為に』、特におれに見付からない優しい魔法を掛けてあった。

 

 だからこそ、見付けられた。おれの身の呪いが、おれの心を護るための隠蔽をおれの心を蝕む為に無効化したのだ。

 いや完全に呪いを逆手に取られてんぞオイとなるが、そうしておれにしか見付けられないだろう二重底が完成して、此処に遺書がある。

 少しの苦々しさと感心を胸に、おれは遺書と書かれた手紙を開いた。

 

 『おーじさま、おーじさまがこの遺書を読んでいるって事は、ステラのために来てくれたんだねぇ……本当にありがとねー?

 でも、だとしたら多分ステラはもう、ユーゴ様のこふぃん?の中に居て、ほんとーにどーしようもなく敵になっちゃってるのかなー?おーじさまの事、忘れちゃってるのかなー?』

 そんな出だしから始まるのは、割と長いアステールの想いの発露。今や記憶が燃えて何処にも居ない、少女の最期の想いの丈。

 それを黙々と、奥歯を噛み締めておれは読み進めた。

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