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牢獄、或いは偵察

ディオと名乗る彼に連れられて牢へと向かう。

 

 「申し訳ないが、服は……」

 「分かってる。ユーゴが怖いから脱げってんだろ?」

 と、何時もの服を脱いで、渡されたみすぼらしい囚人服へ袖を通そうとする。その際に見ていた彼が、肩を見て少しだけ怪訝そうな顔をした。

 

 「ん、それは……」

 「いやな、ああ凄んではみたが別に噛み付かれなかった訳じゃなくてな」

 と、これ見よがしに肩を見せるおれ。其処には歯形のように残った生傷が見える筈だ。

 

 勿論飛竜に噛まれたのではない。そもそも噛み付かれても傷一つ付かない。単純にアルビオンパーツを脱いだ時に隠せるの場所がもう傷の下しか無かったのだ。

 だからこそ、歯形のように歪んだ楕円を描いてパーツを抉りこませ、体内に隠した。幾らなんでもこの言い訳だと四刻(半日)は前に付いた筈の傷、些か新しすぎるのは確かだが……

 「構えた時にまた開いた。あのまま戦うのは正直困ってたんだよ」

 おどけて左手だけぱたぱたと振って見せる。その揺れでつぅと血が右肩から垂れた。

 

 「やれやれ、生傷は見せなくて大丈夫ですよ」

 「そういうものなのか」

 言いつつしっかりと粗末な服に袖を通して……何か妙にごわつく感触に眉を潜めた。

 

 「教王曰く、あいつは月花迅雷取り上げて服をこいつにすれば雑魚、とのことで」

 「何なんだそれは」

 と、思わず半眼で突っ込むおれ。

 「何でもその服は発火性の高いもの、月花迅雷無しで唯一恐ろしいチートを使ってきた瞬間火だるまだ、と」

 その言葉にああなるほどとおれは自身の着る灰色の服を見下ろした。つまりこれ、轟火の剣召喚したら纏う焔で焼け死ぬように超燃えやすくなってるって訳か。多分このねちゃっとした乾いていない感覚、油でも染み込ませて火傷しやすくしてるんだろうなぁ……

 普段の服が耐火性が高い分落差は大きそうだが……

 

 「ディオ団長、それおれに言わなければ良かったのでは?」

 「どうせ逃げられやしないが一応、と」

 言われ、自身が通された牢の格子を見るとやはりというか魔法による冷気と電流が流れる仕組みになっていた。確かに逃げられないだろう。

 

 昔のおれならば、だが。

 

 甘いなユーゴ、ぶっちゃけアルビオンガントレット使えば右手だけ結晶の籠手で魔法を受け付ける前に引きちぎれるぞその格子?

 まあ、そんな事を牢に閉じ込めようとしてる当人の前で言うわけがないが。

 

 「……教王という新設の位の方の言うことの真意は、我等には分かりかねますので」

 何処か失望したような声音が兜の下から響き渡る。これはおれへのそれか、それとも……

 「鍵は掛けさせて戴きます。裁きは……暫しの後。三日ほどそこでお過ごしを」

 「ま、魔法に弱いおれに出る手立て無いからな、バレた以上は大人しくしておくよ」

 それは流石に嘘だが、いけしゃあしゃあと素知らぬ顔でおれは告げる。こういう腹芸はそこそこ上手いのだ、感情丸出しじゃ相手を煽って怒りを出させられないから、どれだけ勝ち目が薄いと内心思ってても余裕の顔が出来るように、散々特訓してきた。

 ってロクな特訓じゃないなこれ。舐められ過ぎたら貴族社会でも負けだがこれは無い。まあ、そもそも忌み子の時点で最初から舐めきられてるんであまり政治では意味がなかったんだけどな、余裕ぶった顔を崩さない特技なんて。

 

 「ではこれで。監視はおりませんが、魔法で万一外に出ればバレると理解して無駄なことをせぬようお願いしますよ、皇子殿下。直すのにも金がかかる」

 ……さてはこいつ、味方だな?

 外に出ればセンサーがある。これを教えたってことは……とおれはきょろきょろと周囲を見る。が、滅茶苦茶暗い。地下牢で、明かりはほぼ無い

 ……ならばこそ、恐らくは天井というか上方に対しては無理矢理地上まで移動できればセンサーに引っ掛からないのだろう。

 

 「……ああ、大人しくしてるよ」

 明かりの無い牢の中、灯りを持って去っていく彼を見送り、おれはそう呟いた。

 にしても、本名って何なんだろうな?

