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野営、或いは野生

「よーし良し」

 と、アウィルの耳の裏の毛を軽く指で透きながら、おれはそんなことを呟く。白く、けれどもふわふわというよりはかなり硬質の毛は犬っぽくても確かに伝説の幻獣なんだと理解させてくれる。

 

 いやまあ、道中当然の面して雷でワイバーンとか叩き落としてたから間違いないんだけどさ。餌だとばかり牙を剥いて襲ってきたあの竜が可哀想になったレベルだ。

 

 「これが幻獣の力か。報告では聞いていたけれど、実際に見ると中々に脅威だ」

 と、呟くのは天馬……ではなく普通の馬に跨がるルー姐。何時もは駆る天馬は目立つから置いてきたそうだ。

 「ああ、ルー姐は話だけは聞いてたって感じだっけ」

 「まあ、時折魔神族が出現したと聞いて向かえば天狼が襲い掛かっていた……という報告をされる程度。魔神が居なくなれば立ち去る彼等と矛を交えたことは無いね」

 その話からして完全に人類……というか世界を護りに駆け付けてるだけだからな。それを狩ろうという方が危険思想だ。

 確かに天狼素材っておれの月花迅雷しかり魔道具に加工すればトンデモ性能になるんだけど、その為に天狼種を狩るのは現実的じゃない。まあ、アウィルの抜け毛とかでも素材になるっちゃなるんだが。

 

 閑話休題。

 そんな風にのんびりとした空気を纏うのはおれ達皇族二人くらい。

 「た、食べられるかと思った……」

 ぶるりと肩を震わせて怯える桜理、涙目でアウィルにしがみつくアナ、そんなアナを慰めようとしながらおれに厳しい目を向けてくるエッケハルト。残り三人は割と厳しい評価を下していた。

 

 「なあゼノ、本気でアナちゃんや俺を連れてくのかよ」

 不機嫌さを隠す気もなく青い目で睨んでくるのは焔髪の青年。

 「というか、あんな牙を剥いたドラゴンが襲ってくる場所を通るとか正気かよ!たまたま撃退できたから良いものを」

 『ルグルゥッ!』

 抗議するようにアウィルが吠える。今は人間の言葉に訳してくれていないが、恐らくは『流石にヘマしないんじゃよー』くらいの意味だろうか。

 

 「もっと安全な道を」

 「流石にもうアナ達にも最低限のレベルになって貰わないと困るだろ。それに、こうして荒れ地を進むべきだ」

 「なんでそうなる!アナちゃんの体力的にもまともに街道を行けば野生のドラゴンに襲われるような」

 「エッケハルト。あいつは野生じゃないしワイバーンだ。全く違う」

 「ドラゴンでもワイバーンでも良いだろボケが!」

 くわっ!と目を剥くエッケハルト。それを愉快そうに見守るルー姐と、慌てておれを庇おうとして……間に入れない桜理。うんまあ、理不尽にキレてる相手って怖いわな。

 「まあ、それは一応訂正してるだけだが」

 「えっと、何か不思議な気配を感じましたけど、野生じゃないってそういうことですか皇子さま?」

 「そういうこと。歯の間に仕込まれた毒袋も見えた。恐らく興奮材も使われていて、あの毒は吐き気を催すあれだろうな」

 ノア姫が呆れていたシュリが薬なんじゃよしてきたあの毒草だ。似た香りがした。

 

 「つまり、興奮状態でかつ空腹なのに物を食べたら吐いてしまい、暴れていた訳だ」

 狩りをする際に罠を仕掛けるのはまあ当然で、おれみたいに正面から殴り勝てるアホじゃなければワイバーンを狩るなら工夫は基本だ。だが

 

 「それ、狩るために」

 「狩るために、完全に拘束して顎に仕掛けを施して、そっから逃がしたのか?狩った方が数倍楽だぞ」

 「じゃあ調教しようかと」

 「卵からしっかり育てれば家族のように懐くぞ。成体を調教するとか何千年前の手法だ」

 ルルゥとアウィルが得意気に鳴いてるがまあ、卵というか生まれたてから幼少にかけては育てたようなものか……

 いやそれで良いのか天狼と思うがそれで良いんだろうな……

 

