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移動、或いは予想外の参戦

「よし、行くか!」

 気合いを入れ、タイミングを見計らって窓から飛び出す。

 そしてバレるように、わざと壁面を滑り降りながら下の階の窓を蹴破って外部へと跳躍、くるっと空中で前転して着地。ぱらぱらと虫素材の窓の破片が降り注ぎ、一瞬誤魔化せるだろう。

 

 その実外から蹴ったからガラス……じゃないが窓の破片が室内に多く落ちてしまっていて割って飛び出したって誤魔化しは難しいだろうが……

 

 どたばたと走る影が廊下に見える。

 「外から部屋に飛び込んで……む、音でバレたと知って外に逃げ帰ったかの?」

 そのまま反対の背の低い建物の屋根の返し?の部分に飛び上がると両手両足を引っ掛けてたまに降る雪が屋根からずり落ちた際に窓や扉を塞がないようにと作られたその出っ張ったスペースに身を潜める。

 そうして少し見ていれば、わざとらしく大きめの声でシュリがそんな事を言っているのが聞こえてきた。

 ……あれだな、いい加減建物中に入るために蹴破ったが外に逃げたとして、おれが更に上の貴賓室に居た事を誤魔化そうとした意図に乗ってくれてるのだろう。

 

 「……すまぬの、わざわざエルフの森から出てきて、即座にこんな騒動じゃ」 

 その言葉にぴくりと肩を跳ねさせてより耳を澄ます。

 エルフ、か。此処で言葉を返す相手はおれの考えでは二択だ。

 一人は勿論の琴だがノア姫。ああ言って自分の懸念を晴らす為に別行動したが、結局心配で来てくれたパターン。これなら安心できる。プライドの塊みたいなノア姫だが、流石にエルフの纏め役を名乗ってるだけあっておれみたいな不敬な態度は取らないだろう。相応に穏便に立ち回ってくれる筈だ。

 

 そして、もうひとつの可能性が……

 「……此方こそ申し訳ないと思うよ。エルフといっても咎、女神に寵愛された本来のエルフからはつまはじきにされる鼻摘み者。だからこうして、気楽に手助けしに来れるという話でもあるのだがね」

 ……そう、か。とおれは内心で呟く。

 

 そう、彼が来てる可能性はほんの少し考えていた。サルース・ミュルクヴィズ、おれの父の友人にしてノア姫やウィズや会ったことは確か無いリリーナ・ミュルクヴィズの兄。雪のような白い肌が多いエルフの中では珍しい、女神様からの加護を喪った証とされる濃いめの褐色の肌。転生者なら人によってはダークエルフだ!と逆に興奮しそうな、優しげな雰囲気のエルフの青年……いや男性だ。

 

 「それに、貴女はこの教会の者では無いのでしょう?明らかに纏う衣が異質だ」

 「最近献上された儂の宝物じゃよ。儂自身は確かにそう深くこの世界の神に仕えておる訳ではないが、神々の使徒はのんびりさんじゃからの。代わりもせねばならぬという訳じゃ」

 困ったものじゃな、教王殿はとシュリが茶化すのが聞こえるが、それは割とどうでも良い。気になるのは、サルースさんの動向だ。変なことやらかさないと良いんだが……

 

 「ま、儂自身割と慣れておるからの。どうにも儂でない儂はがさつで考え無し、計画を立てるのが苦手じゃし……」

 「おや、複数人居るのかい?」

 「ま、姉妹の絆という奴じゃよ。そんなことは良かろ?

 少し乱入騒ぎ等も起きておって大変な時期じゃ、聖教国としてもあまりお主に人手を回せぬ、勘弁してはくれんかの?」

 「妹なら文句を沢山言ったろうけどね。残念ながらエルフとはいえ咎、そこまで言わないさ」

 

 うーん、ノア姫は寧ろこの場合文句一つ言わなくないか?

