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虹の祈り、或いは新たなる姿

「っ!ぐぎっ!?」

 全身から吹き荒れる雷と冷気、これは……

 そうか、ティアーブラックのやってきたものと同じような覇灰暴走か!

 

 寂しい、辛い、苦しい……様々な死んでいった者達の負の想いが冷気となっておれの全身を凍てつかせていく。制御しきれない、抑えられない、全てが凍り付いていく。

 それでも何かをと動こうとするがそれすらも出来ない程に固まっていって……

 

 「アマルガムは効くだろうヴィーラ?君達人間が求めた心の毒、存分に味わって死んでいけ。君だって覇灰側、おぞましい絶望を纏う者。その絶望で滅びてしまえ」

 求めた……とは。

 そう叫びたいが、口を開こうとしても装甲が氷の拘束となり、喉が凍りついて息すら通らず声にならない。

 

 ……どうする。

 どうすれば良い?あの時の頼勇達のように為す術無くなんて訳にはいかない!だが、そんなのあの時の彼等だって同じだった筈だ。暴走する絶望の冷気、制御が効かなくなった覇灰の力の一端を押し留めることなんて……

 

 だが、その瞬間。首筋にふとふわりと暖かなものが触れた。

 それは……

 「お兄、ちゃん……」

 首筋にしがみついてくる小さなオレンジ色の仔猫の姿。そう、アイリスのゴーレムだ。人間姿のものでは吹雪く暴走の影響をあまりにも受けるからか小さく纏まったゴーレムを操るアイリスが、自身も半ば凍てつきながら懐まで飛び込んできていた。

 

 「あ、う……」

 響くのは苦しげな声。一人だけゲームで撃破されても何の影響もない(普通死ぬし、何なら特別枠の始水(ティア)ですら数話の間は戦闘形態取れませんと離脱する)事から分かるように、本来ゴーレムって倒されても本人に影響がないくらいのものだ。それが明らかに術者が苦しそうな声をあげるのは可笑しい。あり得ないダメージが本人にフィードバックされている。

 可笑しいのだが……そもそもこの冷気自体が世界的に存在しない覇灰の一端、そんな矛盾も起こるか!

 

 「駄目だ、アイリス」

 凍てついた喉で、何とか言葉を絞り出す。それだけで痛みが走り、肺に無理矢理凍った声帯を震わせた事で割れて溢れる血が流れ込む。

 

 「駄目じゃ……ない」

 「体が、持たない」

 「お兄ちゃんも、同じ……」

 「だから!」

 「だから……一人に、しないで……」

 そのまま少しでもおれを暖める防寒具にでもなろうというように、ゴーレムは必死におれに覆い被さる。頑丈さだけは馬鹿げたおれとは違う少女の幼い悲鳴がおれの耳に響き渡り、周囲の猛り狂う霰に掻き消されていく。

 

 くそっ!と毒づく。このままでは飛び込んできたアイリスが先に力尽き、そのままおれも凍り付く。そんなの!

 

 『一人に、しないで』

 

 そんな妹を!おれは!

 

 その刹那、おれを庇い、おれから噴き出す冷気でズタズタにされて内部が見えたゴーレムのコアが、暴走する愛刀と共鳴するように光った。

 

 不意に体が楽になる。

 あれだけ遺志を剥き出しに荒れ狂っていた凍てつく嵐が収まっていく。

 代わりにおれの全身を覆うのは、アイリスの心からの叫びに呼応したような寂しさと悔しさ。

 

 そうだ。そうに決まってる。どれだけ恐ろしくされていても、世界を灰に覇する力に変わっていても!大元は人々の絶望。

 それを始水は語ってくれた。死が産む苦しみと絶望からそれらを排する為に生というシステムを、生きてきたという人の歴史そのものを終わらせんとした慈悲の救世主、それが覇灰皇。

 そんな彼の感じてきた死の絶望のなかにはきっと、大事な人を遺していく悲しみ等が無数に含まれていたろう。その想いが、切なる願いが……アイリスの決死の叫びによって呼び覚まされた!

 

 ならば!行ける!制御が効かないから力は暴走していた。こうして、アイリスの想いに共感してくれている今ならば!

 敵を倒す想い、撃滅の雷に変える何時もの方式ではなく!そんな荒れ狂う怒りではなく共に生きたかった想いを紡ぎ!

 

 「アイリス!行くぞ!」

 「任、せて……」

 「シンギュライド!feat.アルコバレーノ!」

 想い描くままに叫ぶ。

 刹那、妹が乗っていたゴーレムがイアンの装甲のようにおれに飛び込んできて鎧と変わり……全身の装甲がほぼ全て蒼輝霊晶であった素の姿から一転、猫のような兜を被った新たな鋼の騎士として姿は新生する!

 

 「「スカーレットゼノンッ!アルコバレーノ!アルビオン!」」

 「……っ!」

 「教えてやる、ラウドラ!」

 そうしておれは、全身を覆うように展開された妹の想いを感じて、暴走を収めた愛刀を鞘に納めるとぽい、と地面に置いた。

 

 「……は?」

 「戦うばかりが勇気じゃない。貴女と戦う気はない、何度も言ってきた筈だ」

 「何を言っているんだお前は!?僕はっ!貴様に死んで欲しいだけだ!他に何も求めてない!それすら難しいのか!」

 「……ああ!」

 

 その瞬間、少女龍神の背から放たれるビームがおれを襲う。

 「結晶を脱ぎ捨てて!死に急いだのかい?」

 「違うさ」

 が、それはおれの眼前で止まる。戦うために、速度を上げようが耐えきれるように全身に結晶の装甲を纏う素のアルビオン形態は確かに強い。今の姿より大元の防御力、機動力、そして火力も上だろう。だが!

 

 「そもそもだ。アイリスの想いがおれを護ってくれる。おれ自身が硬い必要なんてないんだよ」

 愛刀から放たれる障壁がおれと、そして置いていかれている子爵とそのメイドを護るように展開され、ビームを受け止め消滅させる。

 

 そう、今のおれ……スカーレットゼノン・アルビオンは半ば生きたAGX状態、それもアイリスの願いが産んだ大事な人と生きたかった願いに想いを集約した姿!元より護るための障壁展開には長けている!

 素の装甲が結晶で無くゴーレムになろうが、アイリスと共に盾を産むから事実上無意味な弱体化だ。まあ、火力と機動力は実際大幅に落ちたままなんだが……これはおれに無かった生存特化の姿だ、火力なんてそんなもの今は要らない。

 

 「お前は!」

 何処か忌々しげに龍神は叫び……

 

 「帰る」

 防御特化に嫌気が差したのか自棄にあっさり、その姿を霞ませていく。

 「紛い物の願い人どもが。本音はもっと醜いだろうに。

 でも、良いよ、僕は寛大だからうざったい君達にも暫くの猶予をあげる。その間に死んでおいてくれないか?

 帰るぞ、そこの!」

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