 「いやそういう話かよというか詳しいなオイ」

 「アナにはまあアウィルが居るとしてだが」

 というか、多分暫くしたら天狼ラインハルトも駆け付けるだろう。原作だと割と面倒な参戦条件を満たさないとそもそも参戦してくれないが、この世界ではそんな話はない。ってか、多分ルー姐が言ってる天狼って武者修行中の彼だろうし、ほっといてもそのうちアナを護りに来てくれそうだ。

 「じゃあリリーナ嬢は?ってことで、彼女の為にドラゴン見繕ってたら色々と教えられた」

 そのお陰で割と良いドラゴンが選べたと思う。孵るまで時間がかかる卵にしてしまったせいで孵化には立ち会えなくなったが。

 

 「あっそう勝手にしてろ」

 興味無さげにエッケハルトは告げた。

 

 「あ、皇子さまがリリーナちゃんに色々と言ってたのってそれだったんですね」

 と、顔を上げたアナがへーと呟く。

 「まあな。アナには無いぞ、多分ドラゴンなんて付けたらアウィルもラインハルトも臭いって拗ねるから」

 『ワゥ!』

 と、アウィルがおれの投げた骨を器用に雷で打ち返して咥えながら吠えた。

 というか骨で遊んでて良いのか伝説の狼。これじゃ伝説の犬だぞ。

 まあ良いのだろう。母狼の方だって刀振り回してるおれと遊んでくれたりと割と人懐っこいというか人の姿してたら多分取っ付きやすいノア姫って感じの性格してたしな……

 

 「俺には」

 「自分で買え辺境伯」

 それくらいの金はあるだろ。こっちはアイリスのお陰で足りてるとはいえ頼勇のLI-OHの改造だ何で費用かつかつなんだよ割と。

 

 そんなおれ達を、女装した青年と男装?の少女が横で眺めながら何か話していた。

 

 「まあそれは良いとしてだ」

 一息付きながらおれは告げる。アウィルだけなら全力で駆ければ一日掛からず辿り着く距離だが、人数が多いので今日は此処に泊まりだろうと野営の準備を始めたところ、エッケハルトの冷たい視線が突き刺さる。

 「野宿かよゼノ」

 「悪いが野宿だ。変な事仕掛けてきた相手が居るのはさっきのワイバーンで分かるだろ?聖都でまで仕掛けたら流石に問題になるのは向こうだが、まだ帝国領土な以上下手人が分かるまではあまり他人を巻き込みたくない」

 と、おれは肩を竦める。本来はまあアナとしても……

 

 「じゃあ、わたしが今日の御飯作りますね!」

 ……案外聖女は逞しかった。いや、おれが昔変なところに連れ出したりしたせいかもしれないが、こういう時に割と美味しい御飯を作ることに命懸けてる感があるというか……

 それを見て、焔髪の青年はがっくりと肩を落としていた。

 

 「……ってか、本当にあいつは変なのかよ」

 「変に決まってるだろ」

 「今も遠巻きに狙ってる個体が……3頭。天狼種相手に襲い掛かるワイバーンの顛末を見て、尚も逃げないなんて完全に何者かに野生個体に偽装されているだけの襲撃者確定だよ」

 と、おれを補足するルー姐。

 「あ、こういう外での料理は塩気を気持ち強めにした方が美味しく感じるから宜しくね」

 なんてアナの料理をふんふんと見る姿を魅せつつ、警戒心はmaxだろう。

 

 「ヤバくね?帰ろうアナちゃん」

 「いや所詮ワイバーンだぞ。寝たら襲ってくるだろうが余裕で勝てる。帰る理由が無い」

 そんなおれの横で、行儀良く座ったアウィルが相槌を打つように吠えた。

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