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後処理、或いは急転直下

突如姿を消したラウドラに、おれは刀を納刀したまま腰に構える。何処かから奇襲を仕掛けてくるのか、それとも……

 

 だが、(あか)き毒光を放つ紫翼の龍神が急襲してくる気配はない。暫くして、完全に何処かへ……というか恐らくは本拠地であろうトリトニスから更に向こうへと姿を消したのを感じて、おれはふぅと息を吐くととん、と愛刀の柄を叩いた。

 

 同時、変身が解除されてぽん、とおれから猫ゴーレムが分離する。

 「お疲れ様、アイリス」

 そんなおれへ向けて粒子砲が放たれるも、無造作にシロノワールが槍を振るい叩き伏せた。

 

 見れば、苦々しげにイアンが粒子に包まれて何処かへとラウドラを追うように逃げていくところであった。それを寂しげに耳を伏せて見送るのはメイドの少女で、そんな彼女を護るようにひょいと二人に分身したロダ兄の片割れがその体を背負い、傷だらけのもう一人が剣を持って盾となっていた。

 

 「にぃ、に……」

 「お前なんか」

 「んな事言うんじゃねぇよ、家族って縁は切れやしないんだから」

 背の雉の翼を閉じて、ボロボロの方のロダ兄がそう告げ、黒鋼の戦士の姿も完全に消えた。

 

 「って事で、本日はこれまでって事にしようか。また次回お楽しみにって話だな」

 と、パン!と手を叩いたロダ兄が締める。

 「次回があるのか」

 「無きゃ困るだろ?こんな不完全燃焼、あっちに本気で決着をつける気が無いままに終われないってこった」

 けらけらと青年が笑う。釣られたように、蒼白な顔を続けていたネズミ少女がほんの少しだけ顔を綻ばせた。

 

 「……シロノワールは無事か?」

 「聞くほどか?」

 「だろうな」

 見ただけで分かる。ただの確認だ。

 

 それを終えて、おれはゴーレムを見る。

 うん、普通に動いてるし平気そうだな。

 「アイリス、ゆっくり休んでくれ」

 「……うん」

 素直にぷつっと電源が落ちたように猫ゴーレムが停止した。というか、今回はアイリス本人居ないんだよな此処には。ゴーレムだけだ。

 だから、これでひと安心。

 

 そうして仲間の事後処理を終えて、おれは二人に向き直った。

 既に完全に事切れたラサ男爵。その遺体は最早ミイラってくらいに乾ききっている。その彼は……敵であったことは確かなので後で簡素に葬ることにして、今は残された子爵組だ。

 

 「んじゃ、任せんぜワンちゃん」

 と、丸投げしてくるロダ兄。信頼されているのだろう。だから間違えるわけにはいかない。

 

 「リセント子爵」

 呆然としたままの彼に話しかける。返事はないが、一応此方を見た。

 「イアンの事は……何と言って良いか分からない。だが、貴方が奴隷を私利私欲の為に殺そうとした事が、彼の暴走の引き金になったことは確かだ」

 虚ろな目で頷かれる。いや、もう少し何か反応してくれないだろうか。

 

 「リセント子爵。ロニ・バルクス殺害未遂、及び奴隷法違反で帝国皇子として貴方に求刑する。

 終身懲役。貴方がもたらした災禍、イアン・バルクスの暴走を止める日まで、貴方に対して機虹騎士団においての対処義務を与える。当然、これは懲役だから最低限の生活費以外は出ない」

 元々こうする気だったものに近いものを、おれは座り込んだままの青年に対して片膝をついて目線を合わせながら告げる。え?終身なのにって?そもそも終身って期限決めてないって意味だからセーフだ。

 それに対して、小さく青年は頷いた。

 

 「あと、一応告げておく。貴方はアイリスの婚約者には相応しくない」

 「……間に、入れる……はずも、なかった……」

 いや誰と誰の間だ。おれとアイリスは兄妹だぞ?