 

 『白上星(しらかみせい)ですよ兄さん?』

 と、耳に響く幼馴染の声

 成程、白上星か。ならば倭克の出……ってちょっと待て。

 

 始水、ひょっとして最初から知ってたのか?

 『ええ、知ってましたよ兄さん。そもそもディオという名前、私が少し冗談めかしてあの子に提案したらそのまま神様がくれたお名前だよーって採用を決定してしまったものですから』

 いや、ならば……と抗議しかけて思い直す。

 

 ……有り難うな始水。

 静かな沈黙が心の中に漂う。

 

 そう、知ってて言わなかった理由は簡単だろう。最初のタイミングで言っていたら、倭克の出だから反応したんだろうとおれはそこで思考停止していたかもしれない。

 倭克出身な事とユーゴ達の側についている事は何ら矛盾はないのに、味方だと思い込みかねなかった。だからこそ、始水はおれが結論を出すまでは黙っていたのだろう。

 

 『ええ、私が知ってるのは彼の名前まで。彼が何のために動くのかは分かりませんから不確定な情報を与えたくなかったんですよ』

 その言葉におれは小さく頷いて、周囲を見回した。

 

 うん、見えない!いや夜眼は効く方なんだが、ろくに物がないから壁しか見えない。

 この牢獄、牢と呼んで良いのか?牢って本来は罪人を長期収容する場所の筈なんだが、床に直に転がって寝るしかないとかもうこれ長居させること考えてないだろ。

 

 というか、本当に何もないな……水とか食事とかも一切無い。

 さてどうするか……と思いつつ、とりあえずひょいと軽く飛びあがって天井を叩いてみる。

 重い音が返ってくるが、これは特に抜け穴とか無いタイプだな?少なくとも此処には隠し扉とか無い。

 

 そうやって探ること暫し。響く足音におれは耳を立て、一旦行動を止める。

 そうして素知らぬ顔で待っていれば、小さな足音と重苦しい足音が近付いてきて……かちゃりと牢の鍵が開かれた。


 そして、乱雑な音と共に何かが突き飛ばされてくる。

 

 「っ、と。大丈夫か?」

 入り口へと軽く駆けて抱き止めればそれは小柄な感触。

 「男はそこに入ってろ!」

 響くのは聞き覚えの無い男の怒声、恐らく別の聖騎士団の人だろう。

 

 更に魔法詠唱がされたと思うや、ボゥと虚空に火球が現れる。

 「ゼノ皇子……」

 おれの腕の中に居たのはまあ何となく予想してた通り桜理で、魔法書を構えているのは……腰のパーツに特殊な金具が着いている辺り、竜鞍に乗る騎士だろう。つまり、飛竜を扱う竜騎士団の誰か……命を預ける相棒を傷付けさせる策を取らされるくらいにはユーゴに従わされている者だ。

 

 「……何用で?」

 「ちっ!」

 そのまま投げ込まれる火球をひょいと頭を傾けて避ければ、壁で炸裂して熱風が背後からおれを押す。いや案外範囲と火力広いなオイ。

 が、まあ力を込めて立ってれば倒れるほどじゃない。爆風に煽られて地面に倒れかける桜理を離さないように軽く掴む手を強めながら、おれは静かにフルフェイスの騎士を睨んだ。

 

 「気持ちは分かるが、あまり下手なことをしないでくれないか?」

 「お前が、皆の翼を……」

 ギリリと歯軋りの音が聞こえる。

 やるせない気持ちはあるのだろう。相棒を直接傷付けたのは確かにおれだ。そんな相手を前にして……

 

 「駄目だよ、獅童君」

 が、そんなおれの袖を掴んで止めてくれる者が居る。

 「……ああ、そうだな。すまなかった」

 軽く頭を下げるおれ。その頭頂へ向けて再び火が放たれ……

 「だけどな、竜騎士殿。その怒りを真に向けるべきは本当におれか?」

 それを意識していたおれはとん、と片足の脚力で天井まで飛び上がってそれを回避、横に桜理を優しく降ろしながら着地する。

 そのままじっとフルフェイスの騎士を見詰めて……逸らされたのは、兜の下の視線の方であった。

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