 ノア姫、無礼だと分かってる相手に無礼な扱いをされても「礼儀を求めてあげる価値もないわ」とか言いそうな気がする。おれに対して散々色々言ってくるのは、期待を込めて「貴方なら直せるでしょう?」と教えてくれてるのだから。

 関係性の差か、見方が違うな……いや会ったことがない方の妹、リリーナの事かもしれないけどさ。

 

 なんて思いながら、身を潜める。スペースはあるが、あまり人が入る事を想定していないからそうそうバレはしないだろう。だが、何よりの不安はサルースさんだ。

 

 「ああ、気にしなくて良いよ。気になってるかもしれないけれど、友人と妹が頑張っているのになにもしない気はなくて、それで駆けつけただけだから。

 勿論、世界を守るために、七大天を信仰する者達に手を貸しに来たって事」

 何というか玉虫色な言葉が耳に届く。聞く人が聞けばおれ達を手助けに来たと聞こえるだろう。それ以外にとっては聖教国……つまりは今はユーゴの味方、みたいに聞こえるはずだ。

 少なくともシュリの味方ではないって台詞にはなるが、そもそもシュリ側も世界を滅ぼすゼロオメガであると隠してるからな、怒ることもないだろう。

 

 と、ばたばたとした幾つもの足音が聞こえてくる。流石に窓際で話してたらシュリ達以外も来るのだろう。

 

 「……奴は!崩壊をもたらす悪夢は!」

 ……と、何だか聞き覚えがある声が響いてきた。誰だったか……

 「む、お主は……クリスと言ったかの?」

 そんなやりとりを聴きながら、おれはもう潮時かと少しずつ移動を重ねていく。屋根の出っ張りは建物をほぼ一周している。隠れたまま……直角に曲がるのは無理でも端までは行ける。

 

 というか、クリスか。確かユーゴに付き従っていた帝国騎士だっけ?今はもう元だけど、やっぱりあの人もユーゴに付いて行ったのか。

 というか、この時点である程度勢力図が分かる。

 

 一つ、アステール達を想いユーゴに対してはあまり従いたくない派。これは白上星(ディオ)達だろう。恐らくだが、兄もこの派閥の為に命を懸けた筈だ。

 二つ、竜騎士団等の嫌々だが従うしかない派。消極的だが彼等は味方をしてくれないだろう。ユーゴ達のために全力って訳もないと思うから、そこはおれ達があまり彼等が動かないといけない事態を起こさないように頑張ろう。

 そして三つ目。あの騎士クリスやメイドのユーリ達、心からのユーゴ派。完全な敵だ。

 ついでに一応第四勢力としてシュリが居るんだが、今回は完全におれ達側だと信じよう。こっそり誰か幹部を連れてきていたりしたらその限りではないが……

 

 「あやつか?向こうに逃げてしまったよ。

 ま、実はこの辺りにあやつの仲間が居るのでな、合流されなかっただけ、有り難い事じゃが。まっこと、逃げ足は立派よな」

 と、そんなシュリの言葉に合わせて端から飛び出して着地。そのまま地を駆ける

 ちょうどシュリは反対方向を指差してくれていたようで、見つかることなく隠れ場を去ることが出来た。

 

 そうして少し。おれは簡素な扉の前に立っていた。いや、正確にはその部屋の前の天井にぶら下がる豪勢なシャンデリアの上に張り付いていた。

 

 うん、シャンデリアは光魔法で照らしてるのではなく魔力を通して輝かせるタイプで天井裏に魔力配線を通すために隙間があって助かった。シャンデリア関連で天井に元々外してたろう隙間もあったしな、簡単に動けた。

 後は……と隙をみて飛び降り、鍵を差し込む。

 アステールの部屋は知ってた。訪ねてきてもいいよーとわざわざ地図と鍵と貰ったからな。あの時は返してしまったが、今思えば回収しておけば……その分アナ達が不安か、一長一短、今の現状が実は最優かもな?

 

 くるりと鍵を回せば軽く魔力が走るが、獣人やおれみたいに素で魔力を扱えない人間の魔力に合わせて鍵の形状は変わらない。アステールが持った時と同じくスルッと鍵は動き、錠が外れる。

 

 そのままおれは薄暗い少女の部屋へと潜り込んで、鍵を中からかけて一息吐いた。

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