 

 思わず半眼になって突っ込みかけるが堪えて、おれは背後を振り返る。

 うんうんと頷くロダ兄。割と合ってたのだろう……というか、この対応を期待して投げてるだろうな。

 

 「ロニ、君はどうする。このまま彼の元で、お兄さんが帰ってくるまで」

 「やだ!」

 ぴっ!とロダ兄の背後に隠れるネズミメイド。うん、まあご主人様にゴーレムの素材にされかかって、はい元鞘とはいかないか。

 

 「どうする、ロダ兄?」

 「いや別に、これも縁よ。俺様が暫く面倒見るぜ?」

 気にしてなさげに手を振る青年に、おれはそうかと軽く頷いた。

 

 「んまあ、ただ俺様この国の国籍とかまともに無いから、ワンちゃん用意してくれよな?」

 「あ、」

 

 そういやすっかり忘れていた……。一応ロダ兄って外国人だったわ。外国人が奴隷を形式的にとしても持つのは不味いし……

 「じゃあ頼むよルパン準男爵。こちらで騎士の位と爵位は用意するから」

 と、おれが選んだのはそんな道。そう、頼勇と同じく騎士団に組み込んで騎士にしてしまう手段であった。

 「オッケー、任せなワンちゃん!

 んでよ」 

 と、青年の指がおれの胸元を指差した。

 

 「その赤いの何だ?」

 見れば、おれの服の胸元にはラウドラから放たれた……確かアマルガムとか言う名前の結晶が軽く刺さっていた。

 

 何だろうなこれと少し考えるが、割と早く結論が出る。

 「多分だけど、奇跡の野菜の大元……かな?」

 シュリが色々話してくれたが、かつての彼女は特定の毒を求めて生かされていたらしい。そして、ラウドラはこれが欲しいんだろと叫んでいた。

 つまり、これこそがかつてのシュリが生産を求められた心毒の結晶なのだろう。いや、此処にあって何か出来るかは怪しいがな。

 

 「んー、ま、俺様に何とか出来るもんでもないか。帰ろうぜ」

 その言葉に頷いて、おれは皆を伴って屋敷を出る。途中で騎士団に子爵を預けて幾つか手続きがあるのでロダ兄達とも別れ、足取りはあまり軽くなく学園への家路につく。

 

 ある程度元のゲームでの話は知っていて、それでここまで酷いことになるとは……まだまだ反省し足りない気がして。

 そうして、学園に戻ったおれを待っていたのは……

 

 「……エッケハルト様は、何処か……」

 「っ!異端抹殺官殿!?」

 両腕が肩から無く、片足が膝先で千切れたものを魔法の靴で何とか補強した。そんな死に損ないの一度だけ出会った青年と、どうしようかしらとでも言いたげなノア姫、あわあわしている桜理であった。

 

 「何があった!」

次回予告


「頼む、ヴィルジニー様を……救ってくれ。聖女様、エッケハルト様……」

死に行く者から託されたのは、かつて助けた少女の未来。

「お願いだ。己を神と思う教王ユガートを……」

対峙するのは、出来ればまだ戦いたくはなかった、銀腕の超兵器と、アステールを実質人質にした青年。

避けられぬ運命が、聖教国へとゼノ達を導く。

其処で起きるのは、どうしようもない戦い。戦力不足のままにアステールの……託された想いの為に聖教国の為に奔走する中で、一つの雪花が覚醒する。


次回、蒼き雷刃の真性異言(ゼノグラシア) 第二部四章 極光の聖女と強斧の救世主エッケハルト


『そうです!だからこそわたしたちは戦うんです。

聖女様だからじゃありません。七大天様が見守ってくれているこの世界は……わたしたちが生きる世界なんですから!神様の奇跡を信じるだけじゃなくて、自分達で護りたいから。

だから、わたしに龍姫様は力を貸してくれたんです!忌み子だ何だ非難されても必死に世界を護る、わたしの大好きな人を助けるために!』

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